義弟と学部祭の件。
朝からパンパンと花火に似た魔法が鳴り響いていて、その音で目が覚めた。
うん、凄い運動会日和だけど、全然気分が清々しくない……。
学校に着くや否や、リリアちゃんがもの聞きたげだったので、腕でバッテンを作って示す。
リリアちゃんが色々とアドバイスしてくれたものの、昨日の今日じゃあどうしようもない。
といってもそのアドバイスは、
「とりあえず抱きしめるのはどうや?」
「キス! キスしぃ! それで全部解決や」
というようなものだったから、参考にはならなかったけど。
「それで、今日の祭ってどんなものなの?」
「それも知らんかったんか……」
リリアちゃんがガックシと音が付きそうなくらいに大げさに崩れ落ちる。
……なんかごめんなさい。
「ええか? まず、チーム戦や」
「うん、それは知ってるけど……」
「そこから知らんかったら、流石にウチも説明する気なくすわ!」
「さいですか、さいですね」
って言ったら睨まれた。またまたごめんなさい。
「でな、迷宮……って言うより、ダンジョンって感じの方が近いんやけど……まあ、そこに入るんよ。で、ゴールするまでの時間を競う。以上!」
「え? それだけ?」
なんだ、じゃあようは巨大迷路のようなものか、と私がホッと息をつくと、言うとくけどな、とリリアちゃんが付け足した。
「迷宮には魔物が出るで」
「え!?」
あの訓練場の一件以来、正直魔物はトラウマだったりする。
「ど、どうしよう、どうやって身を守ろう……!?」
狼狽える私に、リリアちゃんはまたもや呆れたように呟いた。
「魔法使えや」
「はぁい始まりました!」
「第126回レンデヤ学院学部祭!」
「「勝つのは一体どの組でしょーかっ!?」」
やたらテンションの高い二つ声が聞こえて、誰? と首を傾げる。
「三年のマルムル先輩らやな」
「マルムル?」
「マル先輩とムル先輩、ですわ。こういった司会などをよくやられる方々です」
「へぇ、綺麗な声の人たちだね」
「声だけではございませんわ! とっても、美人な双子姉妹で……失礼いたしました」
アリスちゃんってなかなかミーハーだよね。
って、あれ。ミーハーって死語だったっけ?
私がそんなことを考えていると、コホン、とアリスちゃんが一つ咳払いをした。
「それで、メリアーゼ様。その、ジョシュア様とは……?」
表情が一転して心配そうだ。
リリアちゃんから聞いたのだろうか?
聞いてなくても、アリスちゃんって聡いとこあるからなぁ……私たちの様子を来て気づいたのかもしれない。
ダメ、とふるふる首を振ると、そうですかと目に見えて落胆した。
それからジョシュアの方をちらりと見やる。
それが睨んだように見えたのは、きっと気のせいだろう。
「では、一組目の皆さーん」
「お入りくださーい!」
あれ、始まった?
「え、開会式とか、無いの?」
「何代か前の大会で、学院長の話が長すぎてな……」
「あ、貧血とかで誰か倒れたとか?」
いやいや、とリリアちゃんは首を振る。
「魔法使って暴れたんやと」
「……」
「ちなみにそれ、ユリウス先輩らしいんよ」
さらに知りたくない情報まで……!
クレアには悪いけど、うん、多分どっかで育ち方間違ったよ。
「それで、私たちの順番は何番でしょう?」
「あ、ほれ。24番」
「微妙だね……」
「微妙ですね……」
ちょっと待たなきゃいけなさそうだ。
どうしようかな、というような空気が流れた、その時だった。
「なぁ、一つ聞きたいんやけど」
それまで黙っていたセシルくんがいきなり口を開き——
「もしかしてメリアーゼ嬢とジョシュアくん……喧嘩でもしてるんか?」
空気が凍った。
一瞬早く硬化から抜け出したリリアちゃんがスパコーン、とその頭を叩いた。
「痛っ! 何すんねんリリア」
「空気をもっと読めや!」
「空気? 空気って読めるもんなん?」
「そういうボケは要らんわ!」
ボケちゃうんやけど、と頭をさすりながら、
「なんや、空気読むって新しい魔法かなんかか?」
「あんたはもう黙っとけ!」
そのやり取りに思わず吹き出して、ジョシュアと顔を見合わせて……慌ててそらした。
余計に気まずくなる。
そしてそんな時。
「続きまして、24番目の組の方々ー!」
「どうぞ、お入りくださーい!」
マル&ムル先輩の、その場にそぐわないくらいハイテンションな声が響く。
反対に、私たちの雰囲気はむしろずぅんと沈んだ。
しかもその沈んだ雰囲気のまま、私たちは地下へと潜って行かなきゃいけないらしい。
階段を落ちる最中、全く会話のない一行に、きっと私たちの誰もが思ったことだろう。
……こんな状態で、大丈夫なんだろうか? と。




