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義姉が頭を抱える件。

ゲーム主人公と攻略キャラ二人目登場です。

姉の敵が現れた。







「ね、ねぇジョシュア。ジョシュアって好きな子……いたりする?」


放課後の教室。夕暮れだけではなく、顔を真っ赤にしてそう問う姉。

誰もが思いつくような告白の流れ。


僕は強張る顔を悟られないように少しそらす。


「……何で?」

「何でってそれは、だって……」


姉は指をモジモジと絡ませて、悩ましげに眉を寄せる。

胸が高鳴りそうになるのを、必死で堪えた。


落ち着け、僕。

目の前にいるのは誰だ? 姉だぞ?

あの(﹅﹅)姉だぞ?


案の定、姉は夕暮れに染まっていた髪を軽くかきむしると、


「……もうズバリ聞いちゃうよ! あの転校生見て、縛っておきたいとか閉じ込めておきたいとか独占したいとか思った⁉︎」

「は?」


いきなりそんなことを聞いていた。

何を言っているのか分からないが、ともかく。


「全くもって思わなかったよ」


あの女には、ね。

僕はどうにかその言葉を飲み込んだ。








さて、時間を少し戻して、その転校生がきた日の話をしよう。


学院の生徒は、五つのクラスに分けられている。

姉と僕が一緒かどうかなんて、ここに数千行にも及ぶ恨み辛みが書き連ねられてない時点で察して欲しい。

ちなみにアリスは隣のクラスだ。


その日、扉が開いてコーヒーブラウンの髪とオリーブ色の瞳の少女が入って来た時、転校生が来るという話を聞いていたので、僕はそれほど驚きはしなかった。

けれど、姉はあからさまに「あ、忘れてた」という顔だ。分かりやすい。


「えーっと、では、自己紹介をお願いしますね」


先生にそう言われると、その少女はくるり、と視線を巡らせた。

ん? 僕の方を睨んだように見えたのは気のせいか?


「リリアーヌ・クレシアスと、申します。クレシアス男爵の次女です。どうぞ、よろしくお願いします」


ゆっくりとその女が頭を下げれば、パチパチとまばらな拍手が起きた。


「何か質問ある人、いるかしら?」

「はーいはいはい! 質問! 好きなタイプは何ですか?」


手を上げたのはクラスのお調子者だが、しかしただのお調子者ではない。

セシリウス・ゼネ・シュペルミシカ——この国の第三王子だ。


普通なら王子に好みを聞かれるというのは、頬を染めたりするところのはずだが……女は眉をギュッとしかめた。

それから、すううと息を吸う。


「ただの男には興味ありません。この中にツンデレ、鬼畜メガネ、素直クール、兄貴キャラ——但しヤンデレ除く——がいたら、私のところに来なさい。以上」

「「「……」」」


教室が一瞬で静まった。

王子はニヤリと笑ったが、僕なんかは何を言ってるのか理解不能だ。


「……うわぁ」


姉がぼそりと呟いて頭を抱えている。

何だ、どうしたんだ?


この可能性を考えてなかった、とか、そうだよね普通これが王道だよね、とかどういう意味だろう?


「あの、私の席はどこですか」

「え、あ、あの、隅の空いている席……」


女は黙ってその席に座った。

姉は頭を抱えたままだ。


そして多分このクラスのほとんどが同時に思ったことだろう——この女、一体なんなんだ?








