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義姉と義弟が学院に向かう件。

一旦、ここで区切りになります。

義弟と私は、学院へと向かった。








あのパーティから、もっと正確に言えばテラスのところからジョシュアの態度がぎこちない。


まあ、仕方ないよね。

私も思わなかったよ、まさか、


「ジョシュアがキス魔だったなんて……」


これでも、あのゲームの内容はともかくキャラのビジュアルは好きだったから、公式の資料集とか画集とかは買ってたのに。


どうなってんだ公式! 酔うとキス魔とか、結構美味しい情報だぞ⁉︎


まあ、あの時はさすがの私も驚いたけど、息が少し酒臭くて、ときめく前に心配になった。


ジョシュア、吐かないよね?


いたのだ、前世の時には。

酔うとキス魔になってあげく吐いてしまう奴が。

それでも、酔ったら三時間「イヒヒ」と笑い続けるやつよりはマシだと思ったけど。

あれはちょっとトラウマものだった。


だから自分好みのイケメンとのキスだというのに、それどころじゃなかったのだ。

ああ、惜しい事をした。

弟とのキスだしノーカンだろうけど、一応ファーストキスだったのにさ。



とりあえず、ここであの日の状況を整理して考えてみよう。


まず、料理を取りに行ったジョシュア。

そこで酒を飲んだのか、それともその前に飲んでたのが回ったのかは知らないけど、ともかく酔ってしまった。


するとなんだがキスがしたくなって慌てて姉のところに戻るけれど姉はいない。

見れば約束を破り、楽しそうなご様子。


自分が大変だというのに、と怒ったジョシュアは人目につかないテラスに私を連れて行くものの、我慢できなくてキスをしてしまった。


……うん、こんなところだろうか。

我ながらナイスな推理力だ。

探偵になれるかもしれない。

いや、この世界に探偵職があるのかは知らないけど。



さて、問題はここからだ。


おそらくジョシュアは自分が酔うとキス魔になってしまうことに戸惑っているのだと思う。

キス魔は恥じることじゃないよ! とか言ったら余計に傷をえぐる気がするしなぁ。

どうすればいいだろう。


いつも姉様姉様とやってくるジョシュアを見なくなってもう一週間近い。

……やっぱりちょっと寂しい。




けれど解決策が見つかることなく、私たちの出発の日はやってきた。





王都行きの馬車の荷台に服やら教科書やらを入れた鞄を載せる。


「それでは、行ってきます、お父様」

「ああ」


父は目線を合わせなかった。

お父様、私知ってるんですよ。

公式設定曰く、実は泣き上戸だそうですね。


そんなことをふざけるように思ったけれど、私も泣きそうだった。

長い間過ごしてきたこの家を離れるのは、すごく寂しい。


「あの」


と、ずっと黙っていたジョシュアが口を開いた。

ゆっくりと頭を下げる。


「お世話になりました……お父様」


私と父は思わず目を見開いた。

それから父はその碧の瞳を潤ませて、ああ、とだけ言った。

私たちが行ったあとに泣くのだろうなぁと思った。



そうして私たちは無言のまま馬車に乗り込んだ。






沈黙。ずぅーっと沈黙だ。

一週間位ぶりにあったというのに、積もる話も何もない。


ジョシュア、なにか話してくれないだろうか。


静寂に耐えかねてチラチラと隣を見るが、ジョシュアは窓の外へ目をやっていた。

うう。


「ね、ねぇ、ジョシュア」


ジョシュアの肩がピクンと跳ねる。


「何?」


顔はこちらを向いたけれど、目は合わなかった。

それが寂しい。


「あのね、ジョシュア……」


声を出してはみるものの、何を言っていいか分からない。

何がいい?

この前のキスは別になんでもないからね! とか?

あれ? でもこれって普通した側が言うことじゃない?


