義弟を求める件。
気付いたら、世界は真っ白だった。
「……?」
ここはどこだろう。
目の前には小さな椅子二つが向かい合うように置いてあって、反対側に誰か座っている。
何と無く、私はそこに腰掛けた。
『ふふ、初めまして』
聞いたことがあるような声で、その子は言った。
「あなたは誰?」
『私?』
姿がぼやけて見えない。
こんなに近くにいるというのに、何でだろう。
『私はメリアーゼ・レオンハイトよ』
「……嘘」
『嘘じゃないわ』
声が少しキツくなったように聞こえた。
だってメリアーゼ・レオンハイトは……。
「メリアーゼ・レオンハイトは、私だよ。
ねぇ、貴方は、本当は誰なの?」
『だから、私もメリアーゼなのよ。
貴方は私、私は貴方』
私がこの子……?
どういう意味だ?
訳が分からない。
『でも、貴方の方が私よりずっと欲深いのね』
「え?」
私が?
声の主は、独り言のように続ける。
『私は……ジョシュくんがいれば、それでいいの。
でも貴方は違うわね?』
「それは、どういう……」
『だって、気を失うあの時、あなたは別の人間を呼んだわ』
声には明らかな落胆が含まれていた。
何に、私はがっかりされているのだろう?
『メリアーゼ、貴方が私なら、欲張ってはいけないわ』
「何を……」
声は、諦めの混じった笑いをこぼした。
『私は、誰にも愛されないのよ』
それがあまりに悲しく聞こえて、私は一瞬言葉に詰まる。
『お父様も、館の誰も私を愛してくれなかった。
そしてこれからも、誰も愛してなどくれない』
「だから、何を言ってるのって聞いて——」
『ジョシュくんだけだわ』
白い空間に、ほんのりピンクがさす。
私はびっくりして、思わずキョロキョロと周りを見回した。
『私を愛してくれるのは、ジョシュくんだけなの』
「違う、そんなことないよ……」
『いいえ。違わない』
声は、確信の響きを帯びていた。
『私には、ジョシュくんだけ。
他には何もないし、何もいらない。
……貴方もそうあるべきだわ、もう一人のメリアーゼ』
やっぱり言っている意味が分からなかった。
ただ一つだけ、聞いた。
「結局、どういうことなの?
私はあなただと言ったけど、あなたは私はあなたとは違うとも言った。
どっちが正しいの?」
声は、クスリと笑いをもらした。
『正しさばかり求めるのは、悪いくせだと思うわ』
「答えて」
ええ、答えましょう、と声の主が微笑む気配を感じた。
『話してみて、ようやく分かったわ。
貴方は私と違う。でも、同じ』
「違う、のに、同じ……?」
『そうよ』
声は、確かに笑っていた。
『貴方もまた、ジョシュくんに囚われている。
覚えていて、もう一人のメリアーゼ。
貴方は……』
×××
コツンと、枕元に何かが置かれる音がした。
と同時にまぶたの向こうが明るくなる。
ゆっくりと目を開けば、魔法による明かりの眩しさが目にしみた。
思わず腕で目を覆う。
「んんん……」
「メリアーゼ様?」
アリスちゃんの声がした。
え、なんで?
急速に意識が覚醒して行く。
確かにあのスカーレットの瞳と目があった。
「……アリスちゃん?」
「わぁ、起きられたのですね! 少々お待ちくださいませ、今何かお口に入れるものを持ってまいりますわ」
「え、あ、うん」
どうなってるんだろう?
周りを見回す。
うん、部屋だ。間違いなく、私の部屋だ。
それに日はもう沈んだみたいだし、こんな時間にアリスちゃんがやって来るのはおかしい。
というか、いつの間にか部屋に来たのだろうか、私は。
むー、と唸りながらこめかみに指を当てた。
なんかあった気がするんだよねー……?
しかし、私が答えを出すより早く、アリスちゃんが戻ってきた。
「軽食をお持ち致しましたわ。よろしければ」
「あ、ありがとう」
料理を出され、聞くタイミングを逃してしまった。
持って来てくれたのは、いくらかの野菜と、ヒナクというぷちっとした食感の穀物が入ったスープだった。
起き抜けだけど、これならすぐに食べられそうだ。
そしてまた、これが格段に美味しいものだから、
「お、美味しい!」
「ありがとうございますわ」
思わず出た声に返されて、ちょっと恥ずかしい。
ようやく食べ終わってスプーンを置くと、私はやっと口を開いた。
「今更なんだけど、何で、アリスちゃんがここに?」
「……その前に、私から一つだけ聞かせてくださいませ。
メリアーゼ様は今日のことをどのくらい覚えておいでなのです?」
「今日のこと……?」
もう一度、振り返るように思い起こす。
「ソフィア先輩たちに連れられた後、一体何があったのです?」
「ソフィア先輩たち? ああ!」
そうだった、そうだった。
先輩たちに呼ばれて、囲まれて、それで……あれ?
ダメだ、そこから先が全く思い出せない。
「……ごめん、よく覚えてないみたい」
「い、いえ、謝ることではございませんわ!」
自分としても、思い出せないのはなんだか気持ちが悪い。
必死にうんうん唸っていると、ふっと頭に一人の人の影が浮かんだ。
「あ、エドウィンさんみたいな人に会った気がする!」
「え!?」
「でも、みたいな人、ね。
なんか、本人とはまた違う感じの」
私がそう言えば、アリスちゃんはユルリと首を傾げた。
「あくまで、みたいな人、なのですね……?」
「うん」
「……」
アリスちゃんは顎に手を当てて考え出してしまった。
みたいな人っていうの以外に、うまい説明が見つからないんだよね……。
そこで私はふと周りを見回した。
何が、こんなに変な感じがするのだろう?
「あ、そうか……ジョシュアがいないからか」
そう、普段なら、そばについていてくれたりするのに。
不安となんだかモヤモヤとした気持ちが沸き起こる。
「ごめん、ちょっといい?」
「……え? あ、はい。勿論ですわ」
「ジョシュアは、どこ?」
アリスちゃんは途端に困ったような顔になった。
「もしも私たちの思うところが正しければ……今日は、会われない方がいいと思いますわ」
「ジョシュア、病気にでもなったの!?」
「いえ! そういうわけではありませんわ!」
慌てたようにアリスちゃんがブンブンと手を振って、私はホッとした。
そっかそっか。
病気とかではなくて、良かった。
「いつになれば、会えるの?」
「それはまだ、分かりかねますの」
「そっかぁ……」
「申し訳ありませんわ」
いやいや、アリスちゃんが謝ることじゃないよ、と笑いかける。
ああ、早く会いたいなぁ。
ね、寝落ちして投稿し損ねました!
すみません!
感想の返信も少し後になるかと思われます。
申し訳ありません!
それても必ず返信いたしますので、頂けると嬉しいです!




