義弟の好きな子を思い出す件。
更新が遅くなってすみません(ー ー;)
テンションが×××の前後でかなり違いますので、ご注意ください。
「初めまして」
とその少女は言った。
だけど、そのオレンジに近い髪と明るい茶の瞳は凄く見覚えがある。
「ニーナ・ウェグンです」
と言っても、見覚えがあるだけで……目の前の人物はゲームの時とはまるで違った。
まず、表情が違う。
ニーナはよく言えば無表情、悪く言えば“鉄仮面”みたいな感じじゃなかった。
次に髪型が違う。
上の方でツインテールにしていたはずなのに、今は寧ろ、クールな雰囲気のショートヘア。
って、多分挙げだしたら切りが無い。
それくらいに違う。
思わず、手招きでリリアちゃんを呼んだ。
「ちょ、ちょちょちょリリアちゃん!」
「うん? 何や?」
ニーナちゃんに曖昧に笑うと、背を向けてリリアちゃんに小声で囁く。
「あの子、本当にニーナ・ウェグンであってる!?」
「やから、本人がそう言っとるやん」
「でも、全っっっ然違うよ!?」
二人でチラッと後ろを振り返る。
クスリともせずに、こちらを見ていた。
「……せやね」
「でしょ!?
ゲームの時は、何て言うか元気系っていうか、ほら、きゃぴっ☆みたいな感じだったよ!」
「きゃぴっ☆って……」
古ない? と呆れた顔で見られた。
「ま、まぁだって私も前世の年齢足したら四十近いわけだし、古くもなるよ」
「ああ、そうやね。ウチも四十超すわ。
あーお互いもうアラフォーか」
「うん、早いよねー……じゃなくて!」
ツッコむと、リリアちゃんは楽しそうにノリツッコミやね、とか言ってきた。
「違う! こういう同窓会みたいなのを求めてるんじゃないの!」
「同窓会の経験有るん?」
「ないけど!」
イメージだけど!
「何であんなに別人なの? 転生者?」
「ちゃうって、だからバタフライ効果や。
身近に転生者がおったらしゅうて」
「へぇ」
ちなみに、とリリアちゃんは一層声を小さくして囁いた。
「好きなタイプはジル先生らしい」
「それは……」
なんと言うか。
「……終わってるね」
「終わっとるやろ」
そんな私達の後ろで、ニーナちゃんはコテンと首を傾げた。
「何か、とても失礼なことを言われている様な気がします」
仕切り直して、とリリアちゃんが荷物を移すように手を動かした。
「改めて、ニーナ・ウェグンちゃんや。で、ニーナちゃん、こちらが……」
「メリアーゼ・レオンハイト様ですね、存じております」
「ああ、そやったね」
当然、というように言われたので、思わず首を傾げる。
私、そんな有名人になった覚えはないんだけど……。
不思議な気持ちが顔に出ていたのだろう、リリアちゃんが笑って言う。
「あのな、これ、この子の魔法なんよ」
「魔法?」
「そ。ウチはステータス魔法って呼んどるけどな」
「正式名称としては、情報表示魔法ですが……私の侍女もステータス魔法と呼んでいましたね。皆さんがいらっしゃった世界の言葉ですか?」
「え」
「まぁ、せやね」
さ、さらっと異世界、みたいな話が出たのだけど……。
リリアちゃんの表情を伺うと、「ああ、大丈夫、この子全部知っとるから」と平然とした様子だった。
大丈夫……なのか?
「あの、それでリリアさん。
なぜ私とこの方を……?」
「ん? いや、仲良うなってもらえたら、ちゅうのもあるけどな、本当のところは顔合わせやな」
「顔合わせ?」
私が聞けば、リリアちゃんは、そうや、と頷いた。
「これからちょっと色々と、このニーナちゃんには協力してもらおう思っとんねん」
「へぇ……?」
学部祭のことだろうか?
