表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
76/84

義弟と義姉が離れ離れになる件。2

ご無沙汰しておりますm(_ _)m


○簡単なあらすじ


夜会の騒動が終わり平穏を取り戻しつつあったが、サポートキャラだったニーナから得た情報により、ジョシュアの好きな相手が自分だと知ったメリアーゼ。

しかも、停魔法の暗闇の勢いでそれを聞いてしまったメリアーゼは、その結果ジョシュアと気まずい空気に。

そんな中、始まった学部祭だが、ニーナとジョシュアの連携により、雰囲気は良くないながら問題なく進んでいた。

そんな最中、メリアーゼが以前夜会で襲撃したものによってさらわれてしまい…。

姉さんが、奪われた。






「姉さんっ!」


叫んで伸ばした手は、届かなかった。

姉さんもまた、手を伸ばし返してはくれなかった。


あいつがニヤリと嗤う。

姉さんの口が何かを言うように動いて——白い穴は、二人を飲み込んで消えた。


僕には何もできなかった。

何も、だ。


思わず、そのままガクンと崩れ落ちそうになった時、


「特殊魔法術式『居場所探知(はっしんき)』作動!」


声が聞こえた。


「アリス……?」

「何、落ち込んでらっしゃるんですかっ!?」

「痛っ!?」


バチンッとアリスが僕の頭を叩く。

その手には、前に姉さんの行方を探すときに用いられた術式がすでに発動していた。


「無力さを痛感されるのは後になさいませ、メリアーゼ様をお助けしたその後に! メリアーゼ様を失われても良いのですか!?」

「そんなのは——嫌だ! 嫌に決まってる!」


そうだ、僕は何をしていた?

