弟子は師匠を愛してる
お久しぶりです。
受験勉強が忙しくなってきて、なかなか書けていなくて、本当にすみません!
前々より予告していたクレアとユリウスの短編です!
なんか、かなり長くなってしまいました……(ーー;)
それと、綺麗なユリウス(?)だけ見ていたい方は、×××以後は読まれないことをお勧めします。
「大丈夫か?」
そう言って俺の頭に乗せられた手の温もりを失いたくなかった。
初めてだった。初めてそんな温もりを知って、そして初めて執着した。
だから、俺がこんなことを言ったのだって、きっと何もおかしくないはずだ。
「俺を、貴方の弟子にしてくださいっ!」
「……は?」
その優しさを、その全てを、俺のものに。
「師匠ー、ちょっと待ってくださいよ、師匠」
「もう、うるさい! 黙ってついてくる!」
「えぇぇー……」
歩幅は俺と大して変わらないはずなのに、ガンガン進む師匠を小走りで追う。
師匠は女のくせに、ちょっと活発すぎるんじゃないだろうか。
巷では“ネルセンのお転婆姫”なんて呼ばれてるけど、正直これはお転婆どころじゃない。
正直、“熊殺し姫”とか“虎退治姫”とかの方がよっぽど似合って——
「……なんか言った?」
「い、いいえ!」
いないです。似合ってないです、すみません!
心の中で必死に謝っていると、彼女はちょっと不思議げに「そう?」と前に向き直った。
……くっ、勘が鋭すぎる!
けれどまぁ、熊殺しだのなんだのは置いとくとしても、彼女がとてつもなく強いことは確かだった。
初めて会ったときなんて、それはもう驚いたものだ。
魔物に襲われていた俺を助けてくれた彼女の様子を、今でも鮮明に思い出せる。
——青くほんのり発光する、美しい少女。
瞳より幾らか薄い色のドレスを着て、森の奥の方から出てきたのを見たときは、御伽噺の美しい妖精を連想した。
……まぁその少女は、大の大人でも退治するのが難しい魔物を、一蹴りでぶっ倒したんだけども。
だけどそのとき彼女は、俺が何より欲しかったものを俺にくれた。
だから、俺は——
「あ!」
「え? ってうわ! いきなり止まらないでくださいよ!」
突然立ち止まった師匠は、ギギギと音がなりそうな硬い動きで振り返った。
「……私ってさ、どこ行くか言ってなかったっけ?」
「え? ええ」
逆に言った覚えがあるんですかと聞けば、あああ、と呻いて頭を抱えた。
「そっかー、言い忘れてたか」
「はい」
「じゃあ今から言うから。それでいいでしょ」
「はぁ、まぁ……」
本音を言えば良くないけども。遅いだろうと思うけども。
「魔法結晶」
「へ?」
「この森の奥に、魔法結晶採れるとこがあるのは知ってるよね?」
「ええ、それは」
だって、一応我が家もそれの取引をしているし。
というか、この近辺の貴族なら皆関わっているのだから、知らないはずはない——と思ったが、師匠には俺が貴族だと言っていないのだった。
名前すら、まともに名乗ってない。
彼女にはまずあり得ないと思っているけれど、もしも。
もしもこの態度が変わってしまうようなことがあったら——俺は耐えられないから。
「でね、そこに行こうと思うの」
「へぇ……え?」
やばい、考えに沈んでいたせいで聞き損ねかけた。
彼女は今、何て言った?
俺の聞き間違いじゃなければ——
「魔法結晶の採掘場に行くって、おっしゃいました?」
「うん」
「……あれがどこにあるか、ご存知で?」
「もちろん」
森の中心、つまるところ、森の最奥。
「そこに行くまでに、いくつ魔物の巣窟があるのかも、ご存知です?」
「今分かってる限りだと、九つだっけ?」
「十三です!」
「そう。大して変わんないいね」
「いやいや!」
変わるだろう! 四つ違いますけど?
