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義姉と義弟が巡り会う件。

ご無沙汰しておりますm(_ _)m

後半少し人によっては不快になられる残酷描写がありますのでご注意をば。


○これまでの簡単なあらすじ


メリアーゼの祖父にして宰相であるゼルガ・ヴァンゲリスによる夜会での襲撃を越え、停魔法の騒動によりジョシュアとの気まずくなりながらも、メリアーゼ、ジョシュア、アリス、リリア、ニーナ、セシルの六人は学院のイベント“学部祭”に参加していた。


しかしその最中、メリアーゼが宰相に攫われてしまう。

なんとか居場所を探り、ジル先生の助けを借りて脱出を試みるジョシュアたちだったが、ジル先生が言った「メリアーゼとは誰か」という質問に困惑を隠せないでいた。


一方、何も知らないまま宰相と対峙したメリアーゼ。

持ち前の天然さで宰相のペースを乱すものの、ついにその手によって無理やりに“もう一人”へと覚醒させられてしまう……。

紫の瞳が、ゆっくりと開いていく。

それと同時に、口が笑みの形に歪んでいった。


「お久しぶりですわ、お祖父様」


皮肉的にも、正しく家族に向けるような優しさを込めて、“もう一人のメリアーゼ”は言った。


同じ色の瞳が向かい合う。

宰相の顔が苛立たしげに顰められて、苦く言葉が吐き捨てられた。


「お前に祖父と呼ばれる筋合いはない」

「あら、残念です。もう一人の私とは、あんなに穏やかに話してくださったのに」

「黙れ」

「ふぅ……分かりましたわ」


メリアーゼは呆れ混じりに、降参するように軽く腕を上げた。

身体の動きにつられてか、ジャラリと鎖が鳴る。


あら悪趣味ですね、とメリアーゼはうすく微笑んだ。


ギロリと鋭い瞳がメリアーゼを睨みつけた。

さっきまでのメリアーゼならば怯えただろうが、今の彼女には何の脅威でもない。


もう一人は分かっていない様だが、メリアーゼの結界はこの世界に並ぶ者はいないだろうという出来だ。

つまり——この防御結界をまとっている限り、メリアーゼを害すことは不可能。


それを両者ともに分かっているからこそ、一方は余裕に、そしてもう一方は苛立たしげに視線を交わしていたのだった。


「それにしても、何がジョシュくんが来ると信じているのか、ですか。元よりここに呼び寄せるつもりなのでしょう? こんなところ(・・・・・・)に私を連れてきておいて」

「……」

「あら。否定はなさらないのですね。しかし、どうやってここに……」


言いかけて、メリアーゼはクルリと辺りを見回し、あるものを発見した。

もう一人の自分が見れば、おそらく気分を害したことだろう、とふと思った。


「なるほど、そういうこと(・・・・・・)でしたの。本当に——悪趣味、ですわね」

「煩い。……自分の役割は、分かっているのだろう、化け物(・・・)

