義姉と義弟が混乱する件。【前編】
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×××のところで視点が変わります。
義弟を、主人公が攻略しようとしている。
衝撃の自己紹介を聞いて、私は自分の考えが甘かったことを思い知った。
……うん、転生者が私だけとか、思い上がるにもほどがあるよね。
確かにヒロインに転生っていうのはテンプレだしさ。
むしろ今まで考えていなかった私がバカでした。
それにしても、あの台詞はない。
前世の自分の中二病を思い出して思わず呻いてしまった。
今も頭を抱えるような姿勢になっている。
「どうしたんだ、姉さん?」
「え、うん……何でもないよ」
私はできるだけ平静を装って言うけれど、敏いジョシュアには見抜かれてしまったみたいだ。
「あの、転校生が何か?」
「えっ、いやその、あはは、ち、違うよー」
……我ながらごまかすのが下手すぎだ。
ジョシュアはちょっと眉を顰める。
お、怒ったのだろうか。
けれど、
「姉さん、ちょっと行ってくる」
と言って、教室を出てしまった。
どこに、とは聞けそうになかった。
何だろう?
首を傾げる私は、背後から近づく黒づくめの男——じゃなくヒロインに気づけなかった。
ポツリと「姉って……?」と呟く声でハッと後ろを向く。
ヒロインが疑問に思うのも無理はない。
私は存在しないはずの人間なのだから。
けれど、ヒロインは私と目があったことの方に驚いたようだった。
「……あなた、ジョシュア・レオンハイトの姉なのね?」
「ええ、まあ」
ヒロインが目を丸くする。
……ゲームでは平凡な子設定だったけど、嘘だよねこれ。かなりの美少女じゃん、ヒロイン。
「どうして、あなたが、ジョシュア・レオンハイトの姉が、生きているの?」
「え、そんなこといわれても……」
何と言っていいか分からない。
どこから話してもいいのか、どこから話すべきなのか。
ヒロインはフッとため息をついた。
「おかしいわね、色んなことが。あなた今、私が何を話したのか分かってる?」
「何って、……え、日本語?」
言われて気がついた。
——今までの会話、全部日本語だ。
私、日本語で話しかけられた、よね。
思わず強張った顔を向ければ、ヒロインはニヤリと頬をつりあげた。
あ、マズイ。
何が一番マズイかといえば、日本語に対して反応したことでも返答したことでもない。
それが日本語だと、言ってしまったことだ。
つまり……私、罠にはまった?
ヒロインはその可愛らしい顔を綻ばせたまま、けれど全くにこやかじゃない声で、
「後でちょっと、お話しましょうか。昼休みに屋上で、いいかしら」
蛇に睨まれたカエルは、頷くしか、なかった。
×××
「ちっ、なんですの⁉︎ 何故リリアーヌ嬢は魔法言語で会話してますの⁉︎ これでは盗聴……こほんこほん、会話をうかがっているかいがありませんわ!」
「魔法言語で会話なんてできたんだな」
「ええ、私も驚きましたわ。しかし、こうなってしまいますと、私も魔法言語で会話できるほど習熟せねばなりませんわね。ああ、せめて他の国の言葉ならばほぼ意味は取れますのに!」
「それは結構すごいと思うが……なあ、あの女、昼休みと言ってなかったか?」
「昼休みですって⁉︎ 聞き取れたのですか⁉︎ ま、まさか主様に負けるなんて——私アリス一生の不覚!」
「……お前、僕のこと敬う気ないだろ」
×××
昼食の後、用事があるからと席を立てば、アリスちゃんは少し悔しそうで、ジョシュアはちょっとドヤ顔だった。どうしたんだ?
屋上に行くと、ヒロイン——リリアーヌが待っていた。
……長い髪が屋上の風ですごいことになってる。
気づいてないのか? 言ってあげた方がいいのだろうか。
「よく来てくれたわね」
ちょ、その状態で真面目な顔しないで欲しい。笑いそうだ。
「あなたも、転生者なのね?」
私は頑張って笑いを堪えながら頷いた。
まあ、これだけ日本語が通じる時点でそうだと認める他ないし、今からごまかすのは不自然すぎる。
「そう。ちょっと失礼するわ」
彼女は、小さく何かを唱える。
え、英語?
風がおさまったかと思うと、私たちの周りを竜巻のように回った。
内には吹いてこないようになっているらしい。
リリアーヌは髪をササッと直す。
あ、やっぱり気になってたのか。
「これで、外に音は聞こえないわ。日本語で話すのってうっかり何か起こりそうで緊張するのよね」
今度は普通にこの世界の言葉だった。
「さっきの英語って……」
「ああ、あれね。ほら日本語が魔法言語なら、英語はどうなのかと思ったら、英語は特殊魔法の言語だったみたい」
「へぇ……」
そんなの、調べてみたことなかった。
中国語とかでも出るのだろうか。ちょっと気になる。
ヒロインはちょっと自慢げだ。
「個人的にカードキャ○ター式で呪文唱えるのが楽ね。色々あるし」
「……そんなものまで実験済み?」
「ドラグ・ス○イブは流石に出なかったわ。せっかく裏山まで行ったのに」
「危険なのも試してるっ⁉︎」
「一通りは。あんまり威力が高すぎるのは、魔力不足かしら、ダメだったわ」
うわぁ。この人絶対「バ○ス」も唱えたんじゃないだろうか。発動しなくて良かった。
世界滅ぶよ。このヒロイン、いつか世界滅ぼすよ。
「今は、風による音と視界の遮断をしたの。聞かれたら困るでしょ?」
「……用心深い、んですね」
リリアーヌは目をパチクリと瞬いた。
それから、まあね、とクスクス笑う。
「敬語なんていいのに。いえ、むしろ身分的には私が敬語を使わなければなりませんのに、ね?」
「私は別に、敬語とか構わないで……構わないよ」
「そう? 私もその方が楽だわ。さて、肝心の話をしましょう。何故、本来なら亡くなっているはずのあなたが、生きているのか」
×××
「おいアリス。姉さんたちの会話が聞こえなくなったぞ!」
「くっ! あの女、やりますわね。単純な消音不可視結界なら破れますのに、まさかオリジナルの特殊魔法を展開するなんて……!」
「ちょっと待て! それなら僕らの会話も聞かれる可能性があるのか⁉︎」
「私を舐めないでくださいませ! ……いいでしょう、主様にはお教えする時が来たようですわね。
私の魔法は単純なものにあらず! その本質は空間魔法!
