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兎の恋愛講座。

39話目ということで、改めて感謝を。

感想、お気に入り登録、ありがとうございます!

ごきげんよう、皆様お久しぶりです。

アリスでございますわ。


うふふ、この度、メリアーゼ様に恋愛のあれこれを教授させていただく次第となりまして、私、ゆるむ頬が抑えきれませんわ!


今、屋敷の一室でメリアーゼ様と机を挟んで向かい合っておりますのですけれど、ああ、何からお教えすればいいのでしょう?

迷いますわ!


「うふふ、うふ、うふふ」

「……アリスちゃん?」


かけられた声でハッといたしました。

ああ、私としたことが、うっかり自分の世界に浸っていましたようですわね。


「メリアーゼ様、すみません。少し、考え事をしておりましたの」

「……うん」


それで、とメリアーゼ様は椅子に座り直されました。


「急にどうしたの?」

「どうしたの、とは?」

「その、わざわざ二人きりでって強調してたから、何かなって」

「別にたいしたことではございませんのよ」


にっこり笑えば、少しメリアーゼ様が焦られたような顔をされました。

どうなさったのでしょう?


「……アリスちゃんって、実はユリな方だったり」

「ユリとは?」

「あー……いや、なんでもないや」


そう止められれば、余計気になるというものですのに。

けれど、メリアーゼ様はこれ以上教えてはくださらないようですし、今度、クロ君に聞いてみることにいたしましょう。


「私がお話ししたかったのは、あなた様がどこまでこの世界の常識をお持ちなのかと……いえ、遠回しな表現はよしましょう。

率直に申し上げます。

メリアーゼ様、あなた様は少し常識がないように思われますわ」

「本当に率直デスネ……」


言葉が少しきつくなってしまったことは申し訳ないのですけれど、婉曲な言い回しでは話が進みませんもの。


「例えばですけれど、花を贈られた時、その花言葉を確認なさってますか?」

「え? そんなの確認しなきゃいけなかったの!?」

「……ええ」


……早くも前途多難そうな予感がしてきましたわ。

花言葉をご存知ないのではなく、花言葉を含めて花を贈ることをご存知なかったですのね。


「よろしいですか、メリアーゼ様。次よりはきちんと確認なさってくださいませ。

場合によっては、大きな問題にもなりうることなので」

「う、うん」

「ではこれをお持ちください」


私はそれなりの厚さのある本を手渡しました。

花言葉の辞典でございます。


「ぶ、分厚いね……」

「そうでしょうか」

「……」

「他には、ええと、」


ちらっとメリアーゼ様の首飾りが私の目に止まりました。

ああ、これも言わねばなりませんわね。


「アクセサリーなのですけれど、基本的に、心臓から遠い部分から贈るのが普通で、大抵、指輪は交際の申し込み、首飾りは求婚を意味しますので、ご注意くださいませ」

「えっ!」


私がそう申し上げると、メリアーゼ様は少しほおを赤くなさいました。

指先で首飾りを弄られる姿は、もう、美しくて、私の顔まで赤くなるかと思いましたわ!

しかし演技力には定評のある私なのです。

拳を握って堪えました。


「じゃ、じゃあ、これも外さなきゃいけないかな? ジョシュアも求婚なんて知らなかったんだろうし……」


いえ、あの方は間違いなくご存知だと思いますの。

勿論、申し上げませんけれど。


「そうですわね、まあ、外した方がよろしいかもしれませんわ」

「折角もらったし、気に入ってたんだけどなぁ……」

「ぐふっ!」

「え? あ、アリスちゃんどうしたの!?」


何でもありませんの、とだけ言って私は口を抑えました。

な、なんですの、今のは。


まるで恋する乙女さながらの切なそうな表情。

メリアーゼ様がいくらかジョシュア様に好意があることは存じておりましたけれど、本当はジョシュア様のこと、かなり意識して……いえ、早急な判断は失敗を招きますわ。


けれど、この様子では外していただきますのは逆効果にしかならなそうですわね。


「メリアーゼ様。首飾りは外さなくても結構でございますわ。

あくまで、家族からの贈り物ですから」

「あ……そっか。いや、うん、そうだよね!」


……? 少し落ち込まれたように見えたのは、私の見間違いでしょうか。

まぁ、家族からの贈り物はせいぜい耳飾りまでなのですけれど、それは黙っておくことにいたしました。

うう、なんだか嘘をついているようで、罪悪感に胸が少し痛みますわ。


「じゃあ、少し前から気になってたんだけど、アリスちゃん指輪してるでしょ?」


指で示されて、私は自らの手を見つめました。

小さな黄色の石のついたシルバーの指輪がはまっています。


「それって、お相手がいるってこと?」

「いえ、これは……クロ君が、くれたものですの」


私が少しだけ微笑むと、メリアーゼ様はびっくりしたような顔をなさいました。


「……その指にはめたのは、アリスちゃん自身?」

「いえ、クロ君が私の手を取って……」


私は薬指にはまったそれをそっと撫ぜました。

思い出すと、ほおが熱くなりそうですわ。


「その時、何か言ってた?」

「え? ええ、確か『うぃるゆーまりーみー?』だったと思いますわ」


なぜにそこで英語、とおっしゃってますけれど、えいごとは何なのでしょう?


「——アリスちゃんは何て答えたの?」

「『はい、とだけ答えて』と言われましたので、はい、と」


あちゃー、とメリアーゼ様は顔を覆われました。

な、何かまずいことでしたのでしょうか?


「あ、あの、メリアーゼ様、意味をご存知ならお教えくださいませんか?」

「……多分、そのうち本人が言ってくれるんじゃないかなー……」


う、気になりますけれど、それなら耐えるほかございませんわ。


「一つ聞きたいんだけど、いい?」

「ええ、何なりと」

「この世界って姉弟間の結婚ってありなの?」


私は思わず、目を見開きましたわ!

こ、これはまさかの展開ではございませんの!?

クロ君がよく言う『ふらぐ』というやつでしょうか?


「ええと、ありかなしかで言えば、ありですの」

「へぇ……クロード君、ほかに何か言ってくれたりする?」

「『あいらぶゆー』と『うぉーあいにー』はよく」

「……愛されてるねぇ」


それを言うならメリアーゼ様こそ、と言いたいところですけれど、本人はお気づきてないようですので、言わない方がよいらしいのでしょうね。

歯がゆくはございますけれど。


そんな風に、いかにメリアーゼ様に気づいていただこうかと考えました時、部屋のドアが叩かれました。


「昼食の時間にございます」

「あ、はぁい」


返事をしたのはメリアーゼ様でした。

すぐに立って部屋を出て行かれます。


私はそこで致命的なことに気づいたのです……!


「まだ、全然教えたりませんのに!」


こっそり現代ルールで求婚している弟その二。


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