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義姉と約束した件。

義姉に禁止された。










姉を落とすべく、朝から色々とやってみたけれど、姉はともかく耳が弱いらしかった。


姉の視界に入らぬように、こっそりとほおを緩める。

ふふ、次は何をしたらいいだろうか?

姉のことだから、よっぽどのことをしないと意識なんてしてくれないだろう。

やっぱり抱きしめて愛の言葉を囁くのがいいか。

なんならまた花でも贈ろうか。

アリスが花の辞典を渡したそうだし、今度は意味が伝わるだろう。

アクセサリーでもいいな。

石言葉というのもあるし、それを調べて——


「……ねぇ、ジョシュア」


カチャン、と甲高い音がしてハッとした。

いけないいけない、姉の前なのに、考え込んでしまっていた。


さっきのは、フォークを皿においた音だったらしい。

全て綺麗に食べられていて、それがとても嬉しい。


「美味しかった……本当に」

「それは良かった」

「その、ジョシュアが覚えてるか分からないけど、私がずっと前にもこうしてお菓子を作ってって言った日があったでしょう?」

「……」


頷くべきが迷ったが、一応曖昧に頷いた。


「あの時も、本当はとっても美味しかったの。

なのに、あんなひどいこと言って……ごめんね」

「え、いや、気にしてないよ」


というか、そもそもそんなに酷いこと言われた覚えがない。

なんだかんだ完食してくれてたし。

けれど、姉の中ではかなり気に病んでいたことのようだった。


僕はニッコリと笑ってもう一度、気にしてないよ、と言った。

姉がホッと息をつく。


「そっか……良かった」

「うん」


って、もしかして、このワガママもその時の罪滅ぼしだったのか?

美味しいって、言わなかったことの?


〜〜〜〜っ!

もう、なんて可愛い人なんだろう!

僕は内心悶えた。

その優しさが僕のためだけに発揮されている今の状況が、また僕の心を満たす。

ああ、幸せすぎる!


「あ、あと、そのね、ちょっと聞きたいことがあって……」

「な、何? なんでも聞いて」


パッと出した声が嬉しげに上ずっていて焦った。

しかし、姉の思いつめたような顔にそれも落ち着く。

なんだろう?

……あのキスの意味とかを聞かれたら、どう答えるべきだろうか。

正直に言う? それはまだ早いな。


いや、そもそもその話と決まったわけじゃ——


「その、あの、き、キスのことなんだけど……」

「!」


その話だった!


僕は慌てているのがばれないように、静かに深呼吸する。

落ち着け、焦るなよ、僕。


「うん。キス……したね」

「その、酔うとキス魔だってことは知ってるし、あの時酔ってたのも分かってるけど、それでも」

「え!?」

「え?」


あれ、僕の聞き間違いじゃなければ、姉さん、僕が酔ってたって言った?


「その、姉さん?……僕酔ってないって、言ったよね?」

「へ? でも、酔ってる人ってみんな酔ってないって言うでしょ」

「……」


な、なんでこうもこの姉は斜め上に解釈していくんだ?

なに、僕が悪いのか? 僕の言い方がいけなかったのか?

え、でも酔ってるって言ってもダメで、酔ってないって言ってもダメなら、僕は一体どうすればいいのさ?


というかそもそも、酔ってるかどうかくらい、息が酒臭いかどうかで分からないものか?

いや、分からないか……この姉だもんなぁ……。


「ってそれはいいの! 酔ってるとか、そういうのは今問題じゃなくて!」

「ええ!?」


僕にとっての大事な問題が軽く流されたのですけど。


「そ、その、ジョシュアって、誰にでもあんなことするの!?」


誰にでもしてたら、それは好色通り越して変態じゃないだろうか。

そう思ったけれど、姉が必死そうだから言わないでおいた。


さて、何と返すべきだろうか。

本当のことを言えば、他の人とはしたことどころか、することを想像したことすらない。


けれど、前にアリスに聞いた話によると、こういうのは駆け引きが大切だそうだ。

あえて煽ったり、焦らしたり、そういうのが。


なら、こう答えるべきだろう。


「もし、そうだとしたら……姉さんはどうする?」

「っ!」


え。あれ?

姉さんの目に失望に似た色が見える。

おい、アリス!

どうなってるんだ!


「そ、そうなんだ……」


ど、どうしよう。

今さら言い訳したら逆におかしい。

動揺を顔に出さないようにはしていたけれど、心中はパニック状態だ。


しかし、姉はさらに状況を裏返した。


「そ、そういうのは、よくないと思う!」

「え? あ、うん」

「ほら、姉として、姉としてね、言っておくけど、思わせぶりっていうのが、一番ひどいと思うの!」

「……? うん」


何が言いたいのかよく分からない。

というか、姉として、っていうのを強調しないで欲しい。

逆に僕が期待しちゃうじゃないか。


うん、姉さん。今の言葉そのままお返ししようか?


「そ、それで、だからね、金輪際、そういうのはやめること!

お、お願いだから!」


姉は顔を真っ赤にしてそう言う。

僕は笑い出しそうなのを我慢していた。

姉としての心配だって言うことは分かってるけど……。


これ、嫉妬してるみたいにも聞こえるよね?


勘違いだって?

いいじゃないか、勘違いでも。

ああ、最高に気分がいい。

アリスはここまで見越してたってことか?

さすがだな。


そして、僕はさらにいいことを思いついた。


「いいよ」

「っ! ほんと!?」

「うん。でもその代わり、姉さんも、他の男とキスとかしないこと」

「え?」


ちなみに、キスとかの“とか”には肩触ったり手を繋いだり顔を近づけたりも含まれてる。

当然だよね?


「僕だけって言うのは、不公平でしょ? だから——」


顔を目一杯姉に近づけ、そして首に寄せる。

そう、耳に息が当たるようにして。


「——姉さんも、約束してよ」

「ふわぁっ!」


やっぱり弱いらしくて、ちょっと甘い声を出すものだから僕もドキッとした。


姉は首を痛めそうなほどにガクガク頷く。

フッとまた息をかければ、ビクッと肩が上がって、もう本当に可愛い。


「約束、だからね?」

「ひ、ひゃい!」


噛んだらしいのが、また可愛くて、僕はクスッと笑った。








×××


「よくぞ! よくぞやりましたわ主様!」


「……アリス姉」


「ちょっと待ってください! 今いいところですの!……はい、クロ君、なんですの?」


「いや、音声録音送信をあの二人のものに付与したのは俺だからとやかく言えることじゃないかもしれないけどさ……アリス姉、今やってるの、ストーカー行為だよ?」


「すとーかー、とは何です?」


「えーっと、人の家とかに会話を盗み聞きするものを仕掛けたり、その人のこと追い回したりする奴のこと、かな」


「まあ! なんて酷いことを!」


「それ、アリス姉が言う……?」


「何故そんなことをするのです?」


「え? 大抵は、なんだろう、行き過ぎだ愛情……?」


「あら、愛ゆえでしたの! なら、それは仕方ありませんわ! 愛に勝るものはございません!

私も現に今、主様たちの面白……こほんこほん、重要な場面を聞き遂げるべく、こうしておりますわけですし!」


「自覚はあるんだね……」


「何の自覚ですか? そのすとーかーというものの自覚ですの?」


「……(俺、なんでこんな(ひと)好きなのかなぁ)」

勘違いだと勘違い。

今のジョシュアの状況はこの一言に尽きますね。

はい本当に。


そして、安定のセレス姉弟でした(^_^;)



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