義弟と学部祭に参加を決める件。
お待たせしました。
「バタフライ効果?」
「そう、バタフライ効果や」
パーティーからしばらくした日の帰り際、リリアちゃんは唐突にこんなことを言った。
「バタフライって、蝶だよね?」
「そうや。蝶が飛ぶ時の羽ばたきで天気が変わることから来とるらしい」
「え、天気変わるの!? 蝶で!?」
「いや、本当かは知らんけどな?」
ともかく、とリリアちゃんは続ける。
「ウチらは多分、この世界の“蝶”やと思うんよ」
「うん?」
「ウチらみたいな転生者がおることで、この世界はいくらか変わっとるように思えんねん」
「おお」
いきなり自分たちが蝶とか言うから少しびっくりしたけど、なんだか壮大な話だ。
「例えば、ほら、ユリウス先輩とかなんか、ゲームとは全然違うやん?」
「ああ、ユリウス先輩は……アレだよね」
「アレやな」
ちなみにそのユリウス先輩は現在傷心中だ。
パーティーが終わってクレアが帰ってしまったから寂しいらしい。
だけど、
「会わない日々は苦しいのに、一度会ってしまうと余計に苦しいものだな……」
とかちょっとポエミーなことをこの前言っていて、若干引いた。
うん、確かにゲームとは全然違う。
「メリアーゼちゃんなんて、特にイレギュラーな存在やで」
「え、私?」
「だってゲームには出てこんかったわけやし」
そうか。でもユリウス先輩よりも変みたいに言われてるようで少し嫌だ。
「あはは、別に変とは言ってへんよ」
心を読まれた!?
「ただ、メリアーゼちゃんの存在がこの世界に対して一番影響を与えとる。あの宰相も、メリアーゼちゃんがおらんかったら、“ストーリー”には関わってこんかったからな」
「宰相? ストーリーって……」
「いや、ゲームのストーリーの話やで。流石に現実をストーリーなんて呼ぶほど、太い根性はしてへんよ」
……どうだろうか。
リリアちゃんってこう、底が見えないところがあるし。
「でも突然どうしたの? バタフライ効果だっけ、そんなの言って……」
「いやな、この前すごい子に会ってしもうたん」
私の頭の中に、身長が三メートルあるような人だとかが浮かぶ。
いやいや、ここまでいくとすごい子どころじゃ無いな。
「どんな子?」
「バタフライ効果の実例みたいな子ぉや」
あ、妖怪みたいな子ではなさそうだ。
良かった。ちょっと安心した。
その私の気持ちを知ってか知らずか、リリアちゃんが続ける。
「でな、メリアーゼちゃんに一度会ってもらいたいんやけど……今日って時間ある?」
「え? いや、今日はちょっと」
本来クレアがいる時に届くはずだった夏物の服が昨日やっと届いて、その片付けをしなきゃいけないのだ。
「そうか。なら明日、時間とってもらえんかな」
「ああ、うん、明日なら」
「ほな、じゃあそう言うことでー」
「じゃあねー……ってあれ?」
去ろうとしていたリリアちゃんがすぐさま戻って来た。妙なニコニコ笑いをうかべている。
「一つ大切なこと忘れとったわ」
「何?」
「メリアーゼちゃん、ちょっとお願いがあるねん」
リリアちゃんの顔がニヤリとゆがんだ。
「終わったー!」
部屋に戻ってから夏用に仕立てた服をクローゼットに詰める作業が終わると、ジョシュアがお茶を淹れてくれた。
「姉さん、お疲れ様」
「わ、ありがとう」
冷却魔法で冷たくもしてある。
さすがジョシュア、気が利くなぁ。
やっぱりこういう暑い時、日本人は麦茶だよね〜。あ、今は日本人じゃあないけど。
ジョシュアは向かいでコーヒーを飲んでいた。ブラックだった。大人だ……。
「あ、そうだジョシュア、ちょっと聞きたいんだけど」
「うん」
「学部祭って、何?」
学部祭? とジョシュアが首を傾げた。
「各学部ごとに一人まで、メンバーを募ってチーム組んで戦う祭りだったと思うけど……」
ああ、言われてみれば、そんなイベントがあったような気がする。
「でも、ちょっと怖そうだね。私ちゃんとやれるかな」
「——え?」
「え?」
ジョシュアはキョトンとした顔になって、それから、ガシャンと叩きつけるようにコーヒーのカップを置いた。
「え!? 姉さん学部祭に参加するの!?」
「う、うん。リリアちゃんに頼まれて……」
「あの女……!」
なんかジョシュアって、リリアちゃんのことあんまり好きじゃないみたいなんだよね。
なんでだろう?
ちなみに頼まれたのを回想してみると、
「学部祭?」
「そうや。な、頼むメリアーゼちゃん、一緒にチーム組んでくれへん?」
「え、あ、いいけど……」
「ほんまに!? わぁ、ありがとう! あ、弟くんにもよろしくな!」
「え、ちょっとリリアちゃん!?」
……みたいな感じ。
勢いに押されてしまった、って言ったらそうなんだけども。
「何かまずかった?」
「いや、まずいって言うか」
「ジョシュアにもよろしく、って言われたんだけど」
「やられた……」
はぁあ、と頭を抱える。
「え、そんなに駄目だった!?」
「いや、ただ出るつもりはなかったから」
あ、そっか。これ全員参加でもないのだったっけ。
「ジョシュアが出たくないなら、いいよ、リリアちゃんには私から言っておくし。私だけで参加——」
「それは駄目」
ジョシュアはきっぱりと言って、私の目をじっと見つめた。
ドキリとする。
「姉さんは出るんでしょ。出たいんでしょ」
「うん、でも……」
ジョシュアは、と言いかけると、にっこりと笑われた。
「いいよ。姉さんがやりたいなら、俺もやる」
「本当!? 良かったー!」
正直、ジョシュアがいてくれた方が嬉しい。
「一緒に頑張ろうね!」
「うん。……あの女、絶対これを狙ってやがったな」
「ん? なんか言った?」
「いや、何も」
ジョシュアがニコッと笑うのに、私はなんとなく首を傾げた。
そしてその次の日。
私は出会うのだ、ヒロインと同様に私が忘れてしまっていた人物——
「初めまして、ニーナ・ウェグンです」
いわゆる、サポートキャラに。
以前のように毎日更新とはいかないと思いますが、週一では更新していくつもりです。
よろしくお願いします。
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