四匹じゃなくて、巣の数が四つ違いますけど!?
「そもそも、何のために!?」
「いや、魔法結晶ってさ、採ること自体は自由でしょ? 難易度高いから」
「え? ええ、そのあと貴族にちゃんと売るのであれば、何の問題もないってことになってますけど……」
「で、なおかつ高く売れるじゃん?」
あ。この人の目的ってまさか……。
「もしかして、いやまさかそんな無謀なことは考えまいと思うのですけど……」
「うん?」
「小遣い稼ぎ、ですか?」
「うん♪」
大の大人でも大変だと言われる魔法結晶の採集に——子供二人で行くと!?
それも、小遣い稼ぎに!?
……あ、あり得ない!
彼女は俺が無意識に後ずさろうとしていたのに気付いたらしい。
ガシリ、と肩を掴まれる。
「いっ!?」
「まぁ何はともあれ、善は急げだよ、ユリー。行こうじゃないか」
「いぃやぁあああ!」
この細い腕のどこに、人一人を引きずって行く力があるんだ!?
俺の叫び声に、辺りの鳥が一斉に飛び立った。
「……流石にちょっと、無計画が過ぎたね、これは」
「反省するのはいいですが時と状況を考えてくださいぃいいい!」
「いや、だって流石の私もまさか——」
と言葉を切って師匠が後ろに跳ぶ。
さっきまでいたところには、彼女の胴体ほどもある腕が叩きつけられる。
「災害級の魔物が発生してるなんて、想像しなかったしねぇ」
災害級。
その魔物の普通の大きさの二倍以上。
本来なら、騎士団が出てきて対処するクラスだ。辺りの地区にはもちろん警報が出る。
この魔物だって、動きこそノロいが、その分威力が半端ではない。
間違っても——子供二人じゃ倒せな、
「ユリー、何ぼぅっとしてんの! 危ない!」
ハッとして前を向けば、魔物の腕が迫っていた。
や、やばい、動けない。
魔法を撃てばいいのか? 何の?
頭が混乱してうまくまとまらない。
どうしたらいい!? 俺は、どうす——
「だぁああっ!」
力強い雄叫びとともに、目の前に青の光が現れる。
彼女の蹴りが、魔物の腕を弾いた。
あ、と小さく声が喉から漏れる。
守られた。
「大丈夫!?」
「は……っ、い」
まただ。また、守られた。
「まずいね、コイツ。……あは、単なる小遣い稼ぎが、とんだ命の危機になっちゃった」
「……!」
彼女が軽口を叩くのは、決して余裕がある時じゃない。寧ろ、余裕のない時だ。
それだけ、彼女にとっても、あの強い彼女であっても、大変な事態なんだ。
「し、師匠、俺——」
俺に何ができる? 師匠よりもずっと弱いのに。
魔法の才があるっていったって、この年にしては、ってだけだ。
第一学んでいない魔法が使えるはずもない。
俺はただ、縋るような瞳を彼女に向けるだけだ。
「……ユリー」
「は、はいっ!」
師匠は振り返らなかった。
切羽詰まった、けれど確かな声で言った。
「逃げて」
周りの音が消えた気がした。
何を言われたのか、理解できない。
逃げて……?
彼女は、俺に、逃げろと、そう言ったのか。
「聞こえなかったの、ユリー」
「ぇ……」
「逃げて。その時間は私が稼ぐから」
彼女は魔物の手足をかいくぐり、腹や腕に何発も食らわせる。
俺は、動けない。
頭の中がゴチャゴチャしていて、動けない。
だって、おかしいだろ、俺だって男だし、俺だって戦えるのに。
何で、この人は。
正体すら告げてない俺を守るために、命をかけられる?