「化け物とは酷い言種ですこと——いえ。もちろん、分かっております。早急に“力”を目覚めさせること、そして」


メリアーゼは、そこで一旦言葉を切って、表情を消した。


「殺されること」







×××





「ああ、お待たせしてしまったようですね」


唖然とする僕たちに、続きは場所を変えてから、と言ってから数分ほど。

アリスの空間魔法によって第二校舎の裏に来た僕たちに、ようやくジル先生が合流した。


普段よりいくらか真面目な顔をしているものの、浮かべられた笑みはやはり胡散臭くて信用ならない。


開口一番、僕は先生に質問した。


「あの。さっきの言葉は、どういう意味だったんですか?」

「え? ああ、あの場ではそういうしかなかったのですよ。監視の目がありましたので」

「……監視の目?」

「ええ」


ですので、あのように振舞わせてもらいました、とジル先生は続けた。

意味が分からない。


「どういう、ことです?」

「そうですね……簡単に言うならば、私以外の学院のものは皆、メリアーゼさんのことは忘れているのですよ」

「なっ! どうして!?」

「恐らく魔法によるものでしょうね。だからこそ、魔法耐性の強い私には効かなかったのでしょう」

「魔法……」


頭によぎる。記憶をなくすなんて魔法は聞いたことがないが、印象操作の魔法。

あれならば、もしや。


アリスの方を見れば、同じことを考えたのだろう、頷きが返ってきた。


「エドウィン・シュルツか……!」

「ええ、恐らく」

「おや。心当たりがあるのですね?」

「ええ……けれど、それならば何故クロ君から連絡がないのでしょう? 何か問題があった訳でないと良いのですけれど……」


アリスがボソリと、けれど憂い顔で呟く。

ここでどうしてクロードの名が出るかは分からないが、それも暗躍の一部なのだろう。

必ず後で詳しく話を聞こう、と決めた時。


ああそうでした、とジル先生が声をあげた。


「アリスくんは、居場所の探知が出来るのでしたよね? メリアーゼくんの場所も既に?」

「え、ええ。隣国エウトゥーゼの王都付近と……」

「王都付近? そんなはずは無いですよ」

「え?」


ジル先生の言葉に、思わず驚きの声が出た。

何故、ジル先生がそんなことを言えるんだ? ……まさか。


僕がそんな思いでじっと見れば、それは勘違いですよ、と心を読んだような声が返ってきた。


「何にせよもう一度、居場所探知をやってみるといいと思いますよ。あの周囲の空間はどうやら、魔法を狂わせるような機能も有していたようですから」


万全を期したほうがいいのは確かだ。

だから、アリスが再び居場所の探知を始め、ニーナが地図を出すのを僕は黙って見ていた。

けれど、それとジル先生の信用の問題はまるで別だった。


「あなたは、何を知ってるんですか。それに、手を貸してくれるのは、アリスの見つけた何かが理由……本当に、それだけですか?」

「おや、疑り深いのですね」

「あなたを信用していないだけですよ」

「それは悲しいです」


と、ジル先生は全く悲しくもなさそうに言う。

おちょくるような態度が腹立たしいことこの上ない。


「しかし、私とて、命の恩人の娘さん(・・・・・・・・)を放って置くほど、恩知らずでも薄情でも無いのですけどね」

「命の恩人?」

「ご存知ないのですか? 私はかつて、あなた方のお父上、レオンハイト伯爵に命を救ってもらったことがあるのですよ」


初耳だ。

いや、考えてみれば、あの人のことで僕が知っていることは驚くほど少ないのだ。


アリスの方をちらりと伺う。

まだ時間がかかりそうだった。


「ジョシュアくん、一つ質問して良いですか」

「……何です?」

「今回の件、黒幕にいるのは宰相——ゼルガ・ヴァンゲリスで、違いありませんね?」

「何故それを!?」

「ああ。メリアーゼくんが狙われたとあれば、そう考えるべきだろうと思いましたが……やはりそうでしたか」


ジル先生がニコリと笑う。


——はめられた。

そう気付いても既に遅い。

僕の失言は、ジル先生の推測を裏付けてしまった。


自分の迂闊さを呪う僕の心情を知ってか知らずか、ジル先生はなれば、と続けた。


「なれば、なおさら王都の近くだなんてありえませんね。そんな甘いことをする人物ではありません」

「甘い?」

「ええ。中途半端な、と言っても良いでしょう。あの男は、常に他人の最も嫌がる選択をしますから……いえ。あの男の選ぶ選択が常にそうなのですよ」


