義弟とともに帰宅する件。
義弟が私抜きでばっかり話をしてる。
長かったようで短かったセレス家滞在は、とうとう終わりを迎えた。
「じゃあ、そろそろ出ます。セレス子爵、お世話になりました」
「おう。レオンハイトによろしくと言っておいてくれ」
「はい」
うん、ここまでなら普通なんだけど。
「あ、アリスちゃん、色々とありがとうね」
「ううう……っ! わ、私は、アリスは寂しゅうございますわ!」
と言っても、夏休みあけたら会えるからね?
今生の別れとでも言わんばかりの雰囲気に、私はちょっとひいた。
あれー? おかしいな、最初は私も少し寂しくなってうるっときてたんだけど。
なんかあまりに泣かれすぎたせいだろうか。
ジョシュアもやれやれ、と肩をすくめた。
「そのお顔があと何日も見れないなんて、ああ、なんという苦行でございましょう……!」
く、苦行ですか。
「アリス姉、それぐらいにしてさ。ほら、メリアーゼさんたち困ってるし」
アリスちゃんは、そうクロード君に言われて顔を上げた。
いつもよりさらに赤くなった瞳と目が合う。
「うう、す、すみませんわ。うっうっ、お見苦しい姿を、お見せしました」
「え、あ、うん」
見苦しいとかそういう問題でもない気がするんだけど……まあいいや。
クロード君が、まだ涙をポロポロこぼすアリスちゃんの肩を抱きしめる。
……ねぇ、アリスちゃん思いっきりクロード君に狙われてるよ?
魔法発動しないようにか知らないけど、英語でプロポーズされ中国語で愛囁かれてますよ?
あ、でも今は転生者でヤンデレじゃないからいいのか。
それにしては目線が怖い気がしないでもないけど……気のせいだろう。
あれだきっと。恋は障害の多い方が何とやらってやつ。
「アリス姉、大丈夫?」
「うっ、え、ええ。メリアーゼ様、ジョシュア様、道中、お気をつけくださいませ」
ようやく涙が止まったらしい。
目の周りは依然赤いままだけれど、アリスちゃんは何時もの微笑みを浮かべて見せた。
「うん、アリスちゃんも体調に気をつけてね。また新学期に」
「お邪魔しました」
ジョシュアと一緒に頭を下げる。
二人でバスに乗り込むというのが、なんとなく初めて学院へ向かった時のことを思い出させた。
けれど、違う。
私達は、帰るのだ。
え、道中はどうだったのかって?
寝てましたよずっと。
起きたときジョシュアが「我慢ここは我慢、耐えろ僕……」とか言ってたのにはびっくりしたけど。
なんかあったんだろうか。
「うはぁ〜! 愛しの我が家!」
「姉さん、危ないよ」
喜びのあまりクルクルと回っていると、ジョシュアに注意されてしまった。
えへ、と小さく舌を出す。
ジョシュアが息を飲んだような音がして、ヤバイ、ちょっとぶりっ子だったかと慌てて口を開いた。
「でも、そんなに長い間じゃなかったのに、すごい懐かしい感じがして」
「……そうだね。うん」
帰る場所って感じがするよ、なんてジョシュアが言うものだから思わず涙が出そうになった。
と、屋敷の扉が開く。
中から出てきたのは……
「ああ、二人とも帰ったのか」
「お父様!」
思わずブンブンと手を振れば、父は驚いたように目を見開いた。
「お父様?」
「——ああ、いや、すまない。
あまりにも……メルゼに似ていたものだから……」
お母様に。
覚えていないけれど、言われてなんだか嬉しい。
ぽん、と頭に手が置かれた。
そっと撫でられる。
「大きくなったな、メリアーゼ」
もう身長が伸びるような年じゃないだとか、そもそも一学期間でそんなに変わらないでしょうとか、そんなことも言えたはずなのに、私の口から出たのは、
「はい……」
なんていう小さな声だけだ。
うう、ジョシュアがさっきあんなこと言うから、しみじみモードが残っているのに違いない! きっとそうだ!
そのジョシュアは少しだけ拗ねたような顔で私の横に立っていた。
ふっと苦笑するような声が上から聞こえる。
父の手が私の頭から離れて、ジョシュアのところにいった。
「ジョシュアも大きくなった。……元気にしてたか?」
「……はい」
やっぱりジョシュアもはいとしか言えないようだった。
なんかこの父、ちょっと知らないうちにお父さんレベルが上がったんじゃないだろうか。
「ああ、遅くなったが、二人とも——おかえり」
私達はかろうじて聞こえるかどうかの声で、けれど確かに言った。
「「ただいま」」
ご飯の準備ができているということで、荷物を部屋に運んだ後、すぐに食間に集まった。
今日はコース料理風のようだ。
席につくと、前菜が運ばれてくる。
「か、かわいい!」
野菜のムースみたいなのが層になってて、まるでケーキみたいだった。
割と食事で贅沢はしない父がこんなしゃれたものを頼んだってことは、私達が帰ってきたのを祝ってくれているのだろう。
うう、食べるのがもったいないくらいだけど、いただきます。
「お、美味しい!」
私が思わず声を上げると、ジョシュアと父がちょっと顔を見合わせて、ふっと笑った。
なんか恥ずかしい。
いや、もう気にしない! 美味しいものが目の前にあるのだし!
前菜の次のスープも、味としてはジャガイモの冷製スープみたいだったけど、話を聞けば海老の出汁みたいなのもとっているらしい。
……ダメだ、全然わからない。
メインとして、これまた高そうかつ柔らかそうなお肉が来たとき、ふと、ジョシュアが口を開いた。
「そういえば、セレス子爵がよろしくとおっしゃってましたよ」
「ああ。どうだった、あいつは」
「えっと……」
答えようとした私は言葉に詰まる。
何言えばいいだろうか。
元気に壁を壊してましたよ! とか?
いや、それは違う気がする。
私がもう壁壊してたでいいかと思いかけたのをまるで分かったかのように、数秒先にジョシュアが答える。
「とても剛毅な方ですね」
おお、そう答えればよかったのか。
危なかったー……。
壁壊してたよ☆とかいうとこだった。
「あと、子爵は僕たちのことをご存知のようでしたけど……」
「ああ、あいつとはたまに手紙を送りあっててな。今回も、久しぶりに連絡を取った」
「へぇ……」
言われてみれば、レオンハイトの娘御とか呼ばれてたな。
そうか、父から聞いていたわけだ。
「名前だけでなく、他にも色々ご存知でしたけど、どんな手紙を返されたのです?」
「ごほんエホッうんゲフンごほごほ」
「だ、大丈夫ですか!?」
急にむせるからびっくりした。
すまない、と口を覆っている。
「あ、あとで……ジョシュア、あとでちゃんと話そう」
「え? ええ」
う、また私抜きで話か。
つきそうになったため息を飲み込んで、私はお肉を頬張った。
……何これ、うまっ!
お父さんレベルが上がった!
スキル「慈愛の瞳」を手に入れた!
スキル「父親の微笑み」を手に入れた!
称号に「子煩悩(親バカ)」が追加された!
……なんちゃって。
料理描写って難しいですね。
書かないとあれだし、書いたらどこでやめるべきかよく分からないという…。
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