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義弟と義姉が離れ離れになる件。3

長いです。

前話にあらすじがあります。

姉さんを、助けなければ。






「何をそないに驚いとるん? まぁ確かに驚くような場所ではあるけども、そこまで深刻な顔するほどかいな?」


姉さんの位置を示す赤色の点の明滅を見て、一人声を上げたのはセシルだった。

他は、恐らく僕と負けず劣らず、セシルの言う深刻な顔をしている。

ああ、ニーナという女は除く。驚愕も困惑も、まるでその顔にはない。


「驚くも何も……いや、あんたは何も知らんのやったっけ」

「無知は罪、とはまさにこのことですわね……」

「ああ、なるほど。セシルさんはご存知ないのですか。でなければ相当の馬鹿、いえ、これ以上は私の口からは」

「これ以上も何も、もう言ってもうとるからな!?」

「うるさい!」


非常事態なのに幾分か和やかに会話する面々を、僕が思わず睨みとともに怒鳴りつけると、セシルはホント何やの、とつぶやいて口を噤んだ。


セシルにまで語る気はない。王子という立場の者が僕の秘密を知ることは、けっしてプラスには働かないだろう。

すでにリリアーヌとニーナという女には知られてしまっているようだが、しかし、それとて本意のことじゃあない。


「ともかく、ジョシュア様とこの場所——隣国エウトゥーゼは因縁が深いのですよ」


アリスがそう言えば、セシルは納得いかなそうにふうん、と返した。


しかしなんにせよ、居場所は分かった。あとはアリスの空間魔法で行く、それだけのはずだったのに。



むしろ、問題はここからだった。



「外に出られないって……どういうことだよ!? アリス!」


アリスの放った一言によって、再び僕たちは混乱の最中に追い込まれていた。

アリスが珍しくも苛立ったように前髪をぎゅっと掴むと、絞り出すような声で吐き捨てる。


「くっ……! 私の失態です」

「何がだよ!? あの男だって空間魔法を使っていた、ならアリス、お前だって使えるはずだ! 違うのか!?」

「ええ、使うことは出来るのですよ! 現に、居場所の探知とて出来ました。しかし、相手にやられました。この空間の周囲に、別の空間を発生させています!」

「はっ!?」


意味がわからない。

つまりどういうことなんだ、と俺が問えば、アリスは髪を握りしめたまま口を開いた。


「よろしいですか、まずこの地下迷宮は実際に地下にあるわけではありません。別空間に構成した迷宮に、地下の入り口を用いて私たちを転移させているだけです。ですから、空間位置が分かれば空間魔法とて使用可能なのです」

「……ここの場所がどこか分かれば、空間魔法が使える、と。要はそういうことだな」

「ええ。恐らく出口に書かれていると思われる魔法陣も、空間魔法と同じ仕組み、空間転移をするものでしょう。しかし起点の座標把握が可能であって、目的地までに別空間が存在してしまえば、計算は全てズレるのです。しかも、その空間の大きさ、広さが分かりません。別空間を一つの壁と例えるなら、それの厚さも高さも分からないで越えようとしているのと同義です! 今ここで空間転移を行ったら——壁の中などに転移しかねないんですよ!」


壁の中に転移するってことは、壁にめり込んだ状態になる……つまり、死にかねないってことか。


「どうするんだよ!? その別空間を壊すことはできないのか!?」

「あいにく、魔法の解除は専門外です! ただでさえ本人しか解けないのが普通なのですよ!?」

「だけどっ! じゃあ一体どうすれば——!」

「あの」


と、言い争う声に割り込むように、一つの手が上がった。



×××



「えっと……」


沈黙ほど居心地の悪いものはないと思う。

というか、私は沈黙が苦手だ。すごく苦手だ。


「あの、おじいちゃん? いや、お祖父様?」

「……後者で呼べ」

「あっはい!」


ジョシュアは来る、だなんて宣言してしまった手前、困ったことに何を話していいのか分からない。

いや、そもそも相手は誘拐犯なんだから、会話しようとするのが間違ってるのかもしれないけど。


「えっと……ジョシュア、来ないですねぇ……?」

「来れないように数多の術をかけさせてある。何を勘違いしているのかは知らんが、私は彼奴らが来るのを望んではおらんぞ」

「あれ、そうなんですか?」

「……当たり前だろう」


あ、また呆れ顔。

くぅ、あれか、これが気難しい人ってやつなのか。

名前をうっかり聞き忘れてるけど、今から聞くのも何なので内心ではスク○ージって呼んでやる! 決定!


と、内心で思ったのを感じ取ったのかは知らないけど、唐突にそのス○ルージさん(仮)が立ち上がった。


「えっ、あの、どうしました!?」

「……お前は騒々し過ぎる。それに、私が本来話すべきは今のお前ではない」

「はっ!?」


謎かけか何か!?

いや、逆にこれで「なそなぞです!」みたいに始められても困るけど!


どんどんとそのスクル○ジお祖父様(仮)は私の方に近づいてきた。

そしてバチリ、バチリと静電気のような音をさせながらも、私の手を掴む。

え、何、えっ!?


「ふむ、あれ(﹅﹅)の発現を抑えているのはこの指輪か」

「あれって何ですか!? そして、手、ちょっと!」


抵抗しようとするけど、思った以上に力が強くて手を振り払えない。

指輪がゆっくりと指から抜けて、落ちた。


なんだか、意識が揺らぐ。


「これだけでは足らぬか?……いや、なるほど、鍵はむしろこちらの首飾りの方だったか」


男の手は今度は首に伸び、ジョシュアからもらった首飾りを取ろうとした。


「だ、だめっ、それは……!」


思わず、取られないように握りしめて、それからアリスちゃんに握らないよう言われていたのを思い出した。


あれ、それは、何でだったっけ?


