表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
72/84

義姉と二人きりの停魔法の件。

少年は、とある研究所の前にいた。

それから地面に手をついて、呪文を唱える。


「地よ。目前の施設の動力を賄う魔結晶を今より暫し封じたまえ」


少年がそう言えば、目の前の施設から一気に明かりが消える。

ふっと微笑んで、暗視能力を付加したゴーグルを付けた少年——クロードがその施設の中に入ろうとした時。


そこからいくらか離れたところにある、彼のよく知る者たちがいる場所も、全ての明かりを落とした。


「……あれ?」


姉が僕を避けている。








何だかこうして語るのはとても久々な気がする……なんてことは置いておくとして。


今、僕と姉は少しばかり危機的な状況にある。

全ての魔道具が動かなくなってしまって、明かりも付かないし、ドアも開けられなくなったのだ。

魔法も……うん、使えない。


結果として、僕と姉は暗闇の中、二人きりだった。

二人きり、なのである。


「姉さん」

「は、はい!」


呼びかければ、慌てた返事が返ってきた。

寮の自室であるとはいえ、姉も暗くて不安なんだろう。

ドアの外に耳を済ませてみれば、何で明かり付かないの!? とか、原因を探せー! とか慌てた声が聞こえてくるから、


「どうやら、学園全体の明かりが消えたみたいだね」

「そ、そうなんだ」


ここで僕は、姉はどうしたのだろう、と思った。

不安なら、僕のこと手探りで探すとか、何処って聞くとか、姉ならしそうなものなのに。


思い返せば、最近姉と接点が異様に少ない気がする。

朝は「寝坊したから先行って!」と言われたし、昼だって「ちょっとアリスちゃんと女の子の話するから」と一緒に食べれないし、部屋に帰ったら帰ったで「疲れたからもう寝るね!」と部屋に閉じこもってしまう、し……?

あれ。

今思い返していて少し感じたんだけど……僕、姉さんに避けられてないか?


いやいや、まさか。姉さんが僕を避けることなんてあってたまるか。

こういうのは、はっきり聞いて疑いの気持ちをなくすのが一番だろう。


「あのさ、姉さん。その、最近僕のこと避けてない?」

「え? えええ? そ、そんなことないよ!?」


……。


「本当に?」

「ほ、ほんとほんと! 本当だよ!」


どうしよう。余計に疑わしくなってきた。


僕何かしたっけ、と考えてみるけど、何も思いつかない。

パーティでのこと、にしては遅すぎるしなぁ……。


「ね、ねぇジョシュア」

「何? 姉さん」

「ジョシュアの好きな子って、どんな子って言ってたっけ……?」

「え?」


いきなりどうしてそんなことを聞くのか不思議だった。

相変わらず、姉の思考はまるで読めない。


「ええと、髪はラヴェンダー色で、瞳はスミレ。肌はまるで白磁のようで、手足が折れてしまいそうなほどに細くて……」


付け足すならば、とんでもなく天然で鈍感で突飛な人。

まぁでもここまで言ってしまうと流石の姉でも分かってしまうかもしれないので、それは言わないでおく。


「急に何? どうしたの?」


僕に少しでもそういう意味で興味を持ってくれているのかと期待して聞けば、姉がスッと息を吸う音がした。


後から思い返せば多分、暗くて顔が見えなかったから勇気が湧いたというのもあったのだろう。

姉は僕に聞いた。


「ジョシュアの好きな子って、私!?」


そして、その瞬間。

電気が付いて、僕は真っ赤になった姉の顔を光の元で見た。


「き——」


きゃああ、と姉があげた叫びは、それはもう大きくて、学校中に響き渡った。




×××




「……先生。これを仕組んだのは、先生ですね?」

「何のことでしょう?」


まだ光が戻らない頃。

ニーナとジルは真っ暗になった理科室に二人だった。


「私自身がしたことは、とある研究所の魔結晶に、この学校の動力の一部を繋いだだけですよ」

「……それを仕組んだというのでは?」

「そうなんですかね」


クスクスという笑い声が聞こえて、ニーナは一つため息をついた。




×××




所変わって、研究所内。

地球の研究所によく似ている。

唯一の違いとしては、全ての動力が魔法によって担われていることだろう。


「ふぅ、焦ったっす。まさかこの動力が学校に繋がれてるとは思わなかったっすし……というか、繋がれてなかったはずなんすよねぇ。誰がこんなことしたんすかねぇ?」


まぁそれは後で調べるとして、とクロードはつぶやいて、眼前の水槽のような器具を見た。

その中に浮かんだそれ(﹅﹅)が、今回のクロードの目的だった。


「まさか、本当に俺の予想通りだとは思わなかったっすけどね」


チューブに多く繋がれ、しかし口の部分には何もなく、それ(﹅﹅)が呼吸をする度にプクプクと泡が浮いた。


クロードはその姿に、自分の最も忌むべき感性が騒ぎ始めるのを感じていた。

どうしても笑ってしまう口元を必死に抑えて、クロードは静かに口を開いた。


「初めましてっす……レドウィンさん」


水槽の中で、彼が泡を吐いて笑った。

久しぶりにこの二人がちゃんと話したー!

というか、久しぶりにラブコメが始められそうです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