義弟が話し合おうとする件。
すみません!
昨日諸事情により、投稿し損ねました!
感想を書いてくださった方々も、返信できず申し訳ないですm(_ _)m
クレアと一緒に、仕立て屋を呼んで、学院の衣装室で生地の見本を見ているところだった。
「メリアーゼお嬢様、ドレスどうします?」
「いや、その……」
「クレア師匠〜!」
「うーん、季節的に青がいいですかねぇ。いや、でもカブる人多そうですか」
「し・し・ょ・う!」
「クレア、その、外の……」
ドンドン、という音を間に挟みながら、繰り広げられる会話は正直辛い。
「ねぇ、クレア、そんな執拗に先輩のこと避けなくてもいいんじゃ……」
「何のことですかー? 私は嘘つきのヤンデレなんて知りませんよー」
「クレアぁ……」
怖い。クレア怖い。
外で叩かれてるのも怖いけど。
と、外をジョシュアが通ったようだ。
「何してるんですか、先輩」
「あ、一年次の。いや、中に師匠がいるんだけど」
「……中に姉さんもいるんですけど」
そうだそうだ、もっと言ってやれ、と内心応援をする。
「だから、そこどいてくれません?」
「嫌だ。なんで俺が入れないのにお前が入れるんだ」
「え、それは……信頼の差っていうか」
「お、俺が、師匠に信頼が無いなんて、そんな、はずが」
「ありますよー」
「し、師匠……う、うわあああ!」
ダダダッと足音が去って行った。
最後のトドメを刺したクレアは清々しげに笑っている。
うわぁ……鬼か。
ドアが開いて、ジョシュアが顔を覗かせた。
「姉さん、今大丈夫……?」
「え、うん」
「ダメに決まってます何入って来てんですか! スケベですか覗きですか変態ですか!
攻略キャラだからってバシバシ入って来てラッキースケベがあると思ったら大間違いですよ!!」
「……何の話?」
ジョシュアは首傾げてるけど……やっぱりこれ、間違いなく、クレアは転生者だよね……。
言ったほうがいいんだろうか、私もだよーって。
……なんか嫌だなぁ。
というか、私の周り転生者多すぎないか……?
「えっと、姉さん、今ダメだった? 後にしようか?」
「え、いや私は別にいいんだけど……ジョシュアはその、もういいの?」
心を読める魔法のことをさりげなく問えば、一瞬キョトンとした顔になって、それからああ、と頷いた。
「まあ、もう大丈夫……かな」
「そっか、良かった!」
「何の話ですか?」
一人事情の分かってないクレアは不思議そうだったけど、私は片手を上げて、じゃ行ってくるー、と部屋を出る。
「え、ちょっと待ってください! 貴方が行ったら——」
「先輩が来るって?」
コクコクと頷くクレアに、大丈夫だろうと思いながら、一応身体を覆う膜のように薄い結界を張った。
ふふん、最近できるようになったんだよね。
「はい、これでいいでしょ。
じゃあね!」
「ちょ、お嬢様ぁっ!?」
癖がついてしまったのか、ジョシュアは私から少し離れて歩いていた。
それがなんだか寂しくて、でも自分から近づくのも恥ずかしくて、距離がどうにも詰められない。
それにしても、どこに行くんだろう?
ジョシュアは、校舎のあまり使われていない方に向かうと、空き教室の一つに入って行った。
慌てて追う。
そこは、真っ白な空間で。
ジョシュアの手が私に触れた瞬間——。
私は、別の私になった。
×××
少し、時間を戻そう。
アリスは、僕と姉の部屋に来ていた。
「解決方法が見つかった!?」
「ええ」
そう言ってアリスが差し出したのは、小さな指輪だった。
「首飾りを握ると、というのは、緊急事態に備え解決の必要はないと判断しましたの。
そうなると必要なのは、主様からの魔力の干渉を阻む物です。
なので、それをクロ君に作ってもらいましたわ」
「そうか」
これで姉に近寄っても大丈夫なのか。
指輪を受け取って、指先で転がす。
そうしていると、ふと、胸の中で引っかかるものを感じた。
「これをはめたら、あの姉は……」
「非常事態以外あの首飾りを握らないようにメリアーゼ様に言われましたら、そうそう出てくることはないでしょうね」
「……」
それでいいのだろうか。
封じ込めて、見ないふりをして?
——いや、いいはずがない。
あれは“姉さん”じゃないけれど、姉だ。
僕がそれを無視するなんて、そんなこと、出来ない。
「姉と、一度話をしなきゃ……」
「やっぱり、あのメリアーゼ様と話されるのですね」
僕の呟きにアリスが言葉を返した。
え?と首を傾げる。
「分かりますよ、私だってこれでも隠密なのですから。主君の気持ちくらい、察せられずにどうします。
……解決策が見つかったと言えば、主様はそう決断なされると、そう思っておりました」
「……そうか」
アリスは、ニッコリと笑いかけた。
「アリスも、一緒に行くだろう?」
「え? いや私は行きたくないです」
「……は?」
え、ここはあれじゃないのか。
普通一緒に……。
「私その、クレア様って苦手なのですよね」
「はぁっ!?」
「だって、なんて言うんですの?
クロ君的に言えば、キャラがかぶってるってやつですわ。
ほら侍女と隠密。仕える系の職業ですし、同じく敬語を使うところとか」
「そんな理由かよ!?」
いえいえ、とアリスは手を前で振った。
「他にちょっと用事があるのですわ。
流石にそんな理由ではお断りいたしません」
「そ、そうか」
ちょっと安心した。
じゃあ少し行ってくる、と、手中で指輪を転がしながら呟くように言った。
「話し合うのには、あの空き部屋をお使いくださいませ。
消音結界を張っておりますわ」
「ああ、分かった」
パタンと、ドアが閉まる。
アリスは一人になると、まるで自らを抱くように腕を前で組んだ。
「主様、すみません。
私は嘘をつきましたわ」
その体はわずかに震えていた。
「私が苦手なのは、クレア様ではありませんの……あのメリアーゼ様ですの」
今思い出してもぞっとする。
あの目はアリスをすり抜けた。
自分の存在が不確かになるような、消えていくような、あの感覚。
「あのメリアーゼ様は私を見てはいませんでした。
——いえ、私だけじゃないでしょうね。
主様以外のことなど、まるで興味がないのでしょう」
だから、会いたくなかった。
会えなかった。
アリスだってメリアーゼが好きなのだ。
無価値なものとして、見てさえももらえないのは、耐えられない。
「……クロ君」
『何、どうしたのアリス姉』
別行動中のクロードに呼びかける。
アリスは、ホッと安心する。
「なんでもないですの。声を、聞きたかったのですわ」
『……アリス姉。何があったか知らないけど——俺は、ずっとアリス姉の味方だし、そばにいるよ?』
思わず、胸を押さえた。
ああ、クロ君。とアリスは声に出さず呟いた。
「私もずっとクロ君の味方で、そばにいますわ」
『……うん』
まるで共にもたれ合うような、甘い依存。
アリスとクロードはそんな関係なのだ。
いやぁ…回を増すごとに先輩の扱いが…。
アリスたちの関係は、甘くてグジュグジュしてる感じで、書くのが結構好きですねー。
感想など、頂けると嬉しいです!




