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義弟が花を贈る件。

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どうなってんだ、これ。


「おーい、父が帰ったぞー」


目の前には、そう怒鳴るように声を張る、2mはありそうな大男と——壊れた壁。


あれ? この壁って実は発泡スチロールかなんかだったの?

なんか、ドゴォンとすごい音がしたかと思ったら、エントランスの壁が一部無くなっていた。

え、どうなってんのこれ?

そしてこの人誰!?


アリスちゃんたちは頭を抱えてるし、ジョシュアは私と同じようにポカンとしている。

な、なるよね。こうなるよね。


男はそのゴツい腕を回して、フゥと息を吐いた。

こちらを向いた顔と目が合う。

そのいかにも強面の顔が、笑みの形に綻んだ。

な、何?


「そちらがレオンハイトの娘御か?」


怖い。ただでさえデカイのに……それがズイと近づいてくるもんだから、思わずビクリと後ずさる。


と、ジョシュアが前に出た。


「あ、あの、セレス子爵?……姉が怯えているので……」


ありがとう、助かったー!

って、え?

この人がセレス子爵!?

アリスちゃんたちのお父さん!?


……うそ、全然似てないんだけど。


そして、セレス子爵の興味は私からジョシュアに移ったらしい。


「お主があれか、養子に来たというジョシュアか。ほう、綺麗な金髪をしとるな」

「へっ!?」


ちょ、ジョシュアが持ち上げられてるんだけど!

ジョシュアも身長伸びたけど、それでも子爵がデカすぎるから、高い高いみたいになってる。

それを取り返そうとアリスちゃんが本当にうさぎみたいにぴょんぴょん跳ねてるけど、全然届かない。

って、実況してる場合じゃないよね。


唯一無事なクロード君に目を向けたが、「あ、無理です」って顔で首を振られた。

おい、お前それでも男か!


「おおお降ろして差し上げてくださいませ、お父様!」

「んー? アリス、そんなもんほら、自分で取り返せ。自らの主だろうが」

「う、うわあちょっと振り回さないで! って、セレス子爵聞いてます!?」


主とか変なこといってるけど、それどころじゃない。

ど、どうしよう、この阿鼻叫喚。








時間はその日の朝に遡る——。


朝食で、とびきり美味しいトーストとソーセージをいただく。

サクッフワッの食感に口に広がるバターの香り。プチっと弾けるソーセージは、もう、本当に堪らない。


なんて、美食レポートもどきをしてた私だけれど、アリスちゃんがニッコリと笑って聞いてきた。


「今日は何をされますか?」

「ん? うーん、この辺りの名所とかあれば、そこに行ってみたい、かな」


そう言えば、アリスちゃんが少し困ったように何か言った。


「……家をあけるとなると、あの男の襲撃に備えるのが難しくなるかもしれませんわね……


よく聞こえないが、迷惑をかけたいわけじゃないので、


「あ、なんかマズイなら構わないから! 別に、そんなどうしてもってことじゃないし!」

「いえ、大丈夫ですわ。メリアーゼ様のご希望ですもの。……クロ君」


アリスちゃんが視線を向けると、心得たとばかりにクロード君は頷いた。

なんか、すごいな。通じ合ってる感じ?


「分かったよ、留守番してるね」

「お願いしますわね」


ジョシュアは黙々と食べてる。

考え事でもしてるんだろうか、三回ほどコーヒーカップの取手、取り損なってるけど。


アリスちゃんは顎に指先を当てて、どこに行くのがいいか検討中らしい。

しばらくして、口を開いた。


「この近くですと、シフェビエロフネヴェ湖が有名でしょうか」

「シフェ……何?」

「シフェビエロフネヴェ湖、ですわ、メリアーゼ様」

「……」


ダメだ、覚えるのは諦めよう。

私の許容量オーバーだった。


「少し遠いのですけれど……まあ、馬に乗って行けばすぐですわ」


え? 馬?