——そう考えるのを最後に、私は意識を失った。



×××



「あの」


と、手を上げたのは、ニーナ・ウェグンだ。

特殊な魔法を使う、未知の少女。


「あの、アリスさん。一つ質問よろしいですか」

「え、ええ……」


異常事態にも関わらず落ち着き過ぎた声に、俺たちは急に水をかけられたように戸惑わずにはいられなかった。


「別空間があるが故に転移できない。そう言われましたよね?」

「ええ」

「ならば、別空間を消せれば問題ないのですね」

「で、ですがそれは……!」

「出来ますよ」

「「え?」」


ニーナの言葉に、思わず同時に驚きの声が出た。

出来るって、そんな簡単に……。


「と言っても、私が出来るわけではありません。出来るのは、ジル先生です」

「そんな……しかし外と交信を取る方法がないだろう!?」

「いえ、それもあります。リリアさん」

「ん?」

「貴女、持っていらっしゃいますよね」


リリアーヌがなんで知っとるん、と珍しく困惑を露わにして聞けば、魔法に表示されたので、とニーナは簡単に返した。

ステータス魔法だなんて姉さんたちは呼んでいるらしいが、一体何まで見えているのか底が知れない。


「あっ、それは!」


アリスがリリアーヌが取り出したものを見て声を上げた。魔法結晶?


「んん気づいたか、アリス嬢。そうや、これはあんたの弟くんから教わった魔法や。あの夜会の折にな」

「えっリリア、聞いたのは俺の弱点だけやなかったん!?」


しばらく口を出していなかったセシルが、何のことだかよく分からないが驚きの声を上げた。


「アホ、な訳ないやろ!? ウチを何やと思っとるんよ!と言っても弟くん……クロードくんのより性能は少し劣るけどな。掛かった時間も倍やしね」


自嘲げに言って頭をかきながら、リリアーヌは続ける。


「まぁ、これでジル先生の机にあるいっぱいの魔石、そのどれかに繋ぐことくらいは出来るはずや。ん、アリス嬢」

「え?」

「あんたが繋ぎや。一番やり方分かっとるやろ?」

「ええ……ありがとうございます」


アリスがその結晶を受け取って、言葉をいくつか呟けば、結晶から雑音が溢れてきた。

間違いなくジル先生の元へと繋がったらしい、かちゃりかちゃりと実験器具が鳴らすガラスの音がする。


「私に」


ニーナがそう小声で言って手を伸ばす。

アリスは一つ頷き、その手の上にそっと置いた。


「聞こえますか、ジル先生」

『ん? この声は……』

「魔石を用いた交信術です。聞こえていますか」

『交信術? しかし……」


訝しげな声が向こうで上がる。

思わず、他の面々は無言になって二人の会話を聞いていた。


『ニーナくん、ですね。幻聴ではないようですが……君はまだ学部祭の最中であるはずでは?』

「ええ、ニーナです。緊急事態が発生しました。手助けをお願いしたいと」

『ほぅ。私に手助け? さて、何でしょう』

「ある術式の解除です。医療魔術の基礎は解呪解術、先生がよくおっしゃってることでしょう」

『なるほど。私に利益はあるのでしょうね?』


利益だ? 姉さんが攫われているというのに、と苛立つ気持ちを抑える。

僕一人では助けられない。なら、力を借りなければいけないのだ。例え嫌な奴の力でも。


「アリスさん」

「えっ、はい!」


突然振り向いたニーナに、驚いたらしく、アリスが大きな声を出した。


「少し前の停魔法の日。貴女の弟さんが侵入した場所のこと、ご存知ですね」

「なっ、何故それを……!?」


停魔法の日に、侵入?

何のことだと問い詰めるように睨むとアリスはサッと視線を逸らした。

……この隠密、何か俺の知らないところで暗躍してやがるらしい。


しかしそのことが一体何なのか、と問う前に、次の言葉でその疑問は明らかになる。


「その中にいたモノ(﹅﹅)のことを、教えてくださいませんか——ジル先生に」


モノ?

アリスは見るからに苦虫を噛みしめたような表情で、しかしそれしか手がないと分かっているので渋々と、良いでしょうと返事した。


ニーナが顔の向きを戻して、再び結晶に声をかけた。


「……聞こえましたか、先生」

『ええ。はっきりと』

「ならば協力をお願いします。私たちのいる迷宮の周囲の空間を解いて欲しいのです」

『それならば……今終わりましたよ』

「えっ?」


アリスが確認したのだろう、驚いた顔で頷いた。


『あなた達と話しているその魔法を辿ったら変なものがあるものですから。構造分析は先ほどまでにして、アリスくんの返事とともに、解除しました』

「……さすが、ですね……」

『ええ、まぁ』


謙遜もなく肯定する声に苛立ちをさらに高められながらも、これでようやく姉さんの元へ行けることに、俺は安堵を覚えていた。


だけど、続くジル先生たちの会話は、僕らの思考を一瞬止めた。


『それで、結局のところ緊急事態とは何だったのです?』

「メリアーゼさんが、何者かに攫われてしまったのですよ、先生」

『メリアーゼさん?』



『誰です、それは?』

一応、確認と補足(もしくは蛇足)


隣国エウトゥーゼは現在、メリアーゼたちの国と国交を絶っており、特に事件などはないものの良好な関係とは言い難いです。

ですが、誘拐して国外逃亡という流れはそれなりに普通なので、セシルはそこまで不思議に思ってません。


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