「い、嫌です」
「ユリー!」
彼女の声は怒っていたけど、知るものか。
「嫌です! 嫌です嫌です嫌です! 絶っっっっ対に逃げたりなんてしません!」
「何を——くっ!」
また振り上げられた拳を避けて、彼女が跳躍する。
横に逸れて、俺と魔物の間に、遮るものは何もない。
そうだ、俺のできることなんで、所詮魔法だけなんだから。
やらないでどうするんだよ、ユリウス。
「……師匠、そのままどいててください」
俺は、上級魔法なんて知らない。
呪文を知らない魔法は使えない。
なら。
初級魔法を組み合わせれば。
『火球!』
手のひらほどの、小さな火が燃え上がる。
「ユリー!? 何をしようとしている! 馬鹿なことは」
「師匠は黙ってて!」
師匠は言われたとおり、殆ど動かなかった。
それでいい。
今度は俺があなたを助けるんだ。あなたを……守るんだ。
意識を集中させる。
火球よ、俺の命にしたがって——
『大きくなれ!』
ボンと膨れ上がる。
魔物とはいえ、火に弱いのは動物と変わらない。
このまま、このまま。
『大きく大きく大きく大きく大きく大きく大きく大きく大きく大きく大きく——なれっ!』
魔力の使いすぎで、頭がクラリとした。
持ち上げた火球は、今や俺の身長を上回る。
威力がどうなったかは分からない。
でも。
『いっけぇえええええ!』
俺の放った火球は、まっすぐと魔物に向かい——
「良かったね。魔法結晶、大量だよ」
「……」
「綺麗だ。ね、ユリーにも幾つかお裾分けしよっか。好きなのあげるよー……って、いつになったら機嫌を直すのさ?」
「いえー、別に機嫌なんて悪くないですしぃー」
俺がそう言えば、彼女はハァとため息をついた。
「いいじゃないか、結果的に倒せたんだし」
「……でも、倒したの、師匠じゃないですか」
そう。俺の火球は魔物に結構なダメージを与えた。
与えた、けど、倒せはしなかった。
しかも、魔力が切れて倒れそうになって、結局、師匠による攻撃で、ようやくあの魔物は倒せたのだった。
「二人の手柄だろう? 最後がどっちかとかじゃなくてさ。子供だけで倒せたんだよ? 凄いことじゃないか?」
「……」
それでも。それでも、俺が倒したかったのに。
俺が押し黙っていると、彼女は唐突に俺の顔を両手で挟んだ。
「ぅえ、な、何ですか?」
じっと見つめられる。鼓動が早くなった。
彼女の顔が、ゆっくりと近づいてきて、その唇が俺の額に——
ちゅっ。
「し、ししょぉっ!?」
いひひ、と師匠はいたずらっ子のように笑った。
「うじうじしてないの! ……カッコよかったよ、ユリー」
「あ、ぇ、し、師匠、俺……」
絶対、今の俺、顔真っ赤だ。
鏡なんて見なくてもわかる。
顔が熱い。
「し、師匠……」
「うん?」
「俺、かっこよかったです?」
「うん」
どうしよう、師匠が俺をかっこいいだとか。
「ほ、本当に?」
「うん」
「本当の、本当に!?」
「うん」
「じゃ、じゃあ、」
言葉を切ると、彼女は待つようにコテンと首を傾けた。
可愛すぎる!
「じゃあ、俺と付き合いたいとか思いました!?」
「う……え? いや、それは別に」
「え?」
「え?」
あれ?
「カッコ、よかったって言ってくれましたよね」
「うん、カッコよかったよ」
「じゃあ付き合——」
「? それとこれとは話が別じゃない?」
「……ええぇ……」
厳しい。師匠、厳しい。
カッコいいだけじゃダメらしい。
……地獄から天国、天国から地獄って感じだ。
うん、辛さ倍増。
「ち、ちなみに聞きますけど、師匠の好みのタイプってどんな方ですか」
「好みのタイプ? えーっと……背が高くて」
あ、俺背ぇ低いや。
「私より強くて」
……全然勝てる気がしないのだが。
え、なにこれ。遠回しに拒否られてる?