いやー、乗馬って簡単そうと思ってたんだけど、そんなことはなかった。

まず、上にあがれないっていうね。

なんとかジョシュアと相乗りっていうことで乗ったんだけど……。


何これ、お尻とかあちこちが痛い。

うう、と唸っていると、ジョシュアもアリスちゃんも心配げな視線を向けてきた。


「姉さん、大丈夫? やっぱり馬での移動はキツかった?」

「あ、ごめんね心配かけて。大丈夫だよ。ここがシフェ……シフェビアルフ?」

「シフェビエロフネヴェ湖、です」


名前は覚えられなそうだけど、その美しさは一度見たら忘れなさそうなくらい素晴らしかった。


紺碧の湖は、日の光と空の色を映して煌めいている。

夕暮れになると、夕陽で真っ赤になるのがまたすごいらしい。


「真っ赤になったのも見てみたいなぁ」


呟けば、アリスちゃんがちょっとイタズラっぽく笑った。


「そう仰ると思って、ランチを準備してきましたの。サンドウィッチですわ」


さすがだ、アリスちゃん。

女子力その他もろもろが高い。

アリスちゃんって、欠点とかあるんだろうか。

せいぜい、冗談が分かりにくいことくらいかなぁ。


「クロード君に留守番させちゃって悪かったね。こんな綺麗なもの、何度見たって飽きなさそうだし」


いえ、とアリスちゃんは何処か寂しそうに首を振った。


「クロ君は、こういうのには来ない方がいいですの。苦しい思いをさせてしまいますわ」

「……? そうなんだ?」


よく分からないけど、アリスちゃんがいいって言うならかまわないかな。


しばらく湖の水面が風で揺らめくのを見ていたら、ジョシュアに何かを手渡された。


「姉さん、はいこれ」

「ん? ありがとう」


それは、花だった。

二つの花がお互いを支え合うように咲いていて、綺麗だけど……。

なんで急にこんなの渡してきたんだろう?

この世界には姉に花を贈る習慣でもあるのか?


アリスちゃんがなんかキラキラした目をしてるけど、どうしたんだろう。


「あ、主……ごほん、ジョシュア様! これは双花じゃありませんの!?」

「お、おいちょっと声が大きい!」

「なかなかロマンチックなことをなさいますのね! 見直しましたわ!」

「だろう?」


コソコソと話している内容はよく聞こえないけど……まあいいか、ありがたくいただいておこう。



その後に食べたアリスちゃん特製サンドウィッチもすごく美味しかった。

特に、生ハムみたいなのとアボカドやトマトや玉ねぎみたいなのを挟んだやつが。


全部“みたいなの”って付くのは、名前が違うから微妙に自信がないからだ。

実はこれアボカドペーストじゃなくてなんかのゲテモノをすりつぶしたやつとかだったらどうしよう、とかそういうのはもう考えないことにした。

精神上良くない良くない。



夕陽を見て帰る、ということだったのに、アリスちゃんが、


「すみませんが、お先に失礼させていただきますわ」


と言って先に帰ってしまった。

なんかニヤニヤしていた気がするけど、気のせいだろう。


道はジョシュアが覚えてるそうだから問題はないけど、ちょっと残念だ。

ジョシュア、先からなんかモゾモゾしてるし。


「ね、姉さん」

「うん、何?」


なかなか口を開かない。

顔を見ても、夕陽で顔が真っ赤なものだから表情がよく読めなかった。


ようやく声を出したのは夕陽が半分くらい落ちてからだった。


「その、この夕陽を見た恋人同士は永遠に結ばれるんだって!」


永遠に結ばれる、ね。

ありきたりっちゃあ、ありきたりのジンクスだけど、この夕陽を見れば、確かにそんな気分にはなるかもしれない。


「へぇ、じゃあいつか恋人とこようかな」

「えっ!」


ジョシュアが少し落ち込んでるように見えるのは気のせいだろうか。

あ、もしかして一緒に来れそうな相手がいなくて落ち込んでるのかな?


な、なんとか励まさなきゃだよね、姉としては。


「だ、大丈夫だよ、ジョシュアかっこいいからすぐ恋人なんてできるんじゃない?」

「……うん」


ますます落ち込ませてしまった気がする……。


ん。あれ、なんか心臓のあたりが痛い。


——くそう、乗馬ってこんなところまで来るのか。

当分はやりたくないなぁ、と思ったけど、帰りには乗って行かなきゃいけないわけで。


帰り道は、ちょっとした戦いだった。








そして、疲れて泥のように眠ってしまった次の日の朝……。

そう、それが最初の場面なわけである。

ジョシュアがそろそろ哀れです…。

アリスちゃんが気を使ってもダメという…。


そして破天荒?ぽいセレス子爵がちょっと出てきました。

さてさてどうなることやら。


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