真意の読み取れない、しかし、どこか空疎な声音でジル先生は言った。


僕は、ジル先生があの男に、嫌悪以上の何かを抱いているのを感じ取ったが——それより他は分からなかった。


「ジル先生……あなたは一体」

「ジョシュア様!」


何を知っているんですか。

そう言おうとして、その言葉はアリスに遮られた。


地図を見る。浮いた点が場違いに明るく光っていた。


「確かに場所がずれておりました。正確な場所は、エウトゥーゼ王宮の深奥部……恐らく玉座の間に当たる場所と思われます」

「——っ!!」


ああ、確かに。

僕の最も嫌な選択だ。

故国だなんてもんじゃなくもっと正確に、僕が絶対に帰りたくない場所だなんて。


「……どうしますか?」

「何をですか」


ジル先生の質問に、視線を地図から離さないまま答える。


「あなたはそこに行きたくない——いや、行けないのでは?」


ジル先生は初めてそこで笑みを消した。

けれどだからこそ、僕は苛立った。


試されている、のだ。

僕の覚悟を。僕の意思を。


「行きますよ。行けなくても、行きます」


ジル先生の瞳が一瞬、驚きに揺れた。

恐らく僕に、こんな即答できる覚悟も意思もないと思っていたのだろう。


ああ、その通りだ。でも。


「囚われているのは、僕の(・・)姉さんですから。必ず、取り返しに行きますよ」


僕には、姉さんへの愛がある。


ジル先生は、なるほど、と本当に感嘆するように呟いた。

心が読めるだかなんだか知らないが、僕の愛の深さまで読めないなら大したことはない。


「アリス、空間転移を」

「は、はいっ!」


指示を出せば、アリスがどこか安心したように頷いた。

アリスまで不安に思っていたのだ。

まぁ、前科があるからこちらは仕方がないのかも知れないけれど。


「ああ、そうだ。ジル先生、あなたとあの男……そして父の関係って、一体何なんです?」


アリスの魔法が発動するまでの数秒。

聞き忘れていたことをふと聞いてみた。


「関係ですか? そうですね……あの男の作ったものが私を殺しかけ、そしてそれをあなたのお父上が殺した、そんな関係ですよ」

「……?」


また煙に巻くような言い方だ。


「その“もの”っていうのは?」

「ああ、それは——」

「魔法、発動します!」


アリスの叫びとともに、一瞬視界が白くなる。

その中で、僕は確かに答えを聞いた。








「姉さん!」


気づけば、アリスたちとはぐれて僕はそこ(・・)にいた。

憎々しいあの男や叔父の姿は見当たらなかった。ただ、姉だけがいた。


目をつぶったまま寝そべる姿に、心臓が跳ね上がる。


「姉さん! 姉さん!?」

「うぅ……ジョ、シュ……」

「姉さん……!」


生きていた。

それだけで、安心して抱きしめた。

温もりが腕の中にあることが、ひたすらに嬉しかった。


だけど、もしも。

もしもその場にアリスがいたなら。


いや、アリスでなくてもいい。

僕より少しでも冷静な誰かがいたなら、状況は変わっていたかもしれない。


誰もいないことを不自然に思う誰かがいれば。


僕は、あまりに姉さんが無言だから、きつく抱きしめすぎたかと思わず離した。

ジャラリという音が鳴って、その時やっと鎖に気付く。


「ああ姉さんごめん、動転してて気づかなかった。痛くない? 今外して……」

「ごめんね」

「……え?」


姉さんは、僕を弾き飛ばした。

グッと声が漏れる。

それぐらいに強い力だった。


姉さんはゆっくりと立ち上がって僕を見た。

目の中にある光が僕を捉えて、僕はハッとする。


「お、前は……!」


本当に動転していた。だから気づくのが遅れた。

今となっては、言い訳にもならないけど。


姉さんの顔をした姉さんでない人は、しかし姉さんらしい表情のまま、泣き笑いのように言った。


「ごめんね、ジョシュくん」


ゴポリ。

ギュルリ。グジャ。

グギギギ。ビギャリ。


言葉と同時に、おおよそ人体からしてはいけない音が姉さんの体から聞こえてきた。

姿を変えて、膨れ上がるその身体から。


呆然とそれを見ながら、僕はジル先生の言葉を思い出していた。


『あの男が作ったものというのは——』










『竜、ですよ』







それは、恐らく今。

姉さんが変わろうとしているモノの呼び名。

しばらくシリアスします。

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