義弟とテストに挑む件。
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義弟とスペックが違いすぎて、挫けそう。
学生の本分は勉強だというけれど、魔法学院生の本分も勉強だったらしい。
私が前世、もっとも滅べと思ったもの……定期テスト。
学生の墓場。絶望の顕現。
あの時の無力感を、私は忘れない。
……なんて言ってみたけれど、要するに私は勉強が嫌いなのだ。
そして、さらにテストの内容がひどい。
例を上げれば、
大陸歴298年、征服王アレクシスは三つの国を統合した。時代順に、それを記せ。
ニードリヒ三世が大陸歴658年に出した法令とその内容を述べよ。
……一言だけ言いたい。
知 る か!
誰だ征服王! 誰だニードリヒ!
数学はまだいい。計算記号の違いは厄介だけど、それはまあなんとかなる。
けど、過去の文豪やら歴史やらはどうしようもない。
周りが貴族ばかりなものだから、みんな学んだことがあるとかで、しょっぱなから範囲の広いテストだそうだ。
……辛い。
思わず机に突っ伏した。
「無理でしょ、これ」
完全に手詰まりだ。
今から全部覚えるとか、不可能だ。
コツコツ、と部屋のドアをノックする音がした。
力なく返事をすれば、ジョシュアだけど、と少し遠慮するような声。
いや、まあ名乗ってくれなくても、来るのはジョシュアくらいですけど。
ドアが開いて、深緑の瞳が覗く。
「大丈夫?」
「大丈夫そうに見える?」
「いや……なんかこの世の終わりみたいな顔してる」
「そ、そこまで?」
そのくらいの絶望感では確かにあるけども。
うん、と頷かれて少しへこんだ。
……ジョシュアは女心が分からない。
「テストのことで悩んでるの?」
「うん、私ほら、あんまり勉強してきてないし」
これでもずっと病人だった身だ。
勉強なんてする必要がなかったのだから、わざわざ使わなさそうな年号やらを覚えるはずもない。
「ん、そうだよね。姉さん魔法うまいし、実技はなんとかなるだろうから、問題は筆記か……」
「今更、無理だよー」
そう言えば、ジョシュアはにっこり笑った。
え、何?
「僕が教えてあげようか」
「あー、どうしようかな」
ダンスとか、屋敷でも教えてもらいはしたけど、歴史だとか暗記科目って、何をどう教えるんだろう。
ちょっと興味が湧いた。
「……お願いするけど、どうやって教えてくれるの?」
「まぁ、見てて」
何を?
見てて、といった弟は、すぐにアリスちゃんを連れてきた。本当にすぐだった。
ちょっとびっくりした。
二人の関係って本当にただの友人?
普通にそうなら、呼んで一分以内にくくるものだろうか。
そこから始まったのが——
「大陸歴230年、エクヴィスト王国を建てたリズエン王は、民の前でこう宣言した」
「我は今より王となる! 意義あるものはその手を挙げよ! たとえ一の手でも挙がるのならば、我は今すぐこの座を降りよう」
「その時一つの手も挙がらなかったために、リズエン王は全民王と呼ばれた。
それから三年後、リズエン王は新しい農法を制定する。それは……」
……なんなんだろう、これは。
今回の範囲は大陸歴に変わった後からなので、現在、230年間の歴史を全てこんな感じでやってくれてるわけなんだけど。
ちなみにそのリズエン王の宣言はアリスちゃんがやっていて、ジョシュアが内容の朗読をしてくれている。
アリスちゃん……めっちゃうまいな。
あんな可愛い子からあんなに野太い男の声が出るとか。びっくりだ。
でも、覚えやすいんだけどさ、そろそろ、これいつまで続くのかなぁって気持ちになってきた。
今は大陸歴722年だから、あと500年ぐらいあるんだけど。
それから少しして、
「大陸歴250年、第二代エクヴィスト王セリウムは、新たに領土を広げるべくキリク皇国に攻め入った——と、ここまでにしとこうか。姉さん、そろそろキツそうだし」
私の様子に気づいたらしい、ジョシュアがそう言った。
「あ、うん、ごめんね。こっちから頼んだのに。ジョシュアもアリスちゃんも、テスト勉強大丈夫?」
そう聞けば、二人は意味が分からないというように首を傾げた。
「テスト勉強って何するの?」
「こういうものは、日頃やっていたことの成果でございますよね?」
「……アア、ソウデスネ」
耳が痛いです。というか、アリスちゃんも天才側の方でしたか、そうですか。
「そ、それにしても、アリスちゃん演技が上手いね! 舞台女優とか、なれそうなくらいだよ!」
「うふふ、私がなりたい職業は、それによく似ているけれど正反対の仕事ですわ」
なんだろう、謎かけ?
よく分からなくて首を傾げるとアリスちゃんはまたフフフと笑った。
……アリスちゃんって結構謎だよね。
「それより、今日は私、メリアーゼ様にお話がありますのよ! テストが明ければ夏季休暇でしょう?」
「あ、うん、そうだねー」
その前にテストなんだってば!
このままいくと赤点で補習なんだってば!
あれ、そもそもここでも赤点というのか?
「そこでですの、私、先日お父様に書簡を出しましたところ、是非って」
「……? 話が見えないんだけど」
「父の領地にお越しくださいませ、メリアーゼ様!」
父の領地ってことは、セレス子爵領。
セレス子爵領ということは……。
「えっと、弟君、いるよね」
「クロ君ですの? ええ、おりますわ」
クロ君。
あの恐ろしいヤンデレが可愛らしく収まっている。いや、いいんだけどさ。いいんだけどね?
「できればお会いしたくないなぁ、なんて」
「……弟をご存知なのでしたわね。悪い子ではないのですのよ。ただちょっとかなり結構趣味がおかしくて、たまに妙なことを言うだけで」
それは本当に会いたくない。
「妙なことを言う、というのは?」
「え? ジョシュアそれ聞いちゃう?」
アリスは思い出すように首を傾げた。
「私が特に印象に残っていますのは……萌え、ですね。あれの意味が未だ分からないのですが、どうも心惹かれる言葉です」
「!?」
なんだか、嫌な予感がするぞ?
「やっぱり、行ってもいいですか」
「もちろんでございますわ! 是非、お越しくださいませ!」
確かめなきゃならない……よね。
結局テストだけど、全教科なんとか赤点は回避した。
ジョシュアとアリスちゃん劇場のおかげだ。
……ただ、勉強してる姿をまるで見なかったのに、ジョシュアは一位でアリスちゃんが三位と、当然のように上位だった。
解せぬ。
とうとう、弟君にも会うことになってしまいました(^_^;)
さて、どうなることでしょうか。
感想など、頂けると嬉しいです。




