義弟が少女漫画の男の子な件。
前話のセレス子爵が、ちょっと酷かったので、少し訂正入れました。おおよそは一緒ですが、見てくださると嬉しいです。
さらに言えば、少しでもセレス子爵の好感度が上がるともっと嬉しいです。
今回は思い切りコメディーです。
前書きがネタバレ&しつこいという指摘を受けまして、これまでのものを整理しました。
義弟がイケメンだ。
「ちょっと、すごいよジョシュア! 見て見て!」
私はあれこれ手にとってはジョシュアに見せた。
私たちは今、城のある丘の下、いわゆる城下町とでも言うのか。
ともかくそこでショッピングをしていた。
結局、王都も全然回れてないし、家にいた時も外に出ることは少なかったものだから、見るもののほぼ全てが目新しくて楽しい。
あ、ちなみに財布はジョシュアが持ってます。
さすがに私も学んだのです、はい。
最初はアリスちゃんたちと一緒に行動してたんだけど、館の修理に必要なものをついでに買ってくるとかで、別行動になった。
ちょっと慌てたけど、まあ、ジョシュアは方向音痴の真逆だからなぁ。
外出する時一人は欲しい、ナビゲーターのジョシュアくんです。
と、私は一つの屋台の前で足を止めた。
なんとも美味しそうな匂いがする。
見れば、丸められた生地を油で揚げて、シナモンのような香りのする粉をまぶしたものだった。
揚げドーナツみたいなものだろうか。
「ねぇ、ジョシュアこれ買っていい!?」
「何それ……って、ライシフか」
出てきました異世界の名前の食べ物ー!
ジョシュアはすぐに会計を済ますと、私に紙にくるまれたそれを手渡す。
たまらず頬張れば、やっぱりシナモンの香りがして、外はカリカリなのに中がふんわりとしている。
「美味しい〜!」
高そうではないけど、それがまた少し懐かしい味で、顔が綻ぶ。
ジョシュアがつられたように笑った。
「ずいぶん幸せそうに食べるね」
「だって、美味しいものを美味しく食べる、これ以上の幸せはないでしょう!」
そっか、とジョシュアが言うので、そうだよ! と返す。
揚げドーナツを売っていたおばさんがプッと吹き出した。
「仲良いねぇ、お二人さん。恋人かい?」
「えっ!」
言われたジョシュアがなぜか真っ赤だ。
しかも否定しないものだから、私が代わりにと声を上げる。
「違うよー」
「あはは、そうだったかい」
あれ? ジョシュアどうしたんだろう。
「確かに違うけど……すぐに否定しなくても……」とか聞こえた気がする。
なんかすぐに否定するのは良くなかったらしい。
あ、あれか。姉と買い物だなんて、シスコンだって思われるのが嫌だったのか。
それは悪いことをしてしまったかもしれない。
そういえば、とふと思う。
「ジョシュアって、好きな子いるの?」
「えっ!? な、なんで急に?」
なんとなく、なんだけど。
ジョシュアの顔が真っ赤になっていて面白い。
案外、初心なのかな。
いやでも、腐ってもヤンデレキャラだし、そんなこともないのか?
「す、好きな子は、いる……」
「へぇ」
そう返した自分の声が思いの外低くて驚いた。
ジョシュアも少し目を見開いてこっちを見ている。
誤魔化すように、どんな子なの? と明るい声を上げた。
「え、えっと、髪はラヴェンダー色で、とスミレの瞳をしていて……肌はまるで白磁みたいな、で、手足が折れてしまいそうに細長くて……」
ん? なんかその感じ、聞いたことがある気がする。
額にトントンと指を当てていると、アリスちゃんの声を思い出した。
『私の好きな方は、ラヴェンダーの髪とスミレの瞳、白磁の肌に細長い手足の美しい人ですのよ』
……。丸かぶりですよね、これ。
いや、浮いた話が一つもないから、もしかしたらとは思ってたんだけど……。
ヤンデレからBLゲームにチェンジしたのか?
