義姉の真実を知る件。
短いですが、結構急展開?
姉は、……姉は。
「だからな、姉さんは少し天然なところがあるけどそこがいいというか」
「へぇ、そうなんすか」
「そうなんだ! 最初の頃なんて、僕に嫌われるためにワガママ言ってみたりして……」
セシルが俺にあの女の話をしてくる理由がやっと分かった気がする。
絶対に取られないと言う相手に惚気るのはなかなか楽しい。
だからと言って、セシルに惚気る気はないけど。絶対からかわれるし。
「ガトーショコラの件なんて本当に——あれ、そういえば姉さんたちって、どこ行ったんだ?」
「い、今更っすか」
「ああ、まあアリスと一緒みたいだから心配はしてないが……」
「へえ、信頼してるんすね」
一瞬、クロードの目が鋭くなる。
僕は苦笑した。
「アリスは隠密であってそれ以上じゃないぞ?」
「分かってるっすよ」
だったら睨まないんで欲しいんだが。
「多分、屋敷を案内してるとこだと思うっす。さっき念話で送られて来たっすから」
「念話?」
「空気中の魔素を介した意思伝達っすよ。俺が作った魔法で、アリス姉とはパスを繋いでるんす」
「へぇ、すごいな」
えへへ、とクロードが照れたように頬をかいた。
「アリス姉も俺も諜報の魔法を使えるものっすから、お互いの情報を制限するための手段なんすけどね。ついつい気になった時に覗いてしまわないようにって」
「お前も諜報系の魔法なんてできたのか」
そう聞けば、ニヤリという笑みが返ってくる。
容貌が特別似ているわけでもないのに、その笑みはアリスのそれとよく似ていた。
「これでも転生者っすし。それに、この世界の魔法言語は俺らの前の世界のものと一緒なんすよねぇ」
魔法言語と同じ?
僕は僕の中に浮かびかけた何かを慌てて打ち消した。
クロードは少し眉を寄せたが、すぐに元のニヤリ顏に戻る。
「そういえばさっき俺、諜報の魔法が出来るって言ったじゃないすか」
「ああ」
「でも、俺のほんとの特技は変装なんすよ」
「変装が特技? 女装が趣味なんじゃなく?」
からかえば、それは誤解なんすってば! とぶんぶんと腕を振り回された。
危ないな。
「ともかく、あの時の俺も、まるきり女だったでしょう?」
「……確かに、男だとは気づかなかった。それが何だ?」
「まだ分からないんすか? 思い出してくださいっすよ、それに気づいたのが誰だったのか」
思い出そうとして、すぐに首を振った。
「覚えてないよ、そんなこと」
「嘘だっ!! ……って言っても無駄っすね。俺が教えてあげます。
メリアーゼさんっすよ。俺がクロードだって——見たこともないはずの男だって言ったのは、あの人っす」
「だから、それが何だって……」
僕がそう言えば、クロードは小さくため息を吐いた。
「こんな問答じゃ無意味っすね。
なら、聞いてみるっすか、ジョシュアさん」
「な、何を?」
とっさの質問に焦った。
聞いてみる。それは……。
「姉さんたちの話を、か」
「そうっすよ。このまま、否定し続けてもよくないっす。アリス姉もそう思ってるでしょうし、アリス姉だってさっきの俺らの会話聞いてたんすからイーブンすよね?」
イーブンというのの意味は理解できないが、僕はそれよりも否定し続けるという言葉が気になった。
「誰が、何を、否定し続けているんだ?」
クロードは、さらに笑みを深める。
僕は、それがなんだか恐ろしくすら思えた。
「あなたが、現実を、っすよ。ジョシュアさん」
そんなことはない、と言おうとしたのに、言えなかった。
体が石像になったかのように固まっていた。
息が詰まる。
なんだ、これじゃまるで——。
「図星を刺されたみたいっすね」
「っ!!」
クロードはクスクスと笑った。
「ゲーム知識しかない俺だっておかしいと思うことを、アリス姉が気づかないわけないじゃないっすか。
アリス姉は、ずっとなんとかしたいと思ってる。なら、俺がなんとかしないといけないじゃないっすか」
だから何をだ、と聞きたかったが聞けなかった。
本当は、クロードの言うように俺は分かっているのかもしれない。
だって、胸の内に上がって来るこの感じは、困惑じゃなくて焦燥だ。
「……随分、アリスのことを気にかけてるんだな」
苦し紛れにそう言えば、クロードはキョトンとした顔になって、それから吹き出した。
「それはあなただって同じでしょう?
あなたの世界の中心がメリアーゼさんであるように——俺の世界の中心はアリス姉なんすから。
ジョシュアさん、あなたは知ってるはずっす。俺らは、そういうモノなんすよ。だから……」
それだけ言うと、クロードは壁の鏡に手をついた。
『今より此れは魔鏡なり。
彼方なる地を捉えては、映せ映せよ、真実を。
彼方なる音伝えさせ、聞こえ聞こえよ、言の葉を』
鏡の表面が揺らぐ。
まるで悪夢のように思えてきた。
「仲良くなれそうと思ってただけに残念っすけど、仕方ないっすね。
俺の“中心”のために、ジョシュアさんの“中心”……」
その悪夢の原因たる少年は、まさしく悪魔のように笑う。
「壊して、しまうかもしれないっすね」
「やめろぉっ!!」
そんな叫びも虚しく、次の瞬間鏡から聞こえて来た言葉は、確かに僕の何かを壊した。
『私の前世での名前は、吉沢 悠里って言って……』
それは姉の声だった。
でも、その声は別の名を名乗った。
じゃあ、僕の姉さんは、一体誰なんだ?
クロードの詠唱が長いのは、別に中二病とかではなく、アリスちゃんみたいに特殊魔法に適性があるわけではないからです。
別に中二病とかではなく。
さて、ちょっと大変な状況になってまいりました!
ジョシュアは、メリアーゼは、そしてセレス姉弟は果たしてどうするのか!?
感想など、頂けると嬉しいです。




