義弟とアリスちゃんとティータイムな件。
ちょっとした説明回です。
……アリスちゃんはあれだ、エルゼ叔母さんと同じタイプのキャラだ。掻き乱してく感じが。
義弟とアリスちゃんの関係が謎だ。
ティータイムって私には縁がないと思ってたのだけど、やっぱり貴族としては日常のことらしい。
今、私の隣にはジョシュア、向かいにはアリスちゃんが座って、机にはティーカップが並んでいる。
私が緑茶もどきのお茶が好きだと聞いたのか、それも用意してくれていた。
……この洋風の机に緑茶って。スコーンみたいなのと一緒に緑茶って。どうなんだろう。
アリスちゃんは小さなかごを取り出す。
「あ、あの、メリアーゼ様、私、お菓子を作ってきましたの」
「うわぁ、アリスちゃん、ありがとう!」
「アリスちゃんなどと。アリスとお呼び捨てくださいませ」
「なら、私のこともメリアーゼと呼び捨ててよ」
そう言えばアリスちゃんは黙ってしまった。
ちょっと意地悪を言い過ぎたかもしれない。
貴族っていうのは身分社会だから、それを超えた行動は良くないそうだ。……めんどくさい。
「それより、お菓子って何?」
「——クレシューですわ」
「クレシュー?」
見れば、マカロンだった。
へぇ、ここではクレシューって言うんだ。
アリスちゃんはウサギみたいで可愛いけど、作るものまで可愛いようだ。
女子力高いなぁと思いながら口をつけると、またすごく美味しかった。
「美味しいよ、これ!」
「ほ、本当ですか? 嬉しいですわ……」
アリスちゃんが顔を真っ赤にして伏せた。照れてるのだろうか?
ジョシュアはなんだか不機嫌そうに、私の手に持っているものを指差した。
「ねぇ、姉さん。それ、ちょうだい」
「それって? この食べかけの?」
「そう。ちょうだい」
言われるままに渡せば、ジョシュアは一転してにっこりと嬉しそうに笑う。
なんだろう。人が食べてるのを見ると食べたくなるタイプなのかな、ジョシュアは。
一瞬、ジョシュアとアリスちゃんが睨み合って火花が飛んだ気がしたけれど、瞬きしてみれば二人とも和やかにお茶を飲んでいた。
ん……? 勘違い?
二人の関係がいまだによく分からない。
何日か前に「親しくなりましたの」とアリスちゃんと一緒にジョシュアが来て以来、ずっとこの三人で過ごしているけど……。
前に、
「その、アリスちゃんってジョシュアのこと好き、だったりする?」
って聞いた時なんか、物凄い勢いで
「ありえませんわ!」
って言ったのはびっくりした。
好きな人がいるんだそうだ。
でも、「ラヴェンダーの髪とスミレの瞳、白磁の肌に細長い手足の美しい人」って誰?
私の知らない人かもしれない。
まあ、とりあえずジョシュアじゃないってことだ。
良かった良かった……あれ? なんで良かったんだろう?
考えに沈みかけたけれど、アリスちゃんがティーカップをカチャンとおいた音で、私はすぐに忘れてしまった。
「そういえばメリアーゼ様、お聞きになりました? 入学式が終わったばかりだというのに、転校生が来るそうですの」
アリスちゃんは耳が早い。
曰く、クラスの子の趣味から学院長の秘密まで手に入れているそうだ。
後半はまあ冗談だろうけど。
アリスちゃんでも冗談なんて言うんだね。
「あー……そうみたいだね」
「あら、驚かれませんのね…。もしやご存じでした?」
知ってるというか覚えてるというか……。
その転校生って、間違いなくヒロインだ。
「まあ、詳しいことは言えないのだけれど、知ってるわ」
「そうですの……とっておきの情報でしたのですけれど。残念ですわ」
「あはは、ごめんね?」
って、ジョシュアはそこで「ざまぁ」って顔するなよ。
……本当にこの二人ってどんな関係?
