義弟から独立したい件。
新キャラ登場?
小説の方での報告が遅れましたが、ジャンルを文学よりコメディに変更しました!
義弟以外の人と、ちゃんと仲良くなるんだから!
新学期が始まった。
今回から一部の授業が学部や学科別になる。
実践魔法学部は座学が少なくて、それこそ実践が多い。
そう、問題はその実践だった。
実践授業は先輩たち、そして攻撃科とも合同で、だから——。
「やぁん、ジョシュア様、かっこいいですわー!」
「あの美貌で、あんなにお強いなんて!」
みたいな黄色い悲鳴が聞こえて来るわけなのだ。
ジョシュアはにこやかーにその声に応えている。
くそう。
と、そのジョシュアと目があって、手を振られた。
すごい楽しそうだ。
女の人にキャーキャー言われるのが、そんなにいいわけ?
なんだかイライラして、思いっきり、ベッと舌を出した。
ショックそうな顔をしたけど、知るものか。
私は、弟離れするって決めたんだから。
「防御魔法は、その盾をいかに広範囲に、そして堅く存在させるかが鍵です。そのためには——」
先生が言っていることを聞き流しながら、ジョシュアの方に意識を向ける。
チラチラとこちらを伺っているような気配がして、それに少しだけ満足した。
「はい、では攻撃科の先輩と組んで、その魔法を防いでみましょう!」
先生が手をパンと叩いた音でハッとする。
先輩と組むのか。
「ね、姉さん、僕と……」
「ジョシュア。先輩と、って言ってたでしょ?」
攻撃科は攻撃科で、防御科の人と組まなきゃいけないようだけど、駆け寄ってきたジョシュアにあえて素っ気なくした。
憔悴したような顔をされて、申し訳なくなる。
でも実際、そう言われたわけだから仕方ない……よね?
我ながら不自然なほどにさっと視線をそらし、未だ組んでいない人を探した。
誰かいるだろうか……。
キョロキョロとしていると、後ろから声がかけられた。
「メリアーゼ・レオンハイト嬢だよね? 俺と組まないか?」
「え?」
振り返ると、爽やか系の人がいた。
うわ、かっこいい!
学院の中で何度か見たことある気はするけど、名前が分からない。
「私は、確かにメリアーゼですが、えっと、貴方は……」
「あ、俺はエドウィン・シュルツ。これでも一応、侯爵のものなんだけど、ね」
「し、失礼いたしました!」
侯爵! え、偉い人だ!
私が慌てて頭を下げれば、いいよ、と手をひらひら振って微笑む。
いい人だ……!
「それで、僕と組まない?」
「あ、はい、よろしくお願いします!」
こちらこそ、とまた爽やかに笑う。
攻略キャラじゃないけど、なっててもおかしくないくらいイケメンだ。
というか、やっぱりこの学院、美形が多い気がする。
乙女ゲームの世界だから?
エドウィンさんはまた人の良さそうな爽やかスマイルを私に向けた。
わっ、眩しいです。
「前から気になってたんだけどさ、君って、婚約者でもいるの?」
「え? いえ、そのような方はいないですよ」
「そうなんだ? 首飾りをしてるからてっきりそうかと思ったけど、なんだ、違うんだ。
……良かった」
そう言って微笑まれると思わずドキッとした。
な、なんかこの人、天然のタラシなかんじがしてきた。
「これは弟からの贈り物で……」
「ああ、あの期待の新入生の弟くん?
へぇ、君があんまり綺麗だから、悪い虫をつけたくなくて、かな」
「き、綺麗だなんて、そんなお世辞を言われても、何にも出ませんよ?」
私の顔はきっと赤くなっていることだろう。
ジョシュアがこちらを向いているのが視界の隅に映る。
なんだか恥ずかしくて手で顔を覆った。
「お世辞じゃないんだけどね。
まあ、とりあえずやってみようか」
「あ、はい」
あ、いけないいけない、本題を忘れるところだった。
今は授業中だっていうのに。
いつの間にか、爽やかオーラに巻き込まれていたようだ。
「とりあえずできるだけ丈夫なのを張ってみてくれる?
えっと、やったことはあるよね?」
「はい」
不本意ながら、訓練場事件で。
「ちょっと、離れてもらえますか?」
「うん? 離れた方がいいのか」
その時と同じ、「わたしがかんがえたさいきょうのぼうぎょけっかい」を張ると、一瞬、エドウィンさんの顔が強張った気がした。
でも、もう一度みれば違ったので、見間違いだろう。
「球体の結界なんて、初めて見たよ」
「そうなんですか?」
「ああ、その状態で維持するのって難しいから……せいぜい半球くらいまでしか、実用化されてないはずだ」
「へぇ、知りませんでした」
そんなにすごいものなのかな、これ。
「早速だけど、やらせてもらうよ」
「はい!」
思わず身構える。
といっても魔法はもう発動してるから、意味はないのだけども。
ガツンという衝撃。
ファイヤーボールのような火の球が飛んできた。
炎が弾けるのは綺麗だけど、やっぱりびっくりする。
「わ、す、すごいですね……。
——あのエドウィンさん?」
「ちょっと、黙って」
「え?」
エドウィンさんの表情が消えていた。
なに、どうしたの?
