義姉の心を知りたい件。
カッコいいジョシュアはログアウトしました。
義姉のことに関して、隠密が容赦ない。
「あなた様は、バカですの⁉︎」
……僕は一応、アリスの主という立場のはずなんだけど。
何でバカとか言われてるんだろう。
ここは小さな空き教室で、鍵をかけて結界を張っている。
だから、声にも容赦がない。
「女心というものを、分かっていないにもほどがありますわ! メリアーゼ様を、賭けの対象に勝負など……あれですか、女を奪い合って戦うのに憧れるお年頃ですか」
なんだそのお年頃は。
聞きたかったが、なんとなく聞き辛い。
「それにしても、なんでその座り方なんですの?」
「……反省する時はこうするんだと。セイザ、だそうだ。姉さんが、そう言ってた」
「そうでしたの。名前は存じませんでしたわ。弟がたまにやっていたのですけど」
とアリスは思い出すように顎に手を当てた。
「弟って、前に名前が上がってた奴だよな」
「そうですわ、クロード・セレス——クロ君ですの。……って、話をそらさないでくださいませ!」
「あ、はい」
何だろう、この姿勢だとなんだか反抗しにくくなる気がする。
そして足が痛い。
「お相手はユリウス先輩でしたわね……あの方は、三年次の天才ですわよ? もしも負けたらどうするおつもりでしたの?」
「負けないと、分かっていたから勝負したんだ」
「何の根拠がおありでして?」
その疑わしげな様子にちょっとカチンときたが、一つ一つ思い出しながら話す。
「この学院は、魔法による生徒同士の私闘を基本的に禁止している。ジルド先生もいたし、魔法戦はまずないと思った。
それに、部屋にはいくつかゲームの類いがあった。一番近くにあったのがルーヴェル——姉さんは何故かチェスって呼ぶんだけど——だったから、おそらくそれで勝負することになるはずだと考えたんだ。
僕はルーヴェルが得意だったし、先輩が戦略家でないことは、アリス、お前が教えてくれただろう?
だから、負けないと分かっていた。
なら、姉をそれだとかもらうだとか言うヤツを姉さんに近づけないようにした方がいいかと」
僕がそう言えば、アリスはハァとため息をついた。
「なんでそんなに頭いいのにバカなんですの」
「……あんまりバカバカ言うなよ」
仮にもお前の主君なんだが。
「いいですか? 女を賭けるなど、軽蔑されても文句の言えない所業でございますわよ?」
飲み込むのに、いくらかの時間がいった。
系別? 型別? ……軽蔑?
「け、軽蔑? 姉さんに、僕、軽蔑された?」
「さあ」
どうしよう、と顔が青くなるのが分かる。
姉に嫌われる?
考えただけで、目の前が真っ暗になるような感じがする。
そんな僕の様子を見兼ねたのか、アリスが慌てて言った。
「それでも弟ですから、まあ軽蔑まではされておりませんでしょう。……後々弟という立場は厄介ですけれど、今回は役に立ったといっていいでしょうね」
「何で、弟だと厄介なんだ? 弟なら、ずっと一緒にいられるんだろう?」
僕が首を傾げれば、アリスはまた疲れたようにため息を吐いた。
「分かってますの⁉︎ 弟ってことは!」
「弟ってことは?」
「このままいけば、メリアーゼ様は他家に嫁がれておしまいになるのですよ⁉︎」
他家に嫁ぐ。
じゃあ、駄目じゃないか。
弟でいても、一緒にいられないじゃないか。
「——い、嫌だ!」
「でしょう?」
「どうすればいい?」
そう問えば、そうですわねぇ、とアリスは首を傾げた。
「功績をあげて立場を確立しましたなら、他家と急ぎ結ぶ必要はなくなるでしょうね。
そうなれば、少し前なら近親相姦もけして珍しくはなかったのですから、いくらかは可能性が上がると言って良いかもしれません。
まあ、これは主様ほどの実力があればなんとかなるでしょう。あとは……」