「メリアーゼ様が頭を抱えなさったのです? 何です、その女! メリアーゼ様の敵ですの⁉︎ 敵ですのね‼︎」


ほぼ恒例になりつつある姉の情報交換会議で、アリスは叫んでいた。


「……いや、まだ分からない。というか落ち着け」

「これが落ち着いていられますか! ああ、何をやればいいのでしょう⁉︎ と、とりあえず秘密でも握ればいいのですか⁉︎」


消音、不可視の結界があるからいいものの、慌てすぎだろう。

大丈夫だろうか……この隠密。


「だから、落ち着けって言ってるんだ。いたずらに動けばいいというわけじゃないだろう」

「そ、そうですわね。取り乱しましたわ」


アリスは顔を恥ずかしそうに伏せた。


「……初めて、なんですの。敵なんかが現れるのは」

「は?」


何を言ったのか、理解できなかった。


「私、こういう実際の経験がないのですわ」

「はぁっ⁉︎ ……お前、よくそれで自分のこと優秀な隠密とか言えたな⁉︎」


実戦経験のない隠密なんて、黄身の入ってない卵レベルで無能な気がするんだが。


「しょ、しょうがないじゃありませんの! 隠密の皆、私が領主の娘だからと危険なことはさせてくれなかったのですわ」

「……そうか」


まあ、確かにそうだろうな。貴族の娘に経験を積ませて何かあったら大変だ。


「だ、だから主君を見つけて、隠密として活躍しようと思ったのですの!——契約、解除されますか?」


本当に兎のように目を潤ませて僕を見上げてくる。

上目遣いは僕には効かないが。


「いや僕は、言っちゃ悪いが駒が必要なんだ。たとえ実践経験がなくとも、能力の高いやつを手放せるほど、余裕がないんだよ」


卵の白身だけでも役には立つ。

メレンゲ作れるしね。


「そ、そうですの。良かったですわ……それでは、主様、話を戻します。そのリリアーヌ・クレシアスは、メリアーゼ様に害為しそうなのですか?」

「それはまだ分からない。が、その女について詳しそうな奴がいる——」








クラスは男女混合だが、流石に実技は男女別だ。

剣術の実技で、僕はある男に話を聞くようにしていた。


「ジョシュアくーん? 何やねん、聞きたいことって?」


今僕に話しかけてきているのは、セシリウス・ゼネ・シュペルミシカ。例の王子様だ。

なぜか僕とこいつは結構仲がいいのだ。

曰く、「お前、俺と同じ系統な人間の匂いがすんねん」だとか。よく分からない。


そして王子がなぜこんな喋り方なのかといえば、こいつはとある少女《﹅﹅》のことを追いかけて地方に滞在していたからだそうだ。


「あの転校生のことだ。……セシリウス、お前知っているんだろう?」


無礼とも言える口調だが、向こうがそうしろというのだから仕方ない。


「セシルでええて。ああ、リリアか? 前に話した幼馴染っつうのがリリアのことや。——何や、リリアに惚れたって言うんやったら、殺すで?」


語調は軽いが、目は本気だ。

はぁとため息をつく。


「僕が姉さん以外の人に惚れると?」

「おっと、せやな。愚問やったわ」


ハハハ、とセシリウス——セシルは表情を和らげた。

ああ、なるほど。僕にもこいつと仲良い訳が分かったかもしれない。

どちらもお互いの相手すきなひとに手を出すことが絶対にないから、だ。


「せやったらなんでや? 何でリリアのことが知りたいん?」

「……姉さんに害のある相手かどうか、分からないからだ」

「ふぅん」


セシリウスは僕にもよく似た金の髪をガシガシと掻く。

害のあるっつうのはどんなんを言えばいいんか分からんわ、とぼやくように呟いた。


「お前とその女はどうやって会ったんだ?」

「んー、リリアと俺の母親は仲良うてな、それで知り合ったんやけど。話し相手ってことでな。

ああ、あの時の目は忘れられんわ。会った瞬間に睨みつけてきたあの目。そのくせして、楽しい時とかキラキラと輝く、あの目。

最初はくり抜いて保存したろうかとも思ったけど、あれはむしろ体についてた方が綺麗やからなぁ」

「……お前の趣味は聞いてないんだが?」

「ん? ああ、そうやった」


リリアはなぁ、とセシルは続ける。


「ちょーっと変わっとるけど、別に悪い子とちゃうねんで?

朝のとかもそうやな。ああいう、セリフめいたことを良く言うねん。

……そういうところも好きなんやけどな」

「だからお前の惚気は聞いてないんだが」


緩み切ったセシルの頬を軽くつねれば、痛いわ〜と言った。


はぁ、これ以上の情報は望めなさそうだ。

結局、その後の実技中、ずっと僕はこの惚気を聞く羽目になった。








そして、僕は見かけることになる——。


「ジョシュアを、譲ってくれないかしら?」


そう言う転校生と、


「……」


それに向かい合う、姉を。






この翌日、最初の場面に戻るのだ。


第二のヤンデレ、セシリウス・ゼネ・シュペルミシカが出てきましたー!

関西弁もどきですので、間違い等、ご容赦ください(^_^;)

王子様という、将来の最高権力者に惚れられてる時点でリリアーヌは前途多難ですね。



感想など、いただけると嬉しいです。


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