「では、情報ではないのですけど、一つお聞きしても?」
「何でもどうぞ。答えられることなら答えるわ」
答えられることだけっていうのは何でもじゃないだろ、ってツッコミは無しの方でお願いします。
アリスちゃんは小さくコホンと咳払いした。
「メリアーゼ様は、学部を何処になさるおつもりですの?
あと二、三週で志望書の提出がありますので、お聞きしたくて」
そんなのあるんだ。知らなかった。
学部とか言われると、なんだか大学を想像してしまう。
けど、医学部とか工学部とかじゃないだろうし。
「学部ってそもそも、何があるの?」
「……そういう、少し常識がごさいませんところはやはり姉弟ですのね」
あれ? さらっとひどいこと言われた?
というかジョシュア!
「僕はここまでひどくない」っておいどういう意味だ。
「一年の二学期から学部に分かれるのですわ、この学院の生徒は。
学部は6つありまして、実践魔法学、魔法言語学、魔法道具学、生活魔法学、医療魔法学、そして特殊魔法学ですの」
「へぇ」
見事に全部魔法だ。
いや、魔法学院だから、当たり前なんだけど。
アリスちゃんはお茶を一口飲んで続ける。
「さらに二つの学科がありますのよ。
実践魔法学は攻撃科と防御科、
魔法言語学は研究科と創造科、
魔法道具学は発明科と利用科、
生活魔法学は操作科と生成科、
医療魔法学は治療科と薬剤科、
というふうに分かれていますわ。
特殊魔法学部は、分野が多岐に渡るので、学科として分けられてはおりませんけれど」
「へ、へぇ」
一気に言われて頭がパニックだ。
とりあえず、六学部だけは覚えよう。
学科は……まだ今度で。うん。
私の脳の容量はそんなに多くないんだ。
「私は一応、魔法道具学部利用科を志望しておりますわ」
アリスちゃんはにっこりと笑ってそう言うけれど、いまいちよく分からない。
「……えっと、そこはどんなところなの?」
「魔法剣士など、魔法道具の使用を前提とした戦闘や活動に特化した専攻です」
アリスちゃんが戦闘?
まるで想像がつかないんだが。
ジョシュアも、すでに決めていたようだ。
「……僕は実践魔法学部攻撃科のつもりだよ。精霊魔法の素養があるから特殊魔法学部を勧められたけど、あんなところ入ったらどうなるか目に見えてる」
実践魔法攻撃科っていうのはなんとなく内容が分かるな。
それにしても、そこまで言われるって、どんなところなんだよ特殊魔法学部。
アリスちゃんは微笑んだまま言う。
「まあ、特殊魔法学部なんて国か学院に囲われたものの集まりですわ。所詮そいつらの犬ですので、近づかないのが賢明でしょう」
今ちょっと衝撃発言があった気がする。
気のせいだろうか。
「い、犬?」
「ええ、犬……ああ、メリアーゼ様は犬がお好きですか? ならば犬に失礼でしたわね。国や学院の下僕、と言い換えますわ」
気のせいじゃなかったーっ!
……アリスちゃん、実は結構毒舌なんだね。
そんな会話をしているうちに、私はヒロインのことをうっかり忘れていて……。
転校生の顔を見て、「あ、ヤバイ」となるのだけれど、それはもう少し後のことだ。
×××
その後の主従二人。
「お前、姉さんの前で猫かぶりすぎだろう。何が『お菓子を作ってきましたの』だ?」
「あら、それを言うなら主様! 『それ、ちょうだい』って人の食べかけのものをおねだりになるなんて、わがままな幼子ですのあなた様は⁉︎ とても15の成人した男のすることではございませんわ!」
「はぁっ⁉︎ お前の猫かぶりとは関係ないだろうが! 姉弟の仲がいいだけだ!」
「行き過ぎではありませんの⁉︎
それに、私、猫など被っておりませんわ! 憧れの方の前では緊張してしまうのは当然でしょう!」
「緊張? 知るかそんなの! そもそもお前、僕の恋に協力する話じゃなかったのか!」
「……ソレトコレハベツノハナシデスノ」
「何で片言だよ⁉︎」
ジョシュアは姉以外の前では割と荒いです。
アリスは別に百合な方ではありません……念のため。
感想等、お待ちしております。