義弟と仲直りと受難の件。
更新が遅くなってすみません!
ああ、どうしよう。
義弟と気まずい。
「なんか元気ないやん、どうしたん?」
そうリリアちゃんに話しかけられたのは、一時間目の休み時間だった。
すとん、と遠慮もなく前の席に腰掛ける。
「ちょ、リリアちゃん、そこの人、今座ろうとしてたよ?」
「ええやろ、別に」
いいのか!?
まぁ、その人、諦めて行っちゃったけど……。
「それより。昨日、あの後何があったか聞かせてや」
「うう……」
私が渋るので、リリアちゃんはちょっと残念そうな顔になる。
「話したくないようやったら、聞かんよ?」
「いや、やっぱり聞いて」
ジョシュアの姿は見当たらないのを確認して、私は言った。
待ってました、とばかり表情を晴らしたリリアちゃんに、昨日の夜の、あの停電……じゃなくて停魔法の後の話を始める。
正直、話さないとやってられない気分なのだ。
あの後。
明るくなった部屋で、ジョシュアと私はただ沈黙の中にいた。
その沈黙に耐えかねたのだろう、ジョシュアが口を開こうとして、
「えっと、姉さん、その……」
「ちょ、ちょっと待って!」
「え、あ、うん」
私は慌ててそれを遮った。
多分、今私の顔はそれはもう真っ赤だろう。
なんで明るくなっちゃうんだ!
せっかく見られないと思ったのに!
「その姉さん?」
「うぅ……」
「もう、言ってもいい?」
よくはない、よくはないけど……。
私は覚悟を決めた。
「ど、どんとこい!」
「う、うん。行くよ?」
はたから聞いたらふざけているようでも、こっちは真剣だ。
ジョシュアは私からちょっと目線をそらした。
「その、もしも好きだって言ったらどうする?」
どうするって聞かれても……どうしよう!?
はっ、もしかして、これがいわゆる恋愛の駆け引きというやつなのだろうか。
まずい、レベルの高い会話が始まってしまった予感!
こっちは前世の時から恋愛偏差値が余裕で50未満なのに……!
付き合おう、とか告白した方が良いのかな? ……いやでも、姉弟なんだし。向こうはまだ、ちゃんと好きって言ってくれてないし。
ジョシュアにはまさかないと思うけど、「私も好きっ!」とか言って「はぁ? 僕は別に姉さんのこと好きって言ってないけど?」だなんて言われた日には……お姉ちゃん、ちょっと立ち直れないです。
なんというか、こういうのってどうにも返答に——
「困る、なぁ……」
「ッ!……そう、だよね」
「え?」
ジョシュアの声があからさまに沈んだ。
ど、どうしたんだろう。
と思いながら、自分の言葉を思い出して……あ!まさか、断ったように聞こえた?
「いや、違うからねジョシュア!」
「いいんだ、姉さん……困らせてごめんね」
「そ、そうじゃなくて……!」
「ちょっと、一人にならせて」
ジョシュアの部屋のドアがパタンと閉まる。
だから、そうじゃないんだってば!
「それで、結局誤解は解けずじまいと」
「うん、そう……」
ああもう、考えていると少し腹が立ってくる。
「もうドアの外から叫べば良かったやん。私も好きや〜って」
「え? ……あ」
「もしかして、気づかへんかったん?」
「い、いやいや、そんなことはないよ」
リリアちゃんが疑わしげな目を向けて来る。
本当だってば……誓って、とは言えないけど。
どちらにせよ、そんな風に叫ぶ度胸もないし。もともと今回だって、こんな風に暗くなったりしなかったら、きっと聞くもともなかったと思う。
「そういえば、そもそもあの停電」
「停魔法や」
「……停魔法の原因って何だったか分かったの?」
いや、とリリアちゃんは首を振った。
リリアちゃんが知らないなんて、珍しい。
「ニーナちゃんとか知らないかな」
「何でその名前が出てくるん?」
「いや、なんか知ってそうだなって」
「あはは、確かにそんな雰囲気はあるけどな。残念やけど、今回は知らんらしいよ」
すでに聞いていたらしい。
なんか、魔法器具が全て消えるなんて、学院史上初——あ、久しぶりにこの言葉に聞いた——の事件だそうだから、気になってたのに。
「本当、残念だな」
「そんなに知りたいんなら、あのアリスちゃんの方に聞いた方がええんとちゃう?」
「え? 何でアリスちゃん?」
「……まぁええけど。それで、弟くんの話はどうなったん?」
ああ、そうだった!
「って言っても、ジョシュアとはあの後ちゃんと話せてないし……もうどうしたらいいか……」
「ふぅん。何というか、思い込み激しいタイプなんやな、弟くんは」
言われてみればそうかもしれない、と私はコクコク頷いた。
「メリアーゼちゃんも大概やと思っとったけど……似たもの姉弟やね」
「え?」
「ん?」
キョトンとしているだろう私の顔を見て、自覚ないんか、と呆れたように呟かれた。
ひどい。というか、おかしいな……前世では割としっかり者で通ってたはずなんだけど。
「ともかく……そんなんで明日、大丈夫なん? 早う仲直りしぃよ」
「うん……うん?」
明日?
「あの、リリアちゃん。明日って……何かあったんだっけ?」
「は? ……!?」
リリアちゃんは珍しく、言葉を失って口をパクパクさせた。
「ほ、本気で忘れとるん?」
「え?」
「ウチは言うたはずやろ? 今度、学部祭あるから一緒に出よなーって。あれ、言うたよな!?」
「ああ、うん」
そうか。あれ、明日だったのか。
「って、明日ぁぁぁあ!?」
「だから、そう言うとるやん!」
……私の受難は、まだまだ続きそうである。
リリアちゃんは多分、だいぶ諦めてます。




