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義姉とパーティに出た件。

長いです。そして結構暗いです。

姉と僕のパーティが始まった。








ここ数日間、姉とまともに話してない。

ドレスの採寸やら仕立てやらで時間がかかっているらしい。


姉は今まで病気だったのもあって、外出用の服がほとんどないので、これを機に一気に作ってもらってるのだそうだ。


「……」


つまらない。

姉と一緒に過ごすことが多かったからか、いないと落ち着かなかった。


自分がもう仕立て終わってすることがないぶん、成長痛で寝込んでいた時よりも姉と会えないのが辛く思えた。


「……姉様」


何より、ドレス姿を見せてもらえないのがキツイ。

僕だって見たいのに、とまくらに顔をうずめた。



そんなこんなで日々は過ぎ、とうとうパーティの日になった。








会場はこの家の大広間だ。

広間には二つ扉があり、一つが普通の大扉で、もう一つは階段を登ったところにある。

僕と姉は主役ということで、階段上の扉から出ることになっている。


今日のためにあつらえた服は堅苦しくて動きづらい。首元をもう少し開けたいのを我慢して、扉を開けた。


瞬間、視線がパッと集まる。

怖いくらいだが、そんなそぶりを見せずに一礼した。

それから階段を降って、もう一度礼をする。

拍手が響いて、ようやく一息ついた。


姉はもう少し後になるそうだ。

成人ということで渡された酒をちびちびと飲んだ。

愛想笑いで話しかけてくる人をあしらいつつ、チラチラと扉に視線をやる。


そして、扉は開いた。


会場のものが息を飲む音が聞こえる。

それだけ、姉は美しかった。


シルヴァーより紫かがったラヴェンダー色の髪を纏めると、どことなく色香が漂う。

耳には瞳に似た紫水晶アメジストの飾りが揺れていた。

日に当たってこなかったために真っ白な肌にローズピンクのドレスがよく映えて、まるで花のようだ。

肩がむき出しになったそのドレスは姉を一層華奢に見せる。


姉は、多くの視線をまるで気にも留めないようにうっすらと微笑んで階段を降りてくる。

階下で一礼した時、だいぶ遅れてから拍手が起こった。

誰もが見とれてしまって、拍手を忘れていたのだ。


僕も例外でなく、普段と違う様子に思わず呆然としてしまっていた。

けれどハッとすると、姉の元へ向かった。


これだけの人が姉のこの姿を見ていることが苛立たしく、そしてすぐに男たちに取り囲まれてしまうかと思うと気が気じゃない。


「姉様」


声をかければ、僕を見て微笑んだ。

胸が跳ねた。

流石に緊張していたんだろう、安心したような柔らかい表情だった。

姉に近づこうとしていた男を牽制するようにそばに寄る。


近くで見れば、さらに美しくみえた。

普段から綺麗だとは思っていたけれど、細い首や肩に目がいって慌ててそらす。


「姉様、綺麗だね」

「うふふ、嬉しいわ」


姉はなんとかお嬢様らしくしようとしているのか、言葉や動きが少しぎこちない。

それがまたいじらしくて僕は目が合わせられないほどドキドキしていた。


「ジョシュア、挨拶をしてこようと思うのだけど……」

「ああ、付き合うよ」

「ありがとう」


ホッと息をつく。

貴族社会に詳しくない姉は、誰がどの人なのか、そして誰に挨拶をすべきかよく分からないのだろう。

僕には好都合だ。姉を一人でいさせるなんて、そんなこと想像しただけで嫌だ。


それにしても、と僕は姉に視線を向ける。

初めての場で戸惑っているせいか、やけに素直に感じた。

嬉しい。姉が頼ってくれているような気がして。


「ジョシュア?」

「……あ、ごめん。まずはディズレー公爵かな。ついて来て」


会わせたくはないけど、姉の評判が悪くなってしまうのは困る。

何人か爵位持ちの方々やその夫人のところを回って、僕が間に入った。

仲がいいのね、とからかわれた時は少し照れた。


挨拶が終わっても、ダンスまではもう少しあるようだった。

メリアーゼはひそひそと囁く。


「ジョシュア、私、料理もらってくるわ」

「え、だ、駄目!」


思わず叫ぶと、周りから見られた。

恥ずかしくて顔を伏せる。


でも、冗談じゃない。

料理のところなんて人が多いから。

そんな本音を隠して、


「ほら、食べた後ダンスは大変だよ? それに僕が後でとってきてあげる。こういうのは男がやるものだからね本来は」


小声でまくし立てるように言えば、それもそうねと姉は頷いた。


……良かった。

良かったけど、この人こんなに騙されやすくて大丈夫だろうか。

