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義姉を守ると覚悟する件。

コメディー要素が殆どありません(^_^;)

昔の話がちらっと出てきます。


姉を守るため、僕たちは覚悟を決めた。







姉を部屋まで運ぶと、安心したのかそのまま眠ってしまった。


僕は、行くところがあった。


まだ、セシルはさっきの場所にいた。

僕を見てヘラリと笑う。


「おお、ジョシュアくんやん。メリアーゼ嬢は大丈夫やった?」

「……セシル。お前だろう?」


セシルは少し目をそらしたが、すぐにまた笑みを戻した。


「なんや、分かってしもうたか」

「分かるさ。精神感応を主とするお前が、上級訓練場に行くことなんて滅多にない。お前が姉さんが危険だと言った時点で、僕はお前の仕業だって思ったよ」

「……最初から分かっとったっちゅうことやな。うーん、俺はこれでもジョシュアくんとは友達のつもりやから、険悪にはなりとうないんやけど」


だったらしなければいいだろう、と僕は言わない。

僕にも分かるからだ、セシルの気持ちが。


「険悪になりたくないのは、僕も同じだ。僕だって、姉さんのためなら別に他の誰かを危険に晒そうが何も思わない。そういう人間なんだろ、僕らは」

「同類やってか? それで許してやるって言うんか、お前……甘いな」


思わず笑いそうになった。


「同類だからって許すなんて、僕言ったか? 今回は姉さんに怪我もなかったし、学院内にいながら守れなかった僕にも落ち度はある。そう思っただけだ。甘くなんてない」


僕はギリリとセシルを睨みつける。


「次もし、姉さんを危険に晒すようなことをしてみろ——お前もあの女も、灰さえ残らないと思え」


僕のその視線を受けて、目を見開いたセシルは、すぐにククッと肩を震わせた。


「覚悟しとくわ。やけど、そっちも同じだけ、覚悟しとけや」

「ああ」


笑ってはいるものの、その体からにじみ出る殺気は痛い。

しばらく僕をじっと見ていたセシルは、再びククッと笑うと殺気を緩めた。


「そないに心配なら、どこかに閉じこめて、誰にも触れられんようにすればええんに」

「……それが出来たらどんなにいいか」


だけど、と僕は続けた。

セシルは面白いものでも見るように、僕に視線を向ける。


「僕は姉さんに世界を見せたいんだ。屋敷の中しか知らない姉さんに、できるだけ美しい世界を見せてあげたい。汚い現実からは遠ざけたいけど、綺麗なものがあるってことを知ってほしい。

……だからどれだけそれが危険であっても、閉じ込めたりはしない。そして、僕は姉さんが外の世界で生きていけるように守る、そう決めた」


僕がそう言えば、セシルが、ようやっと分かったわ、と口の端をつり上げた。


「お前、落ち度はあるなんてそんなもんやなく、悔いとるんやな? 後悔しとるんや、守れんかったことを。

友達やからとか、同類やからとか、そんなんやない。自分が裁いたり断罪したりする資格があるのか……自信がない、だけなんやろ」


意地の悪い顔をして、セシルは楽しそうに笑った。

鏡なんてなくても、自分が今どんな顔をしているか分かる。苦虫を噛み潰した顔、あるいは図星をさされた顔だろう。


「そうだ。そうだから、何だって言うんだ?」

「別になんでもあらへんよ。ただ、人が苦しむ姿っていうのは見とってなかなかに楽しいものやと思ってなぁ。他人の不幸は蜜の味ってヤツや」

「……はぁ。お前、本当に性格悪いな」


そりゃ褒め言葉や。

セシルはそう言って双眸を細めた。


「元はと言えば、すべてお前のせいだぞ?」

「分かっとるよ。それに関して言えばすまんかったと思うとる。やけどメリアーゼ嬢、あの程度にビビりすぎなんとちゃう?」


頭にカッと血がのぼる。


「おい、姉さんをばかにする気か」


思わず胸ぐらを掴んでやろうとしたが、セシルはサラリとそれをかわした。


「ちゃう、ちゃうよ。ただ、ジョシュアくんも分かっとるやろ? メリアーゼ嬢は狙われとるんや。美しい世界? 綺麗なもの? ……そんなんだけで生きていけるほど、彼女は平和な立場におらんのやで?」


グッと言葉に詰まった。

そんなことは、僕にだってわかっている。


「本人に知らせへんって言うならそれで構わんと思うけどな、弱いだけの人間にするのはどうかっちゅう話や。ジョシュアくん一人であの子を守るなんて、無理やで。敵が誰か分かっとんのか?