「し、師匠! 魔法は!? 魔法の才があるのはどう思います?」
「魔法? 魔法の才能……は、別にどうでもいいや」
「どうでもいいんですか……」
どうしよう、俺の価値全否定。
「例えば……お、俺が、どんな風だったら付き合いたいと思います?」
「え、ユリーと? うーん。そうだなぁ」
彼女はピコンと、思いついたように指をはねあげた。またいたずらっ子の笑みを浮かべる。
「世界で一番強くなったら?」
×××
屋敷に戻ると、いつも心が冷え込むような感じがする。冷えつくどころじゃない、凍りつくような。
俺付きの侍女が慌てた様子で出てきた。
「おかえりなさいませ、ユリウス様!」
「……」
ただいまは言わない。俺にとって、ここは家ではあるが、帰る場所——居場所ではない。
そのまま部屋へと向かえば、侍女は遅れずついて来た。
「どこにおられたのです、心配いたしました!」
「……お前の心配など要るか」
「も、申し訳ありません」
そもそもこの侍女が心配しているのは、俺のみの安全ではなく、それによって自分が罰を受けるかどうか。
それをよくもまぁ恩着せがましく言えたものだと思う。
俺がドアを勢いよく開ければ、ついで入ってきた侍女が静かに閉めた。
この侍女の名前ってなんだったっけ。
まあ、別にどうでもいいや。
「お、お父上やお母上も……」
「心配した、とでも言う気じゃないよな?」
俺は自室のソファに飛び込むように腰掛けた。
ジロリとにらみつければ、侍女は分かりやすくビクつく。
「冗談はいい加減にしろ。この屋敷で働いて何年になる? 心配なんてするような関係に見えるのか。
——あいつらなら、俺が死んだとあれば小躍りして喜ぶだろうよ」
そう、俺は邪魔者なのだ。
今は亡き側室の子でありながら、正妻の産んだ長男を遥かに上回る魔法の才を持っている次男——それが俺だ。
権力争いにおいては、障害以外の何物にもなり得ない。
現に、一族の中には魔法の才の乏しい長男よりも俺の方が当主に相応しいのでは、なんて言うものもいる。
全くもって迷惑だ。俺はこんな腐った家を継ぐ気などないのに。
「……おい」
「は、はいっ!」
「いつまで部屋にいる気だ? 早く出てけ」
「し、失礼しました!」
パタンと部屋のドアが閉まる音に、ハァとため息をつく。
そしてゆっくり、握りしめていた手を開いた。
「師匠……」
手の中には、青の魔法結晶が三つ。一つは飛び抜けて小さい。小指の先ほどしかない。
欲しいと言ったとき、訝しんだのも当然だ。
純度もそれほど高くなければ、属性も俺とはあってない。でも。
彼女の瞳と同じ色だ。
「……師匠」
俺の大切な人。唯一の居場所。
彼女を俺のものにしたい欲が俺の中で時折唸り声を上げる。
自分の貪欲さがときに怖い。
彼女を俺の“師匠”にはしたと言うのに、まるで満足しないのだから。
強くならなければ。世界で一番強くなれば、彼女は。
手の中の結晶をじっと見つめる。
俺はその、一番小さい結晶をつかむと——
ゴクリ。
——飲み込んだ。
彼女のあの打算無き優しさが、腹の中にしみていく心地がした。俺のために命を賭そうとしてくれた、あの強さが。
全部、俺の中に溶けていく。
師匠が俺の一部となったような、逆に俺が彼女の一部になったような感覚。
ああ、幸せだ。
二つになった魔法結晶をぎゅっと握り込む。
その拳の上に額をおいて、俺は呟いた。
「師匠、俺は貴女を——」
この感情に、名前など一つしかない。
「愛しています」
——愛だ。
後半は、目指せグロくないグロもどき!です。
ユリウスのヤンデレ部分とカニバの予感をなんとか……なんとか書こうとしてみたり。
感想など頂けると嬉しいです。