空間を屈折させ! 空間を超越し! 空間を移動する、私独自の魔法ですわ!
それにこの結界には侵入の妨害も探知も、攻撃の迎撃も、全て組み込んでありますのよ!」
「そうか、聞かれないならいい。で、あの女の魔法はどうにかできそうか?」
「……流されましたわね。別にいいですのよ別に。
まあ時間はかかりますけれど、可能ですわ。オリジナルの魔法と言うならば、構造を分析し、解析し、侵入するまでの話。
ふふ、ふふふ、ふっあはは、あはははは! 腕がなりますわぁ!」
「……お前が大丈夫か?」
×××
私はどう話そうかと、考えていた。
生まれたところから? いや、流石にそこからはいいだろうし。
黙ったままの私に、リリアーヌが気遣うような声を出した。
「……聞くのは酷だったかしら?」
慌てて首を振る。
「いえ、どこから話せばいいかと思って」
「時系列に沿っていただければ助かるけれど」
私は頷くと、今までの話をかいつまんで話した。
リリアーヌは何より私が記憶を取り戻したのがジョシュアにあった時だというのに驚いたようだった。
「生まれたときから記憶があったの?」
「あったわ。そのせいでもう、苦労したわよ。私が『キミボク』のヒロインだなんて……」
「もしかしてあなたも、ヤンデレゲームは苦手な人?」
聞くと、何を言っているのという顔で否定された。
「嫌いなのに買う人なんていないでしょう」
……ここにいるんですけどね。
微妙に私の中での彼女への共感度が下がる。
「ヤンデレは好きよ。好きだけど、自分が対象になるのは嫌。だって、監禁とか凌辱とかされたくないし。私、Mじゃないし」
「ですよねー」
まあ、されたい人はなかなかいないだろう。
「でも、私とあなた、結構発想が似通ってるのね。目的は違うけれど、私もあいつに嫌われようと思って頑張ったもの」
「あいつ?」
「ほら、あの幼馴染キャラの……」
「……ああ」
セシリウス王子か。うん、確かにあの人には嫌われたい。だって、あの人、先輩ほどじゃないけどかなりのグロルートだし。
「もう、初めっから睨みつけてやってたのに、何故だか全然離れてくれないのよ。
この世界が『キミボク』の世界だって知ったのがだいぶ早かったから、ずっと魔法使えないフリして魔法学院じゃない学校に通ってたのに……あいつが」
「あいつが?」
魔法使えないって、貴族としては結構マズイことかと思うんだけど。
すごい徹底ぶりだなぁと思いつつ、先を促す。
「この前いきなりやってきてね、しかも突然魔法かけてきて! 思わず反撃するじゃない?
そしたら、『なんや、魔法使えるやないか』って! なんなのあいつ⁉︎ 最悪よ!」
「うわぁ……」
それ完全に目つけられてるのでは、と思ったけれど言えなかった。
「それでも、知らんぷりするとか、たまたまだって言い張るとか……」
出来たんじゃないか、と私が言えば、ヒロインは顔を伏せた。
「だって、——」
「え?」
声が小さくて聞き取れない。
思わず聞き返せば、キッとヒロインが睨みつけてきた。
「ああもう、やから、イケメン見てみたかったんやもん! 何なん、聞き返したりして! 笑いたいんやったら、笑いや!」
なぜに唐突に関西弁? と思ったけれど、それどころじゃない。
イケメンが見てみたかった、だと?
……どうしよう、今ものすごく共感度ゲージがだだ上がりだ。
だよね! イケメン見たいよね!
「——同じだよ。私もイケメン見たくて入学決めたんだ」
「え、ほんまに?」
頷くと、リリアーヌはいきなり私の肩をバシバシ叩いてきた。
痛い。地味に痛いんですが。
「何やそれ、それやったら私ら同士やん! なんや、イケメン好き同盟組むか?」
「いや、流石にそれは」
「ええ〜ノリ悪い〜」
突然、陽気になったヒロインに戸惑う。
な、なんなんだろう、このテンション。
私が困っているのを見て、流石にちょっと冷静になったのだろう。
一つ咳払いして、失礼、と顔を少し赤くした。
「えっと、ともかく、私が今日話そうと思ってたのは、あいつを何とかしようっていう作戦なんだけれど」
「作戦?」
「そう。それで、お願いがあるの」
リリアーヌは、微笑んで言った。
「ジョシュアを、譲ってくれないかしら?」
「え?」
私たちを取り巻いていた風の音が小さくなったような気がした。
頭が真っ白になる。
譲る? 誰が誰を?
——私が、ジョシュアを?
意識する間もなく、私の口からこぼれたのは、たった三文字。
「いやだ」
×××
やっと魔法に侵入して聞いた会話に、アリスはポツリと呟いた。
「……修羅場ですの?」
関西弁が間違っていたらすみません。
アリスがテンション高い回でしたw
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