立ち止まって、迷っている暇なんてない。


「……アリス」

「はい!」

「姉さんを助ける、僕を手伝え!」

「勿論ですわっ!」


ニッと、空元気だとしても笑みを浮かべてみせるアリスに、僕は驚いていた。


「お前は……いつの間にそんなに強くなったんだ?」

「ジョシュア様の知らない間に、ですわ。私とて何も出来ないのは、もう嫌なのです。何も出来ないままでなんていられません」

「……そうか」


今、改めて感じた。

僕の隠密は結構、頼もしいらしい。


「なんやアリス嬢、やるやんか。ウチにも協力させてぇな」


後ろからドンと重みが加わる。

振り向いて、僕は思わず眉をしかめた。


リリアーヌ・クレシアス。

油断の出来ない女。


だけど、アリスは良いでしょう、と頷いた。


「おい!?」

「今は一人でも戦力が欲しい時です。過去の確執は堪えて」

「〜〜くっ! 勝手にしろ」

「うん、おおきにね」


リリアーヌは今度はニーナに目線をやってニヤリ、と笑った。


「ニーナちゃんも、協力してくれるやろ?」

「了解しました。なるほど、色々協力してくれ、と言っていたのは今のことなのですか」

「そうや」


リリアの頷きにニーナもまた頷きを返すと、ブォンとまた蜃気楼のような世界地図を展開した。


「アリスさん。位置の探索には地図があった方がやりやすいのでは?」

「え、ええ、そうですわね。大まかな位置は出しましたので、あとは細かい座標を出す作業なのですけれど……この区域の拡大は可能ですの?」

「はい」


ニーナとアリスが二人、協力体制に入ったのを見ながら、僕はさっきの会話にどうしても気になる点があった。


「リリアーヌ、お前……いつからこの事態を想定していた?」


会話を聞いていれば分かる。

この女は、こうなることを知っていた。

薄らと浮かんだ笑みが、殴りつけたいくらいに憎たらしい。


問い詰めるような僕の口調に、リリアーヌはあー、と曖昧な声を漏らした。


「いつからって言うたら、前世から?」

「前世? なら、どうして防げなかった? 知っていたなら、防げてたって……!」

「今やとは思わへんかった。確かにウチの油断や、すまん。けどな」


笑みに細まっていた瞳が僕のと合い、貫いた。

それは、怒りに燃えていた。


「怒っとるんは、あんただけじゃないんやってこと、忘れんといてぇな……? ウチとて、友達が攫われて、(ハラワタ)煮え繰り返っとんやから」

「……悪い」


思わず押されて謝れば、分かってくればええねん、と眼力は弱まった。

リリアーヌがクルッと振り返る。


「アリス嬢、位置の探索は出来たんか?」

「今、算出した位置座標を地図上に反映しているところです……出ました!」


アリスの声と同時に、地図上に赤い印が浮いた。

その場所は。


「そんな、まさか……!」

「嘘だろ……!?」


その場所は、僕が最も行きたくない場所であり——最も帰りたくない(﹅﹅﹅﹅﹅﹅)場所だった。




×××




うーん、と声を上げて私は目を覚ました。

なんだか体が痛い。

よく見れば、私が寝そべっていたのは床だ。

そりゃ痛いのも無理はないよね。


周りを見回せば知らない場所。

少し頭がガンガンしたが、寝る直前までのことを思い出そうとして——


「ほぅ、起きたのか」


声を聞いた。

パッと声のした方に顔を上げれば、見たことのあるような男の人がそこにいた。


「えっと……」


どなたでしたっけ、と聞くのはさすがに失礼だろうか。なんだか高そうな服を着ているし、偉そうな態度だし。

私が困惑しながらその姿を見上げていると、ふむ、とその人は声を上げた。


「案外、落ち着いているものなのだな」

「え?」

「それとも、現状の把握ができていないのか」

「あ、ここってどこです?」

「……後者なのか? まぁ良い。場所について、お前が知る必要はない」


はぁ、と思わず曖昧な返事が出た。必要あると思ったから聞いてるんだけどなぁ……。


にしても、現状把握?

そういえば結局、眠ってしまう前のことをちゃんと思い出せてない。

えっと、学部祭、そうだ、学部祭の最中で……それで……。


「ああっ!」


思わず叫び声を上げると、その人は少し驚いたのか肩が一瞬はねた。


「……何だ」

「あの人! あの人はどこに!?」

「あの人とは誰のことだ?」

「えっと、前にアリスちゃんを襲撃して……! こう、あんまり私と年の離れていない男の子で、空間魔法?が使える……」

「ああ、お前を攫わせた奴か」

「そうそう、その……うん? 攫わせた?」


ああ、とその人は大仰に頷いた。

攫わせた。つまり私は攫われた。

ってことは……誘拐!?


「えっ私あなたに誘拐されたんですか!?」

「……逆に何だと思っていたのだ」


呆れたような声に、改めて考え直す。

ってことはこの人は誘拐犯だってことか。

なら、失礼も何もない。


「あなた、いったい誰ですか?」


少し睨むようにして聞けば、今度は呆れよりも感嘆を含んだような声でほう、とつぶやいた。


「本当に何も知らないのだな。私は、お前の祖父だ」

「祖父? って、おじいちゃん!? 私におじいちゃんがいたの!?」

「……」

「えっと、初めまして! メリアーゼと言います!」

「……知っている」


あ、ですよね。だって誘拐までしたくらいなんだし。

いやいや、そもそもなんで誘拐されたんだろう。そこが謎だ。


おじいちゃんをジッと見れば、困惑の表情の中に一瞬。一瞬だけ、優しげな笑みが覗いた。


「お前は……私の妻に、お前の祖母に似ているな」

「え?」

「いや、何でもない」


優しげな笑みは本当に一瞬で霧散した。

うまく聞き取れなくて首をかしげる。誰かに似てると言われたようだけど、いったい何の話だろう?


「それにしても、お前は無警戒がすぎるのではないか。現状を正しく理解できているのか? お前は今、逃げもできぬ状態なのだぞ」

「え、あ、本当だ! 足首に鎖がついてる!」

「……どれほど鈍いのだ……」


結界はまだ生きているらしく、その上からだったが、足についた鎖はそのまま壁に繋がっていた。

いや、気付けなかったのは多分結界があるせいで、私がそこまで鈍いわけじゃ、と言い訳するより前に、おじいちゃんはそれとも、と口を開いた。


「それとも、信じているのか?」

「え?」

「あの竜殺しの養い子……お前の義弟がここに来て、お前を助けることを?」

「義弟……」


そうだ、ジョシュアだ。

ジョシュアなら、必ず来てくれる。


だって。


「ええ、そうですね、信じてます」


だって、ジョシュアは私の義弟(すきなひと)なんだから。


「ジョシュアは絶対に——ここに来てくれます」


弟がパニクって姉が落ち着いているという普段とは割と反対に。…ん?あれ、それほど反対でもない、か…?


にしても、姉ほど人のペースを乱してしまうシリアスクラッシャーは中々いないんじゃないだろうかと思います。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