再び炎が爆ぜる。
「あ、あの……」
「……」
「あの!」
エドウィンさんは何か焦ったように魔法を当ててくる。
怖い。怖い。
そして、一際大きな火の塊が、
「——やめろよ」
私に届く前に消えた。
同じほどの量の水を当てて、その火を消したのは、ジョシュアだった。
「何やってるんですか、先輩」
「何って……言われた通りのことだけど?」
「姉さんをこれだけ怯えさせることが、ですか」
そこで、ようやくエドウィンさんと目があった。
ちょっと困ったような顔で、にこりと笑う。
「ああ、怖がらせてしまったかな。でも、強度を測るために、容赦なくやってくれって言われててさ」
「は、はい」
それに、とエドウィンさんは恥ずかしそうに頭をかいた。
「それに……後輩の盾に傷一つもつけられなかったら、ほら、ちょっと成績に響くものだから。
必死になっちゃったよ、ごめんね」
「あ、いえ、そういう、ことでしたか……」
それなら、あの必死さも仕方ないかもしれない。
もっと弱いものを作るべきだっただろうか。
いや、でもそれじゃあエドウィンさんに失礼か。
もう一度ごめんというエドウィンさんに、気にしてませんよ、と首を振った。
まあ、別に怪我とかをしたわけじゃないし。
「いや、本当にごめんね」
「いえいえ、全然大丈夫でしたから」
「それでも怖がらせちゃったから……しかも、ああ、みっともないとこ見せた!」
そんな風に頭を抱えるものだから、思わずくすくすと笑ってしまった。
怖かったけど、別に、悪気があったわけじゃないみたいだし、追求するようなことじゃないだろう。
そう私は思ったのだけど、ジョシュアは納得が行かないらしい。
驚くほど鋭い瞳でエドウィンさんを睨んでいた。
「ちょっと、ジョシュア、何睨んでるのよ!」
「……姉さんこそ、なんでそんな簡単に許せるわけ?」
「許すも何も、別になんともないし」
ジョシュアの、苛立ったような眼差しが私の方を向いた。
いや、苛立ったなんてものじゃなくて、ジョシュア、怒ってる。
そのあまりの強さに、身がすくむほどに。
「姉さんは、甘すぎる」
「あ、甘い? 私が?」
そんな風には思えなくて、首を傾げれば、ジョシュアは少しだけ目の力を緩めて——お願いだから、と言った。
「その甘さを、僕以外の人に向けないで」
「え?」
まるで……まるでヤキモチ焼いてるみたいなセリフに、身のすくみも忘れて胸がはねる。
「ジョシュア、そ、それってどういう——」「ジョシュア様、授業が終わってしまいますわ!」
ジョシュアのペアの人らしい。
ジョシュアは、今行きます、と大きな声を上げると、今度は私にしか聞こえないような小さな声で囁いた。
「……姉さん、その男には気をつけて」
「え?」
聞き返したが、ジョシュアはそれだけ言うと、また元の場所に戻って行ってしまった。
ちらりと、エドウィンさんを睨むのを忘れずに。
エドウィンさんが、思わずと言ったように苦笑する。
「随分と、俺、嫌われちゃったみたいだね」
「へ? あ、す、すいません!」
「いや、まあ、俺が悪いんだけどさ」
そう言ってジョシュアを見ているエドウィンさんだったが……あれ?
今また一瞬、姿が揺らいだ気がした。
笑顔じゃなくて、もっと冷たい顔をした人の姿が見えたような……。
「エドウィンさん?」
「ん? 何?」
「あ……いえ」
こっちに向き直った顔はやはり爽やかな笑みを浮かべていて……。
気のせい、だったのかな?
×××
「こちら、エドウィンです。
はい、接触は上手くいきましたよ。
幻術や精神感応の類も効いているようですし、それなりに親しくはなれたんじゃないですかね」
「それにしても、聞いてないですよ。あんな固い結界作れるなんて。
驚いたものですから、何度もぶつけてみましたけど、俺の魔法じゃあ、傷一つ付きませんでした」
「え? いや、確かに俺の攻撃魔法はたいしたことないですけど……ええ。
いや、メリアーゼ嬢の結界はすごかったです。
しかも、球体で展開してました。
はい、巫女姫とあの竜殺しの血を引いてるだけはあるようですね」
「それより、気になったのはあの弟ですよ。
精神感応もあまり効いてないみたいだし、瞬時に無詠唱で水を出したんですよ。
何者なんですか、あいつ」
「え? 貴方様でも知らないんですか?
はぁ、レオンハイト伯爵が情報を消して回ってる? 何でまた……はい。
まあ、伯爵も魔法では群を抜いた人ですからね。あの人が本気で隠蔽しようとしたら、なかなか難しいでしょうけど」
「いや、俺は学院内のことで手一杯ですから。
……え、アリス・セレス?
ああ、あの『影の英雄』アンドリュー・セレス子爵の娘ですか?
はい、はい。分かりました。調べておきます」
「……それでは、失礼しますよ、宰相様」
通信魔法を切ったエドウィンの顔は、爽やかなんて、間違っても言えない。
——冷酷さを感じさせるほどに冷え切っていた。
敵サイド、ついに来ました。
隠密系とは言えど、アリスちゃんのような諜報とは違い、精神操作で情報を引き出すタイプです。
暗殺とかも請け負ったことがあることでしょう。
仮にも侯爵家の彼がこんなことをしている理由はまたいずれ。
感想など、頂けると嬉しいです。




