義姉に近づけない件。
残念な戦闘シーン有。
姉に近づかないように、アリスに言われた。
「な、何でだよ!?」
「クロ君の話を聞く限り、主様の魔力が近くにあるのは、むしろ悪影響にしかならないように思いますの」
「だけどっ!」
姉と一緒にいられないのは嫌だ、という言葉は、まるで駄々をこねているようだと飲み込んだ。
「でも、ほら、姉さんを守らなきゃ……!」
「メリアーゼ様にもある程度自衛の力がおありになると、貴方様もお分かりでしょう?
もちろん、そんな事態にさせる気はございませんけれど」
「うっ……」
ダメだ、言えば言うほど追い詰められているような気がする。
「でも……!」
「少しの間だけですわ、なんとか、クロ君が解決法を見つけようとしてますから」
「……ああ」
たとえ少しでも、嫌なことには変わりない。
「それで、姉さんは、今どうしてるんだ?」
「今ですの? まだ寝ていらっしゃいますわ。昨夜目を覚ましてすぐに、また眠ってしまわれて……」
「そうか」
アリスは、真剣さを表情ににじませた。
「それに、あのエドウィンという先輩について……少し、調べねばなりません」
「あいつか」
姉が唯一覚えていたこと。
一体何があったのか、知る手がかりはそこにあるはずだ。
「まあ、当分はメリアーゼ様に近づかないようにだけ、ご注意くださいませ」
「……でも、姉さんが寂しがるかもしれないし……」
「その辺りは、私がうまく誤魔化しておきますから。嘘を付くことは心苦しいですが……」
くそ。まるで逃げ道がないじゃないか。
というわけで、姉と一緒にいられなくて、絶賛不機嫌な僕である。
不機嫌な僕、なのだけど……。
「あれ、ジョシュア君、不機嫌ですね?」
荷物を運びに言ったところで、ジルド先生がそんなことを言った。
……今思ったのだけど、不機嫌な時に不機嫌かと聞かれることほど、より不機嫌になることはないんじゃないんだろうか。
「それが、何か?」
「いや、 別に何でもないですよ」
ああ、この先生の場合、わざとだ。
わざと怒らせては楽しんでいる感じだ。
「そう言えばジョシュア君。ユリウス君が探していましたよ」
「知りません」
あのルーヴェル以来、何かと勝負をしているが、勝ちを譲ったことはない。
「あのような子は、一度勝たせてあげれば満足するものですよ?」
「嫌です」
一度だって、負けてやるものかと思う。
ジルド先生は苦笑した。
「なら、勝負を受けなければいいのでは?」
「いや、姉さんの……姉のことを言ってくる以上、無視するわけにはいきませんから」
「……多分ユリウス君も、ジョシュア君のそういう性格を分かって来てるんでしょうねぇ……」
ああ、姉って言葉を使ったら、余計に会いたくなって来た。
はぁ、とため息が落ちる。
でも、あっちの姉さんもなぁ……いやいや!
何を言ってるんだ僕!
浮気はダメだ!
そう僕が頬をパンパンと叩いた時、部屋のドアが開いた。
……なんというか、噂をすればというか。
いや、それにしても、空気を読まないやつがいたものだ。
「おお、一年次の神童! 勝負しようぜ!」
なんだ、その呼び名。
誰かなんて言うまでもないが、一応言っておこうか。
三年次の天才、ユリウス先輩がそこにいた。
僕の返答は、すでに決まっている。
「慎まずにお断りいたします」
しかし、馬鹿は馬鹿でも賢い馬鹿たるユリウス先輩は、人をのせるのが異様に上手いようだ。
いつの間にか、魔法で戦うことになっていた。
しかも、姉の作った結界の中で。
……あれ? 僕、姉と必死に会わないようにしていたはずなんだけど。
気づいたらジルド先生が連れて来ていた。
って、おい、姉に勝手に触るな。
「姉さん、先生から離れ……え?」
「ごめんジョシュア、今は近づかないで!」
姉は体の前で腕をバツの形にした。
な、なんで?
アリスがきっと、僕に近づけさせないよう姉になにか言ったのだろうけれど……こんなに拒絶されるなんて。
ショックを受けた僕に、二人はなんだか面白いものを見るようにニヤニヤしている。
最悪だ。
「えっと……これは吸収型の結界で、魔法とか、当たったら全部吸い込んで結界の補強に使って行きます。
だから、跳ね返ったりするのはないので、ご注意ください」
ユリウス先輩にそんなことを教えに行っているけれど、その距離が近い気がするのは気のせいだろうか。
……いや。気のせいじゃない。
あの男……僕の方を見ながら、姉に近づいて見せた。
もちろん姉は後ずさったけど、それでも許さない。
最初の勝負の時、僕は確かに姉に近づかないように、言ったはずなのだけど?
結界のうちに入る。
姉が作っただけあって、広いし、その効果は本人が言ったとおり。
ユリウス先輩は、やはり笑みを浮かべたまま入ってきた。
思い切り睨みつける。
僕は今、本気で怒ってるぞ、ユリウス先輩。
せいぜい……悔やめ。
「始めっ!」
ジルド先生の声を合図に、戦闘が始まる。
初撃は向こうから。
豪炎が吹き付けてきた。
さすが、三年次の天才。
早いし無詠唱なのに、威力はなかなかだ。
まともに食らえば大火傷は間違いないだろう。
けれど、怒ってる僕の敵じゃない。
風によって軌道を変更し、結界に吸収させる。
それからすぐさま水を蛇の形にすると、先輩は少し驚いた顔をした。
魔法はたとえ無詠唱でも、頭の中では魔法言語による計算と構成が不可欠。
だから、才能の差が出ると言われる。
しかし、才能の上に努力を重ねることが無意味なわけはない。
……僕が姉さんに魔法言語で告白するために、どれだけ勉強してると思ってる!
魔法言語での処理速度は、先輩にだって負けるか!
蛇に先輩を襲わせる。
瞬時に冷却され凍らされても、次のを出すだけだ。
攻撃、冷却の繰り返し。
延々と続くと思われたそのイタチごっこは、ユリウス先輩の驚きの声で終わりを迎えた。
「なっ……!」
「もう、逃げ場はないですよ」
今度は、僕がニヤリと笑う番だった。
逃げ回るその動きすら誘導し、どんどんと追い詰めた。
水の蛇はユリウス先輩に巻きつく。
そのまま、雷の魔法を起動する。
それをぶつけようとした時——
「やめっ!」
勝敗は決した。
僕は悔しそうな先輩を置いて結界を出る。
「やったね! ジョシュア!」
姉は少し興奮したように言うのを聞いて、僕は自分の顔をほころぶのを感じた。
姉に喜んでもらえるなら、何よりだ。
思わず駆け寄ろうとして——また、バツを返された。
……なんていうんだっけ、こういうの。
生殺し?
「ちょ、ダメだってジョシュア! 近づいたら、心読めるんでしょ!?」
「……は?」
アリスは一体、どんな嘘をついたんだ?
副題をつけるとしたら、ヤンデレ再集結でしょうか(^_^;)
それにしても、戦闘描写って難しいですねぇ(ー ー;)
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