義姉の寝てる間に話し合う件。
アリスたちの家族事情がちょっと?出てきます。
義姉のために女好きを閉め出す。
昨晩、姉から結婚しない発言を聞いた僕は、かなり機嫌よく目を覚ました。
鼻歌でも歌い出しそうな心地だ。
早起きだったかと思いながらも食堂の方へ向かえば、もうアリスもクロードも起きていた。
「おはよ——」
「どうするよアリス姉!」
「ど、どうしましょう!?」
挨拶を遮って二人が叫んでいた。
しかも、僕の存在に気づいてないらしい。
へぇ、珍しいこともあったもんだ。
「今忙しかったんじゃなかったの!?」
「ええ、そう聞いたから主様たちをお呼びしたのに……! どうしてあの男は!」
何だか随分鬼気迫った状況のようだ。
アリスが取り乱している。
「アリス、クロード、どうしたんだ?」
「あ、主様……」
見れば、アリスの顔が今までに見たことがないほどに恐怖で引きつっていた。
これは、ただ事じゃない。
思わず僕も唾を飲み込んだ。
「一体、何があった? 二人とも、何をそんなに怖がってるんだ?」
「どうしましょう、主様。……帰って来るのです」
「帰ってくる?」
僕が聞き返せばアリスは引きつった顔のまま頷く。
何が、と問うまでもなく、アリスは声を張り上げた。
「父が、帰って来るのです!」
「うう、終わりだ! 俺たち終わりだぁ!」
「……」
なんだかすごいことになっているが、何がそんなにまずいのだろう?
「セレス子爵は、そんなに問題のある人物なのか?」
「問題のある? そんな次元の話ではございませんの! 問題の塊ですわ!」
「仮にも父親にその言い草は……」
僕がたしなめようと口を開けば、アリスは父親だからですわ、と一層声を大きくした。
「ほら、私たちを見てくださいませ! こんな子供を持つような親が、まともだと思いますか!?」
「……ああ……」
すごく納得したが、お前らは果たしてそれでいいのか。
「それで、その父親の何が問題なんだ?」
「まず、あの人はすごい戦闘狂なんですの。騎士団に属していて、かなりの功績はあげてるんですけど……」
「魔物討伐で森半壊とか、私闘で古代遺産破壊とか、何度もやってるから出世できないんすよ」
母様もそれで今出て行ってますの、とアリスが付け加える。
母親のことはあえて突っ込まなかったんだが……そうか、別居中なのか……。
「あとは、なんというか、自分と同じものを人に求めるというか……流石に初級とはいえ、剣をほとんど握ったことのない子供に魔物を討伐させるのは無理があると思いますの!
私たちがそれで何度しにかけたことか……!」
アリスが拳を握って震わせる。
相当これは腹が立っているらしい。
「屋敷のものもバンバン壊すし、そのせいで我が家の家計のやりくりがもう大変で、大変ですのよ!」
バンバンと机を叩くアリスだが、正直なところ今までのを聞いている限り、特に僕たちに害はないように思うが……。
「そして、これも母が出ていった理由他の一つではございますけれど……結構な女好きなのですわ」
「よし、駄目だな。セレス子爵には悪いが僕たちの滞在中にはここに来ないでいただくという方向で対策を立てよう。
さて、何かいい案あるか?」
「「……」」
あれ、なんで残念なものを見るような目で見られてるんだろう、僕は。
「それで、いつ頃にここに来られることになってるんだ?」
「……それがはっきりしませんの。今朝届いた書簡には、討伐先から首都に向かって報告を済ませた後、来ると」
「ちなみに討伐先は?」
「ジャッセル辺境伯領近くの森ですわ」
随分と距離がある。
書簡を出したのが一昨日だったとしても、まだ首都までは時間がかかるくらいだろう。
「なら、急がなくても大丈夫なんじゃないか?」
「甘いっすよジョシュアさん。父の移動速度は基本早馬と同じくらいっすから」
早馬って、戦時下の緊急事態のみに使われるような、高速の……。
まさか、とアリスを見れば、
「本当ですわ。そこからなら、首都まで一日で着きますもの、父は」
「それは……すごいな」
ハァと思わずため息が出る。
なんで無駄にそんな早いんだ。
「まあでも、首都では大量の報告書を出さなきゃいけないでしょうから、猶予は今日一日と明日の昼、くらいまでですかね」
まだあると考えるべきか、もう少しと考えるべきか……。
フゥと息を吐く。
と、そこでずっと黙っていたクロードが口を開いた。
「アリス姉。とりあえず俺、屋敷に父さんの侵入防止かけとこうか」
「ええ、お願いしますわ」
「……そんなことできるのか」
出来たからって実の父親にするのは結構ひどいかもしれないが……いや。
姉のためだ。
実家に帰ってきて閉め出しをくらうセレス子爵には申し訳ないが、お引き取り願うという方向で。
あ、お引き取りもなにもなく、ここは彼の家なのだけど。
クロードが屋敷の壁に手をつく。
『今より此れは魔の館。
我が父、アンドリュー・セレスが入ることを許すなかれ。
彼の者が開くドアも窓も、館の中には通じぬ。
彼の者が敷地に入れば、足置く地面は電気を帯び、取り巻く大気は火を帯びる。
但し此れは彼の者のみで、他なる者には何もせぬ。
館よ館、我が命を違えるな』
手の触れたところから光のようなものが広がっていく。
さらっとひどいのが混じっているような気がするが、そこは気づかなかったということで。
「ふぅ、これでいいっすかね」
「付加の魔法、か」
「そうっすよー。
転生者としては、こんなに詠唱が長いのは恥ずかしい限りっすけど。大した適性がないもんすから、どうしても長くなるんすよね」
それでも、魔法道具でもないものに魔法的効果を与える魔法だなんて、すごいものだと思うが……まあ、いいか。
「とりあえず、クロードの魔法でなんとかなることを祈りましょうか。あとは、まあ、今日中に何とかする方法を考えていきましょう」
「いいのか、そんな余裕な感じで」
「けれどメリアーゼ様が起床なされましたから」
ああ、それなら仕方ないかと思いかけた頭が一瞬止まる。
起床なされた?
「もしかして、寝顔とか見てないよな? そこまで勝手に覗いてないよな?」
そう言えば、アリスの視線がさっと逸れる。
「見たのかお前!」
「ひ、必要なことですわ! 確かに寝顔はお綺麗でしたし寝言は可愛らしかったですけど」
「バッチリ見てるし聞いてんじゃないかお前! 寝言聞くのは間違いなく隠密の業務じゃないだろ!」
目線そらす時点でやましいのがバレバレだ。
「おい、アリス! 姉さんのベットの中での様子を知ってていいのは俺だけだ!」
「え、ジョシュアさんそれちょっとエロい発言っぽ——ぐふっ!」
バカなことを言い出したクロードを黙らせる。
そんなことをしていたら、いつの間にか来ていた姉に気づけなかった。
その姿を見つけて、思わず固まる。
「えっと、ジョシュア……何してるの?」
「……朝の運動かな」
我ながらこの言い訳は無理があると思う。
いやー、アンドリューさん、どうなるんでしょうか。
家の敷地入ったら電気と火だし、ドア開けても館入れないし。
第一、仕事帰りでお疲れなのに……まあ、乙、とだけ(^_^;)
感想など、いただければ嬉しいです!
一ヶ月記念作品、「金持ち魔王と貧乏な勇者サマ」もよろしくです!(宣伝)




