義姉の恋愛知識がなさすぎる件。
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義姉の鈍感さをなんとかしたい。
ちょっと、作戦会議をしようじゃないか。
アリス特製の結界の中で、僕とアリスとクロードとが向かい合っている。
僕はひどく真剣な表情で口を開いた。
「姉さんに意識してもらうにはどうしたらいいと思う?」
「「……」」
ん? あれ、なんだこの反応。
向こうも向こうで、その話かよって顔してるし。
「……あの、主様?」
「ん? 何だ」
「私空間を作れと言われました時、お父様とお話になっていたことをお聞きできるのかと思いましたのですけれど……」
「いや、別にそういうつもりはないんだが」
僕が首を振れば、アリスはため息をついて顔を覆った。
「昨日は突然買い物に行かれるとおっしゃいますし、今日はこの通りの雨ですし……。
そろそろネタが尽きて、私達が真実を知る話になるかと思いましたのに」
「……? 何の話だ?」
「いえ、こちらの話ですの」
よく分からんが、あからさまに僕を見てため息を付くのはやめてほしい。
「そもそも、お前らどうせ聞いていたんだろう?」
「まあ、それはそうなんですが……」
やっぱり直接聞きたいじゃないですか、とアリスは口を尖らせるが、僕にとって、けして話したい話題じゃない。
「もう少しだけ待ってくれ。
確かに、覚悟は決めた。だが、まだ道は決まってない。
それがきちんと決まった時、話すと誓う」
「……分かりましたわ」
アリスは少し不満げながらも頷いた。
僕も頷きを返す。
「——それで、姉さんのことなんだが」
「え、今のであの話は終わりなんすか!?」
「ん? ああ」
「なんだか開き直ってる気がするっすよ……」
いや、開き直っているというより、今の僕ではどうしょうもないことだと分かっているのだ。
歯がゆくはあるけれど、それに悩んで他をおろそかにする訳にはいかないだろう。
僕の中では今にも爆ぜそうな感情もあるが、あくまでも頭は冷静でなければならない。
「とりあえず、今できることと言ったら姉さんとの距離を縮めることかな、と」
「なんでそんな400°思考を転換したみたいな発想になるんすか」
「……それだと40°しか回ってないぞ?」
ともかく、突飛な発想だと言いたかったらしい。
「けれど、確かにメリアーゼ様のあの天然ぶりは問題ですわね」
「だろう?」
「え、アリス姉もその話題に乗るの?」
クロードが少し驚いたような顔を向けてくる。
「だって、びっくりするほど鈍感ですのよ、あの方は!」
「……メリアーゼさんもアリス姉には言われたくないんじゃないかな……」
そう言われても、何のことですの? と首を傾げるアリスに苦笑すれば、同じく苦笑したクロードと目が合う。
苦労するな、という視線に、お互いにっすね、と言いたげな視線が返された。
姉には苦労させられっぱなしなのは、どこの家でも似たようなものなのかもしれない。
「また仲間はずれですのっ!? ……うう、もういいですわ。問題点を上げていきましょうか」
アリスの言葉にこくりと首を縦に振る。
「僕は、何がいけなかったんだ?」
「ちょっと待ってくださいませ」
アリス姉は記憶を辿るように目を閉じた。
「まず、他の子へのプレゼント選びと称してアクセサリー屋に連れて行ったのはいただけませんわ」
「うっ!」
いきなり痛いところをつかれた。
それは、確かに僕もよくないとは思ったけど、他にアクセサリーを扱うような店に行く方法が分からなくて……。
「まあ、そこまではなんとかおおめに見ましょう。それよりも、自分からお誘いになったというのに、退屈そうなあの態度は何なのです!?」
「だ、だって、なんか僕の好きな人相手にだと思ってアクセサリー選んでる姉がなんだか嫌で……」
「面倒な男ですわね!」
お、お前、最近さらに容赦無くなってないか!?
「それになんですの、いきなり首飾りを贈るなんて! ご存知でしょう? 基本的にアクセサリーは——」
「指輪、腕輪、髪飾りか耳飾り、そして首飾りの順で贈るんだろう?」
胸から遠い順に贈っていく、ということだ。
ちなみに指輪で告白し、首飾りで求婚、結婚式でそれら一式を新たに贈る、というのが一般的だ。
「だったら何故いきなり首飾りですの!? しかも手ずからつけるなど、もはや求婚の仕草ですわ!」
「それは、ほら、他の男の牽制?」
「牽制通り越して既婚者かと思われますわよ!」
「それならそれでいいかな、って」
「あなた様が良いか悪いかではありませんの!」
メリアーゼ様も何故つけられたのか不思議なくらいですわ、とアリスが言えば、しばらく口を閉じていたクロードが不意に声を上げた。
「ねぇ、そもそも、メリアーゼさんってそれ知ってるの?」
「……どういう意味ですの?」
「いや、ほら前の双花を贈ってた時も思ったんだけど、もしかして、そういうのよく知らないんじゃないかなー、なんて」
アリスは困惑したような表情を浮かべているけど……僕にはちょっと思い当たることがあった。
そう、姉は元々病気だったわけで。
貴族社会での、こういう交際に関することっていうのを教えてもらってない、のかもしれない。
それに本来母親から教わるはずの花や花言葉の類も、姉は知り得ない訳だ。
「あり得る、な」
「ええっ!? それでは今までの行為が全て無駄だったということですの?」
「……」
無駄とか言わないで欲しい。
微妙に傷つくから。
アリスはどうしたものかと視線を彷徨わせ——そして、いいことを思いついたと言わんばかりに瞳を煌めかせた。
……嫌な予感がする。
「うふふ、不肖私アリス——メリアーゼ様の恋愛講座の教師の任を務めさせていただきますわ!」
予感、的中である。
視界の隅で、クロードが無理無理、と手を振っていた。
アリスとジョシュアは殆ど恋バナしかしてない気がする……。
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