「……ジョシュア。
私腐ってないから賛成はできないけど、ジョシュアがその道を選んだなら、応援するよ」
肩にぽんと手をおく。
まあ、うん。ジョシュアみたいな美青年ならありなのかもしれない。
私が温かい目で見つめれば、ジョシュアは急に慌て出した。
「ね、姉さん? 多分なんかまた勘違いして——」
「何も言わなくていいよ。大丈夫」
「いやいや! 絶対それ勘違いだから! ちゃんと話して!」
「えっ」
いいの? と聞けば、ブンブンと頷かれた。
だ、大丈夫なのかな、こんな街中で……。
「ジョシュア……男の人が好きなんでしょ?」
「ぅえっ!? 何でそうなったの!?」
「あ、あれっ? 違った?」
またもやすごい勢いで頷かれた。
そっか、勘違いか。
うわーびっくりした。
ってことは、アリスちゃんと好みが被ったのは偶然か。なぁんだ。
「え? でもそれならなおさらいいの? アリスちゃんとか私と外出したりしてたら、その子に誤解されるんじゃないの?」
「ご、誤解?」
そうだよ、と言えばジョシュアはなんだか落ち込んだように顔を覆った。
その可能性は考えてなかったー! ってやつかな。
「私、戻ろうか? アリスちゃんたちに連れて来てもらうし」
「い、いや、その……その子へのプレゼントを買って行こうと思ってて! 相談に乗ってくれないかなぁ、なんて……」
「あ、そうだったの? そういうことなら、手伝うよ」
「……うん」
なんかやたらジョシュアの声が暗いのが気になるけど、まあいいか。
「そうと決まれば、アクセサリーとかのところ行こうか!」
「うん……」
ライ、セフ? ライチフ? ……ともかく揚げドーナツの屋台の前を離れる時、あのおばさんがジョシュアに苦笑気味に手を振った。
「また来ておくれよ。……あんたも、苦労するねぇ」
「……はい、本当に」
なんの話だろう?
「なんでこんなことに……」
「ジョシュア、何ブツブツ言ってるの? これなんかどう?」
ピンクの石が付いた指輪を手に取る。
「……それ、姉さんは好き?」
「いや、私にはちょっと可愛すぎるかな」
「じゃあいい」
素っ気なく言うジョシュアに、もうなんなんだ、とちょっと苛立つ。
誘ってきたのはそっちなのに、どうにも乗り気じゃない感じなのだ。
私もなんだか、楽しい気分じゃないし。
なんでだろ、前世での恋愛偏差値低すぎてこういうのが嫌なのか。
いや、でも友達の恋のキューピット的なことするのは好きだったはずなんだけどなぁ。
アクセサリーをいくつか見てると、すごく好きな感じのを見つけた。
「うわ、これ可愛い」
アクアマリンの小さな雫型の石が揺れるペンダント。
「どれ?」
「うん、これ……ってわぁ!」
顔がすぐ近くにあって思わず飛びのく。
その時転んで近くの棚にぶつかりそうになったところを、
「危ないよ、姉さん」
ジョシュアに支えられた。
な、なんか、ちょっと抱きしめられてるみたいなんだけど……。
「う、うん……」
そうやって返事するだけで精一杯だ。
「姉さん、そのペンダント気に入ったの?」
「え、あ、うん。で、でも、私の好みだから……」
言い終わらないうちに、これください、とジョシュアは言われた値段を払った。
「はい」
「え?」
「えっと、その、付き合ってくれたお礼、みたいな……」
「あ、ありがとう」
受け取ろうとして手を伸ばすと、さっとジョシュアがそれを引っ込める。
何? ここで唐突な嫌がらせ?
「付けてあげる」
「へ? ひ、ひゃっ!」
後ろに回られて、カチリと金具がはまる音がした。
は、恥ずかしい。何これ、恥ずかしい。
ジョシュアは私を正面から見つめて、にっこりと笑った。
「よくにあってるよ、可愛い」
……。
い、いつから私の弟はこんな少女漫画の中の男の子みたいになったんだ!?
×××
「クロ君、見ました今の!」
「見たよー……」
「もう、別の子へのプレゼント選びなんて言った時はバカなのかと思いましたけれど、なかなかいい感じじゃありませんの!?」
「ちょっと、アリス姉、いつまでこののぞきみたいなの続けるのさ……」
「ああ、メリアーゼ様、確かにお似合いですわ!」
「アリス姉、落ち着いて……はぁ、俺らもデートかと思ったのに」
「なにか言いましたか、クロ君」
「ううん何もー」
「……?」
またまたちょっとかわいそうなクロードでした(笑)
感想など、くだされば嬉しいです!




