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義姉の目が節穴かもしれない件。

いつも感想やお気に入り登録、ありがとうございます!

姉には、何も知らないでいて欲しい。








しばらくしてやっと落ち着いた時、僕は目が回っていた。

ちょっと気持ち悪い。

抱えられたままグルングルン回されたものだから、仕方が無いのだけど。


しかも、ずっとなんか笑ってるし、色んな意味で怖かった。


「えっと、それで、あなたがセレス子爵なんですか? ……アリスちゃんたちの、お父さん?」


嘘だと言いたげな姉の質問に、セレス子爵はいかにも、と笑った。


アリスたちはむしろ華奢っぽいのに、セレス子爵は僕の三倍……いや、下手するともっと太いぐらいの腕。

なんらかの魔法は使っただろうが、それでも拳で屋敷を破壊するその剛腕は、どう見てもアリスたちの親には見えない。


ずっと頭を抱えていたアリスがようやく口をひらく。


「……色々と言いたいことはあるのですけれど……随分早いお帰りですわね、お父様」

「おう! 今回はそう物を壊さなかったのでな」

「……できれば、家も壊さないでいただきたかったですわ……」


そんなアリスの言葉にガッハッハッと剛毅に笑うセレス子爵だが、笑いどころじゃないぞ。


「まあ暑いし、風通しがよくなったろう」


いや、だからそんなもんじゃない。

風通しどころか吹き荒ぶだろうよ。


「ああ、あと外の罠を掛けたのはお前かクロード」

「うん、まあね……全然聞かなかったみたいだけどさ」

「ガッハッハッ、ぬるいぞ、ぬる過ぎる。

今回討伐したのなんてな、攻撃してきた人間を毒の水に閉じ込めて、呼吸も行動も出来なくしつつ襲ってきたからな。

いやぁ、あれは大変だったわい」

「……さいですか」


電気流されようが火に取り巻かれようが水に閉じ込められようが平気って、もはやこの人、人間なのか?


そしてこの人と話すに連れてアリスたちの元気が失せていくんだが。

なにか特殊な術でも使っているのか?


「それにしても、あのレオンハイトの娘……確かにメルゼさんによく似とる」

「……はぁ、そうなんですか? 会ったことがないので、よく分かりませんが」


その手が姉の顔に触れそうになったので慌てて止める。

そうしたらこっちに視線が向いた。

……あれ。なんかデジャヴュ。


また持ち上げられるかと身構えた僕だけど、ポンと頭に手を置かれただけだった。

しかし、その目には優しさ以外の何かも宿っていて、僕は体を固くした。


「レオンハイトに聞いたぞ、金の髪の少年。国境近くの孤児院から引き取られたそうだな」

「そ、それが、どうかされましたか」

「ふむ。……どこの国でも濃い色の瞳と金の髪は、王族に出やすいというのは、案外知られていないのかと思ってな」

「っ!」


勘付かれている、のか。

ここには姉がいる。

万が一にも、ばれるわけにはいかないのだ。


「……なんの話ですか。別に、出やすい(﹅﹅﹅﹅)だけであって、そうだから王族というわけではないでしょう」

「まあ、それもそうだが」


ちらりと姉を伺えば、困惑したような表情だった。

姉は、知らなくて、分からなくていいのだ。


「それに、その二つは同時に魔力の高いものの象徴とも言えます。

……これでも僕は学院史上一の魔力量らしいので、そのせいでは?」


ふうむ、と言ってからセレス子爵は口の端を釣り上げた。

ゾクリと寒気に似た感覚が奔る。

まずい。やはりほぼ確信しているのだ、この人は。


僕が睨むような視線を向ければ、やはり悪童のような笑みで受け止められる。

空気がピンと張るのが分かった。

冷や汗がにじむ。


「ねぇ、父さんとレオンハイト伯爵って、仲良かったんすか?」


緊迫した空気を崩したのはクロードだった。

狙ったのかどうか分からないが——いや、おそらく狙ったのだろうが、雰囲気が緩んでホッとした。


「ん? まあな。学園時代の友人だ。魔法で勝てたことはなかったが、体術で負けたことはない。

元はお互い同じ子爵家の子息だったからか、いいライバルであったよ。

ただ、あいつの方は物も壊さずうまくやるもんだから、伯爵位なぞもらいおったが」

「……普通は壊さないのですわよ?」


アリスの声を聞き流して、セレス子爵は言葉を続けた。


「しかし、レオンハイトが竜を退治したと聞いた時は、流石に驚いたな。その後の行動もだが……」

「竜!? え、お父様って竜なんて倒してたの!?」


あれ? 姉は知らなかったのか。


知ってた? と聞かんばかりに視線が向けられて、僕は頷いた。

アリスたちにも同様に視線が送られたが、みんな頷きを返した。


「じゃあ、知らなかったのって私だけ……?」


その落ち込みようがあまりにすごいものだから、思わず吹き出した。

つられたようにアリスとクロードが笑い、セレス子爵も続く。


完全に、固い雰囲気はなくなっていた。

こういうのを天然でやるあたり、姉はすごいなと思う。


「ちょ、ちょっと、ジョシュアも笑いすぎだよ!」

「あはは、ごめんごめん」

「謝ってるのに誠意が感じられない!」

「くっ、あはは……」


もう、と少し怒ったような姉の顔がまた可愛くて笑ってしまった。

それからしばらく笑っていた僕らだけど、不意にセレス子爵が口を開いた。


「ジョシュア、といったな」

「は、はい」


ビクッと肩が跳ねる。

一度去ったあの空気が、また戻ってくるような気がした。

クロードと同じ、けれどずっと強い金の瞳が僕をじっと見れば、動くことすら叶わない。


「後で、話をしようではないか」

「……はい」


これはもう、避けられない。

そう悟った僕は覚悟を決めた。


そんな僕を見て、セレス子爵の片眉が面白いものを見るように上がる。

それから笑って声を上げた。


「さぁて、ではまず飯にするか」

「言われなくても、そのはずでしたのよ! 誰かがエントランスを壊したりしなければ」

「うん? ああ、ドアを開けても繋がらなかったからな」

「だからと言って壊さないで欲しいですわ……」


そんな会話の影で、俺の魔法が全部裏目に出た気がする、とクロードがいたずらに失敗した子供のような表情を浮かべた。


「ふふっ、アリスちゃんとセレス子爵って親子仲がいいんだね」


姉はそんなことを言って笑っているが……。

姉には見えていないのだろうか、アリスのこめかみに青筋が浮いているのが。


よく、「さいですか」っていうの見るんですけど、「そうですか」と何が違うのか実は微妙に分かってない…。


さて、セレス子爵、キャラが未だにちょっと掴み切れてない気がしないでもありませんが、堂々?登場でした!


感想など、頂けると嬉しいです!

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