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義姉の父もまた天然な件。

姉と父……親子というのは、やはり似るものらしい。







さて、レオンハイト家に戻ってきた僕なんだけど、父と机越しに向かい合ったまま一行に話が進まない。


「……」

「……」


この沈黙どうにかならないかな……!?

と思ったら、ようやく父が口を開いた。

ちょっとホッとする。


「が、学院ではどうだ」

「元気にしてますよ、僕も姉さんも」

「学部はどうした」

「実践魔法学部の攻撃魔法科に進もうと思ってます」

「そうか」

「はい」

「……」

「……」


ダメだ会話が続かない!

沈黙に耐えかねて、僕は本題を切り出すことにした。


「あ、あの、いつから、僕がその……だと、気づいてたんですか」

「屋敷に来て数日後には」

「そ、そんな頃からですか」


驚いたけど、なんだか安心している自分もいた。

殆ど最初から感づいていたというのに、僕に何か言ってくるようなことはしなかった。

もしかしたらあの不干渉さえ、父なりの思いやりだったのかもしれない。


けれど、それならそれで疑問だった。

僕の身は確かに利用価値はあるだろうけど、それ以上にひどく危ない。


「僕が今、すごく厄介な立場であることは分かってるんですよね……?」

「ああ、勿論だ」

「なら、何故——」


僕を見放さないんですか。

そう、言おうと思ったのに言えなかった。

怖かったのだ。


けれど父は片眉をあげて、あるで僕の心を読んだように言った。


「お前は、私の家族だろう。血の繋がりがなくとも、家族は家族だ。見捨てる気はない」

「——ッ!」


僕の、家族。


王たる父の死後すぐに裏切ったあの男もまた、僕の家族だった。

けれど、もう違う。

僕の家族は、この人達だけだ。


僕は改めてそれを思った。

照れ臭くて恥ずかしくて、口は思わず皮肉をつむぐ。


「そ、そんなこと言いますけど、セレス子爵にあっさりとバレるような手紙おくったんでしょう?」

「そ、それは……」

「食事の時も聞きましたけど、一体、どんな手紙をおくったんです?」


さっきのかっこよさは何処へやら、父は気まずそうに目線をそらした。


「なんというか、お前の出来があまりにいいからな、その……」

「はい?」


小声で言うものだからいまいち聞こえない。

聞き返せば、父はパッと席を立った。


「て、手紙の下書きがあるから、そちらを持ってこよう」


僕に何かを言う間も与えず、部屋を一度去った。

覚えていないのか?

いや、それならあんなに取り乱すまい。

じゃあ、なにか?

口に出せないようなことでも書かれてるのか。


父は少しして、紙を何枚か手に持って戻ってきた。

け、結構多いな。


「これだ」

「……読ませてもらいます」


本来なら他人宛の手紙を読むなんて褒められたことじゃないが、まあ、今回は本人が許しているから、いいだろう。

そう手にとって読み始めた僕だけれど、最初の数行で固まった。


「……これ、間違えてませんか?」

「いや、合ってる」

「本当にあなたが書いたものですか……?」

「ああ」


変なことを聞くと思われたかもしれないが、思わず聞いてしまうほどその手紙は父のイメージから遠かった。

何せ最初の一行が、



やぁ、ひっさしぶりだなーセレス! 元気してたかー?



だった。父の容貌でこのセリフを言う姿を想像してみた。

厳格な印象すらある父が、「ひっさしぶりだなー」と笑顔で……。

……なんだろう、違和感を通り越して異変感がする。


父はその、手紙とかではテンションの高い感じなのだろうか。

僕はちょっとばかりでなくびっくりしたが、読み進めることにした。




いやぁ、まさかお前んとこのと私の可愛い息子娘が仲良くなるとは思ってなかった。

驚く縁もあったもんだな!

そう言えばこの度そちらにお邪魔するようだが、できるだけ早く帰ってこさせるから。

私の家族だからな?

お前んとこに長居なんてさせるかっ!


そうそう、可愛い娘と息子と言えば、お前には書いたことあったか。

これはメリアーゼが三歳の時の話なんだが……


(ここから二枚に渡るメリアーゼの昔の話)


ということでな、まあ娘なんてメルゼに似てものすごくかわいいんだが、お前、絶対手ぇ出すなよ!

てかもう触れるなよ。

そんなことしてみろ! 私が許さないからなっ!




……なんだこの親バカ手紙。

そして僕は、果たしてこの前半を読む必要があったんだろうか。

いや、姉の話を知れたのは嬉しいけど、できればこんな形じゃなくて良かったんだが。


「……」

「……その、昔、あまりに文章が固いと言われてな。なんとかしようとしたら、こんな感じに……」


不器用な人だなー……。


「で、肝心の僕のあの話に入るのはここからでいいんですよね?」

「ああ」

「セレス子爵にあんなに確信を持たせるなんて、何を書いてあるか、気になるところですね」

「いや、ちゃんとぼかして書いたつもりなんだが……」


僕は先へとさらに読み進める。





そして、もう一人の私の子供、ジョシュアの話だ。

こいつはもう本当になにやらせても出来てな、万能すぎてもう父としては誇らしい限りだよ!

いやー、また身目もいいわ、魔力も多いわでむしろ欠点を探したくなるくらいだ、ははっ。

まあ、さすが某隣の国の某王子様だよな!

あ、いや、詳しくは言えないんだが。




「ばれますよ!」

「え?」

「いや、某隣の国ってなんですか、明らかもう言ってるみたいなもんじゃないですか!」


そ、そうか……?

と首を傾げられたところで思う。

そうだった、この人、あの姉の父である。

天然のレベルはむしろ上でもおかしくはない。


「バレたのが見た目のせいだとしたら困ると思ってたんですけど……これじゃ、そりゃあバレますよね。逆にばれない方が不思議ですよね」

「いや、私は読んでも分からないと思ったから……」

「天然の定規ではからないでください」


そう言えば少し落ち込んだように父は顔を伏せた。

お、面白い。

必死に笑いを堪えていたが、ついに吹き出してしまった。








そう、この時の僕はまだ知らなかったのだ——。

これから僕の身に起こる大事件。

その始まりが今、この間であったことを。


この後、僕は姉からこんな言葉を受ける。


「ジョシュア、もう私と一緒にいないで」


……え?

親バカなお父様でした(笑)


そして、大事件は…。



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