義弟が思春期かもしれない件。
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義姉視点です。
私が死なないんだけど、どうしよう。
さて、ここでちゃんとヤンデレゲーム「キミの全てはボクのもの」について話しておこうと思う。
攻略者が五人いて全員ヤンデレだってことは言ったはずだ。
王都のレンデヤ魔法学院に主人公が入学してきて、話は始まる。名前については……うん、気づいても何も言わないでおいて欲しい。
ともかくその、安直っていうか暗示的というか嫌な名前の学院は、まあ病んでても学院なので、入る生徒の年齢が決まっている。
15歳から25歳が入学できるようになっていた。
だからヤンデレキャラの年は結構様々なのだけど、最年少がジョシュアだったのだ。
つまり15歳で入学したというわけ。
もちろん、こちらのジョシュアも15歳になったら学院に入るように言われている。
そう、ここまではいい。
問題は、そのジョシュアがもうすぐ15歳になってしまう、ということだ。
引き取られて来た時が12歳だったから、三年近くが過ぎたことになる。
案外短いものだなぁとしみじみしたいところなんだけど、昨日ふとそのことに思い当たった私は愕然とした。
あれ、私死んでないぞ?
それどころか、前より元気なくらいじゃないか?
20歳まで生きれないって言ってたよね!
ジョシュアの4歳年上の私はもうすでに19歳なんですけど⁉︎
——これはマズイ。
いや、いいことなんだけど。長く生きれるのは、いいことなんだけど。
長寿万歳なんだけど!
でも、このまま行くと私ワガママな姉だと思われるだけじゃん!
しかも……しかも、ジョシュアをMにしてしまった義姉って‼︎
乙女ゲームの種類変わっちゃうよ⁈
なんて夜中一人布団の中でバタバタしていたりして。
次の日、お父様に医師を呼んでもらった。
最近体調を崩すこともなかったから、久しぶりの診察だ。
一年ぶりくらいかもしれない。
「お久しぶりですわ、エリック医師」
お嬢様の仮面をつけるように、できるだけおしとやかにしてみる。
お久しぶりです、と人の良さげな初老の男性は頭を下げた。眼鏡の奥の瞳は開いているのかわからないほどに細い。
「どうかされたのですか? 最近お会いしておりませんでしたので、心配だったのです」
「いや、そのですね、体調が悪いわけじゃないのですけど、なんていうか……」
ダメだ! すでにお嬢様の仮面が剥がれ始めた。
うーん、お嬢様らしくっていうのは結構難しい。
とりあえず無理にちゃんとするのはやめて、頭の中で言いたいことを整理していく。
「……逆なんです。私、20歳まで生きられないはずでしょう? なんでこんなに元気なのかと思って」
「それは……失礼。“診察”をさせてください」
「はい」
エリック医師の眼鏡が煌めく。
ガラスの部分が魔法結晶になっているのだ。
この世界で診察と言えば、この眼鏡で体内の魔力や血液の流れを診てもらうことを言った。
透視とかのスケベ眼鏡かと勘違いして一度貸してもらったことは……うん、まあいい思い出だ。
実際は、なんか色水のようなものが体を巡ってるのが見えるだけだった。
ちょっとガッカリした。
しばらく困惑したように診察をしていたエリック医師は、いぶかしむような声を出した。
「……お嬢様。メリアーゼお嬢様。もしかして、魔法を、お使いになられましたか」
「え? ええ」
医師が息を飲む。
どうしたのかな?
大体1年半前くらいに日本語が魔法言語だと知ってから、かなり頻繁に魔法を使っている。
一番得意なのは治癒系か、部屋を暖めたり冷やしたりする魔法だろう。よく使うから。
「お嬢様、魔法の才能とは何か、ご存知ですか」
「えっと……魔力の量とかですか?」
咄嗟の言葉に、エリック医師は首を振る。
じゃあ何なんだろう。少し眉が寄った。
「魔法言語を習得できるかどうかです。そしてメリアーゼ様、貴女はそれができない、はずでした」
……ん? ちょっと待て。
私は——メリアーゼは、魔法言語ができなかった?
特別気にしたことはなかったけど、確かにそれまで魔法を使った覚えはない。
こうして振り返ってみると、魔法に関する知識が少ないなぁ。
「出来るはずがなかった。生まれた時に才能がなければ、もう魔法はできません。だからレオンハイト伯爵も貴女に魔法の知識を与えなかった。……なぜです? なぜ急に使えるようになったのですか?」
「そ、それは……」
ああ、知識が少ないのは才能がないって分かったからか。
でも、言えないよね。前世の記憶が蘇ったとか、この世界は実は前の世界のゲームでしたー、とか。
困惑する私にエリック医師はため息をついた。
「いえ、それは構いません。しかし、魔法が使えるようになったならば、病気はもう大丈夫ですね」
「え? 大丈夫って、それはどういう……」
「もともと、お嬢様の病気は魔力過多ですから」
「魔力……過多?」
聞いた覚えのない病名だ。
前世の記憶を辿っても該当なし。いや魔力過多とか前世で出てきてたら、その人は間違いなく中二病だと思うけども。
「そうです。魔力は使わなければどんどん溜まっていきます。それが多すぎると、体に負荷がかかり……死に至るのです」
「はぁ」
なるほど、そういう病気か。
魔力怖い。
ですが、とエリック医師は明るく続けた。
「ですが、魔法が使えるならばもう治ったようなものでしょう」
「まぁそうですよね、溜まった魔力が抜けるのですから……って、あれ?」
一瞬の沈黙。
ん? エリック医師なんて言ったっけ?
……治った? それってつまり、
「私、死なないの⁉︎」
「ええ」
医師は平然と頷いた。
ちょっと話を変えよう。
ジョシュアのことだ。
最近のジョシュアといえば……何を考えてるか分からない。
思春期の息子を持つ母親みたいなこと言ってる自覚はある。
「もう最近本当にうちの子なに考えてるか分からなくてー」
「あらうちの子もー」
「「思春期ねー」」
みたいな。よく知らないけど。
ジョシュアが思春期なのかも知らないけど。
まあ、異性の気持ちがわからない時は「思春期」だ。
でもあの日怒鳴りつけた時に笑顔だったのはもうマジで怖かった。
ヤバイ、これ間違いなくMだって。
頑張ったよ私! 罵り言葉とかいう明らかに嫌なカテゴリーの言葉出してきたよ!
なのに笑ってるとか何⁉︎
……ちょっとしたパニックに陥りましたよ。ええ本当に。
逆に優しくしてあげた方が嫌われるかと思ってそうしたら、それはそれでニコニコしてるし。
……本当に何なんだー⁉︎
そして今。
「姉様、病気治ったって⁉︎」
部屋でトラウマになりつつあるニコニコ笑顔を浮かべているこの義弟を、どうするべきでしょうか。
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