「その……」

「姉様」


視線を下げたまま、ジョシュアが言う。


「僕の話を聞いてもらってもいい?」

「う、うん」


ジョシュアの声が硬い。なんとなく緊張して姿勢を正した。


「僕が入ってた孤児院はさ、酷いところだった。僕は随分と小さい時からいて、死んでないのが不思議なくらいのところ。魔力が関係していたのかもね。実際、何人もの子供が冬を越せずに死んでいったよ」

「……」


初めて聞くジョシュアの過去の話に、私は何も言えなかった。

この前のキス魔騒動とどう繋がるのかはよく分からなかったけど。


「そこで魔法が使えたのは僕だけで、だから、僕は散々に利用された。……道具だったよ、まるで。

だから、お父様に引き取られた時も、ああ、やっぱり道具として使われるのかなって思った」


父はそんな人じゃないって今言うことに意味はないだろう。

だってそんなこと、ジョシュアだってもう知ってるのだから。


「違った。違った——嬉しかった。

姉様は、僕をちゃんと人間として扱ってくれた。ずっと気づけないでいたけど、お父様だって」


——だから、僕は怖いんだ。

とジョシュアは言った。


「姉様が他の人といるのを見ると、何だか、僕の居場所がなくなってしまうような気がするんだ。またあの孤児院の時みたいになってしまうんじゃないかって、……“道具”に戻っちゃうんじゃないかって」


肩が震えているのを見て、私は思わずジョシュアを抱きしめた。今や私よりずっと背の高い彼は、とても小さくなって怯えていた。


ジョシュアはすがりつくように私の腕を掴む。その顔は涙で濡れていた。

ああ、初めてジョシュアの涙を見た。


「姉様、姉様。お願い、どこにも行かないで」


子供みたいだ、と思った。

家に連れて来られた時よりも、ずっとずっと子供みたいに見える。

私はジョシュアの目を正面から見つめた。


「大丈夫、私はずっといるわ。だって、家族でしょう?」


ジョシュアはハッとしたような顔で、ボソボソとつぶやいた。


「そうか、家族……弟なら、ずっとそばにいていいんだ」

「え? 何か言った?」


うまく聞き取れなくて、聞きなおせば、なんでもない、とジョシュアは首を振った。


なんなんだろう。ちょっと気になったけれど、まず、私には謝らなきゃいけないことがある。


「ジョシュア、前はその、ワガママばかり言ってごめんなさい。理由はあったけど……言い訳はしないわ」


ジョシュアはポカンとした顔をして、それから涙にまみれたまま笑った。


「いいよ、そんなこと。気にしてない」


良かった。許してもらえた。

私はホッと息をつく。

ジョシュアって実はMじゃなくて、半端なくいい子なんじゃないだろうか。笑ってたのも、しょうがないなぁみたいな感じでさ。


それとも、やっぱりドM?


私はジョシュアを抱きしめた手を少し緩める。

不思議そうな、不安そうな顔が見えた。


……うん、前者であることを願おう。







そこから先、私たちに大した会話はなかったけれど、それは少し幸せな沈黙だった。






×××




ジョシュアは眠ってしまった姉の髪を撫でた。

メリアーゼは目を覚ましそうにない。


単純な人だ、とジョシュアは思った。

少し違う話をすれば、キスの件を忘れている。


クスリとそのほおが緩んだ。


「姉様、僕はいい弟で——家族でいるから、」


そっとその額に口付ける。

スミレ色の瞳が開くことはない。


「姉様、いや姉さんは、ずっと僕のそばにいてね?」






メリアーゼが、ヤンデレ阻止どころか原作よりずっと早くヤンデレ化させてしまったことに気づくのは……まだ先のお話。

メリアーゼ、逃げて超逃げて!



と、とりあえずここでレオンハイト伯爵領編が終わりです。

お付き合いくださりありがとうございましm(_ _)m

そしてこれからもよろしくお願いします(笑)


感想等、お待ちしています!

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