「あとは?」
僕が先を促せば、アリスはちらりと横目で僕を見る。
「とりあえず、あなた様を異性として意識していただくところから始めましょう」
「異性として、ってどんなことをするのがいいんだ?」
なんでも聞かないでくださいませ、と言われたけれど、質問受け付けない隠密とかなんなんだ。
軽く睨めば、やれやれという調子で肩をすくめられた。
「まあ、抱きしめるとか」
それはしたな。
重い、とか、何⁉︎ とか言われたけど。
「あとは、その、キ、キスとか……」
したんだけど。
酔ってる? って聞かれたけど。
「そ、その先はダメですわよ⁉︎ 結婚するまでは駄目なのですわよ⁉︎」
何故だか顔が真っ赤だ。
とりあえず抱きしめたりキスしたりした時のことを話す。
みるみるうちに顔が曇った。
「うわぁ……」
うわぁ、って! うわぁって言ったぞコイツ⁉︎
仮にも僕、主君だよな⁉︎
「それだけしても何の反応もないなんて……どれだけ望み薄いんですか」
「小さい声で言ってるけど、聞こえてるからな⁉︎」
それにしても、と、ふと思う。
確かに、少し前なら近親相姦だってあったけど、今は基本的に避けられるものだ。
そういうのって、普通嫌がるんじゃないのか?
思わず聞いてみる。
「お前は……アリスは、その、義姉弟間の恋愛とか、そういうのを変だとは思わないのか?」
「え? 今更それを聞きますの?」
「今更って……」
確かに今更だけど。
アリスは呆れたような目で見てくる。
「美しければなんでもありじゃありません?」
「結局それなのか」
コイツの美しいもの好きは、なんか色々を凌駕している気がする。
「それに、義理でしょう? 血縁関係が実際にはあるわけでもございませんし、私も結婚するなら弟がいいなぁと思うくらいに弟好きですから」
「あの、いかにも要注意人物のように語られていた弟がか」
そう言えば、心外とばかりに眉をひそめた。
「あら、クロ君はちょっとかなり結構趣味がおかしいだけで、悪い子ではないのですわ」
いや、身内の贔屓目を抜いたら、すごくおかしいってことじゃないのか?
それで悪い子じゃないって、まさか。
「そいつも美形か?」
「はい、それはもう」
にっこりと笑うものだから、ああ、やっぱり美形だからか……と顔を伏せた。
「あっ、今、私が美しいからいい子だと言っていると思われましたね⁉︎」
「い、いや、その、そんなことは無くもない」
「あるんじゃないですの!」
なんだかおかしくなって笑うと、キッと睨まれる。
「何、笑ってるんですか! そもそもはあなた様がまるで女心を分かってないという話ですのよ⁉︎」
「……ああ、そうだった」
「そうだった、じゃありませんの! もう、知りません! 私、今日は帰らせていただきますわ!」
今日はってことは明日は良いわけだ。
そう思って、席を立つアリスを追うように立ち上がろうとする。
その瞬間、僕は、思わず固まった。
「……アリス」
「何ですの⁉︎」
「……立てない。助けてくれ」
「知りませんわ!」
目の前で無情にも結界は解かれ、ドアが閉まった。
僕はしばらく、動けなかった。
私は茶道部歴5年なのですけど、今だに正座が30分もちません。
休み明けは10分でギブです(^_^;)
さて、アリスは地味にブラコンだと明らかになりましたw
感想、いただければ嬉しいです。
誤字の報告も、いつも助かっております。
よろしくお願いしますm(_ _)m
追記・すみません。
現在、ユーザー制限なしだと、感想を受け付けられないというトラブルが起こっているようで、一時的にユーザー制限をありにさせていただきます。
ご迷惑をおかけします。
もしもユーザー制限なしでも大丈夫になりましたら、ご報告くだされば大変助かります。