……できるだけ、や。できるだけ幸せにしてやることだけ考えや。それが本人にとって一番ええことやろ」


セシルは珍しく真剣な表情でそう言った。

僕は、思わず目を逸らす。


「……お前に言われても、説得力がないぞ」

「そやな。やけど、こないな俺でも言ってしまうほどの相手ってことやで」



「宰相、ゼルガ・ヴァンゲリスっちゅう男は、な」




×××




ゼルガ・ヴァンゲリスの噂は二分される。

ひとつは、ひどく優秀な宰相であるということ。

もうひとつは、どうしようもない狂人であるということ。


どちらが本当かと言えば、どちらも本当なのだ。

優秀な宰相であり、救いようのない狂人。


彼は、多くの人の命を奪って生きてきた。

初めに彼が殺したと噂されたのは、実の父と兄だ。

親殺し、兄殺し。

それは誰もが眉をひそめる禁忌だ。


しかしそれだけではない。

彼より上の立場に立つもの、彼の邪魔になりうるものが次々と消えて、彼は今の地位までたどり着いた。

その中の何人か——あるいは全員が、彼によって殺されたのだろう。


そしてその男はいつからか非人道的な研究をし始めた。

誰かが行方知れずになる度に彼の名前が上がるほど、彼は研究にとりつかれていた。


彼は果てに、自らの妻や他の子供をも実験台にしたという。

殆どの子は死に絶えたと言うが、二人の子供が生き残った。

二人はその苦痛を乗り越えて人に奉仕するようになり、一人はその容貌と歌声の美しさに巫女姫と呼ばれた。


巫女姫はムレーハ学園で長く過ごした。

しかし、卒業の頃になると、誰もが彼女がヴァンゲリスの家に戻ることを嘆いた。

その身を誰かが救ってくれという、民衆の声は大きくなっていった。


それを救ったのが、レオンハイト伯爵だった。国の北方で起こった竜の騒動を治めた恩賞として、巫女姫を貰い受けたのだ。


今なお彼の名が民衆に知れ渡っているのは、誰からも慕われた巫女姫を救った人だからである。


二人は辺境に移ったが、巫女姫の、研究による短い寿命が尽きるまで、幸せに暮らしたという。



——そう広まっているが、真実は、けしてそんなに幸せなものではなかった。





×××





僕はポツンと一人立っていた。

セシルはすでに去っている。


コツン、と足音がした。

振り向かなくても、誰だか分かる。


「アリス、聞いていたんだろう?」

「主様……本当なのですか。メリアーゼ様は、あの宰相の敵に回ってしまっておられるのですか。メリアーゼ様は、あの宰相を相手に、戦われるのですか」


敵に回ったんじゃない、と僕は首を振った。


「最初から敵だった。生まれた時から、ずっと。それに、戦うのは姉さんじゃくて——僕だ。姉さんには近づかせない」


アリスは何も言わなかった。


僕は振り返ってその顔を見る。

怯えているより、困っているように見えた。


「アリス、降りるなら今だぞ。今なら、誰にもこのことを言わないと誓えば、契約を解こう。そして……もう僕らに関わるな」


これは、僕なりの優しさだ。

アリスが嫌なやつだったなら、こんなことは言わなかっただろう。

結晶契約まで結んでいるのだから、たとえ嫌いでも利用したはずだ。


けれど、アリスは姉を大事にしていて、そして姉はアリスのことを好んでいる。僕だって、少なからずは。


だから、逃げる機会をあげよう、と僕はアリスをじっと見つめた。


アリスは顔を強張らせたまま、けれどはっきりと言った。


「見くびらないでくださいませ、主様」


僕の瞳を捉えた視線は、揺れなかった。


「私は、一度決めた主君には一生お仕えする覚悟がございます。そのための結晶契約でございます。

私の力がいらなくなったのでも、見限られたのでもないならば、私はお二方の側を離れません。敵が誰であろうと、この身この命を賭して、お二方のために生きるのです」


だって、私は優秀な隠密ですから——。


そう言ってアリスはぎこちなく笑った。

けれど、その目は、確かに覚悟あるもののそれだった。


「そうか……ありがとう」


僕はそれしか、言えなかった。



命を賭けるという覚悟を決めたアリスちゃんでした。

メリアーゼを守り隊、本格始動ですw


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