少し不思議に思いながらも、ニーナちゃんに手を差し出す。
「えっと、その、よろしくね」
「いえ……こちらこそ」
表情はほとんど変わらなかったけど、微笑んだように見えた。
手がそのままスッと離れる。
「それにしても、ステータス魔法ってすごいね。何まで見れるの?」
「様々です。名前や年齢、得意な、あるいは適性のある魔法分野から始まり、果ては筋力値なども。
好みなども少しでしたら分かりますよ」
「そ、そうなんだ」
つまり、個人情報が丸見えなんだ、と思うと、少し笑いが引きつった。
「まぁ、ステータス魔法がなくとも、貴女のことは存じていたでしょうけどね」
と、ニーナちゃんは続けて言った。
「え、どうして?」
「……ご自身の著名さに自覚がないのですか?」
リリアちゃんが後ろでヒラヒラと手を降る。
「あー、あかんよこの子。自己評価が極端に低いんや」
「なるほど」
「別に、低くないと思うけど……?」
私が言うと、二人で顔を見合わせて、ハァとため息をつかれた。
ふ、二人してひどくないだろうか。
「ラヴェンダーの君、というのをご存知ですか?」
ニーナちゃんの質問にフルフルと首を振る。
「ラヴェンダー色の髪にスミレの瞳、肌はまるで白磁のような、細長い手足が美しい、と評判のお方のことです」
「へぇ、綺麗そうな人だね」
「貴女です」
「……へ?」
「今言ったのは、貴女について言われていることです」
「ちょ、ちょっと待って! だって私の髪なんか灰色みたいな紫だし、目だってそんな宝石みたいじゃないよ!? 肌も、ただ体弱くて外出れなかったから白いだけで……」
というか、更に思い出してみる。
ニーナちゃんが言った描写は、誰かが言っていたものによく似ているのだ。
それは、アリスちゃんと——ジョシュア、だ。
ジョシュアは、その人のことをなんだと言ってたっけ。
確か——
思い出して、私は顔が真っ赤になるのを感じた。
「ちょっと待って!」
「……待ってますよ?」
そうだ、好きな子、だ。
×××
メリアーゼが何か動転したように走って行ってしまったものだから、取り残された二人は思わず無言で向かい合った。
「あの」
と、先に口を開いたのはニーナの方だった。
「あの、貴女は、顔合わせと言いましたけれど……何の為の、顔合わせなのですか」
「何の為?」
何の為、何の為ねぇ、と呟きながら、リリアーヌはニヤリと顔を歪ませた。
「そんな、警戒せんでもええと思うんやけど? ウチはな、ただ、メリアーゼちゃんがええ子やってこと知ってもらいたかったんよね」
「は?」
「あんたらが遊びに巻き込みすぎひんようにな」
「……」
しばらく沈黙したニーナだが、それから、貴女は、と、リリアーヌに関わる者の多くが口にしてきた言葉を言った。
「貴女は、一体、どこまで知っているんです?」
「……さぁ?」
リリアーヌは笑うだけだ。ただ、一言付け足した。
「最愛の人にも、伝えといてぇな。メリアーゼちゃんを危険な目には合わせんといてって。それと——」
「?」
そこで、リリアーヌはニーナに背を向けた。
いかにステータス魔法などを持つニーナでも、目の前の人間の心が読めるわけではない。
だから、その時リリアーヌがどんな顔をしてその言葉を言ったのかは分からない。
「黙って見とき。きっとこれから、とびきり面白いもんが見れるで」
そして、一人残されたニーナはポツリと呟く。
「すみません、リリアさん、メリアーゼさん。
手出ししないなどと約束はできません。
黙って見ていることなんて、できそうもないですよ」
そこでニーナは、誰にも、否、たった一人にしか見せたことのない、凶悪な笑みを浮かべた。
「私とジル先生は面白いことが、そして、事態を引っ掻き回すことが、大好きなのですから」
ニーナ「第三勢力、快楽主義者組……参戦です」