騙している分際で言えたことじゃないが、ちょっと心配ではある。


しばらくして曲が流れ始める。

ああ、知っている曲だ。

この曲確かすごく長いんだよね。

頬が上がるのを感じた。


膝をついて手を出せば、練習ではしなかった動作に姉は驚いたようだけれど、


「姉様、どうか僕と一曲踊っていただけませんか?」


と言えば、喜んで、と姉は微笑んで僕の手を取った。


主役の2人ということもあってか、自然に広間の中心へと流される。

姉は結局、3回ほど間違えたけれど、それでも初めてにしては上出来も上出来だった。


長いようで短い時間を終えて、最後は互いに礼をして占める。


「姉様、料理をとってくるよ」

「ええ、お願い。……生ハムメロンとローストビーフが食べたいな、なんて」


口調が随分と砕けてきた。

でも、生ハムメロンとかローストビーフって何だろう?


「何、それ?」

「あれ、ないのかな。果物に豚肉の燻製を添えたものと、塊のお肉の外側を焼いてスライスしたもの、なんだけど」

「……ああ、なんとなく分かった。とってくるけど、姉様、約束守ってね?」

「分かってるわよ。他の人とは踊らない、でしょう? 私だって、自分から恥をかこうとは思わないわ」


本当は姉様の上達はすごくて、ずっと病気だったことから考えれば、十分に踊れる。

でも、踊って欲しくなくて、まだ踊るのは無理だと言ってそんな約束をさせた。


本当に騙されやすくて、怖くなる。

僕以外の人にころっと騙されてしまったら?

どうしよう。


姉様に、そこで待っててね、と念押しして、料理のスペースへと行った。


そこで話していた女性たちが口々に声をかけてくる。


「あら、ジョシュア様ではありませんか。先ほどは素晴らしいダンスでしたわ」

「ありがとうございます」

「お姉様であるメリアーゼ様もお美しくて」

「……ありがとうございます」


大抵は褒めてくれる言葉だけれど、


「元庶民のくせにあんなところで踊るだなんて、図々しいこと」


などと嫌みたらしく言ってくる人もいるものだから、余計に姉を連れてこなくて良かったと思った。


別に、僕自身は蔑む言葉など構わない。

ただ、そのせいで姉が心を痛めるようなことがあってはならないのだ。



一通り見て、姉の要望に近いものが手に入った。

なかなか時間がかかってしまった。

もう二曲目が終わろうとしている。


元の場所へ帰って姉の姿を探した。

が、見当たらない。待っててと言ったのに。

嫌な予感がした。気が急いて、焦る。


曲が終わるその瞬間、そんな僕の目に、男と踊る姉が映った。



——血が滾るかと思った。

怒りにも似た感情が爆ぜるような感覚。


足は迷いなく姉の方へと進む。

僕は、曲が終わって男と談笑する姉様の腕を掴んだ。


「ジョシュア?」


姉様はその瞳を丸くした。

隣の男のことはもう視界にも入れたくない。


「姉様、ちょっと……来て!」

「えっ、何? 痛っ」


皿を給仕に預け、テラスに出る。

外の寒い空気に少しだけ頭が冷えたが、それでもまだ収まりそうもない。


「姉様、約束は?」

「え、でもあの人、私の従兄弟よ? 昔会ったことがあってね、練習相手をしましょうかって。奥さんが美人なんだって惚気られたわ」

「そういうことじゃなくて!」


僕が怒鳴れば姉は首を傾げた。

不思議でたまらないというように。


「……じゃあ、どういうこと?」


僕は言葉につまった。

どういうこと? どういうことなんだろう。

この気持ちは、何なんだろう。


「だって約束を、破った……」


そんな簡単な事実に逃げた。違うのに、そんなことじゃなくて。


「そうね。ごめんなさい。それで、怒ってるの?」


頷こうとしたけど、できなかった。

そのはずなのに、それだけじゃない。


ああ、何で? 息が苦しいような、苦いコーヒーを飲んだ後のような、そんな気分になる。

分からなかった。何も分からなかったけど。


ただ、月明かりに当たる姉が、ひどく美しかった。


「……姉様、」


僕はそっと姉様の体を抱きしめた。

一度びっくりしたように動いたけれど、それだけだった。


その唇に僕のを重ねる。

そうしたくてたまらなくなったのだ。

酷くなんて、しなかった。

触れるだけの、優しいものを。


姉はパチパチと目を瞬いた。


「ジョシュア……酔ってるの?」


姉を見れば、その瞳には——驚きと心配しかなかった。

そうか。姉は、僕のキスも何とも思わない。

その事実は僕を絶望させるようだった。


「うん、そうだね……酔ってる、のかも」


ハッとした。僕は何をやっているんだろう。

酔ってはいなかった。そんな量は飲んでない。


「成人だからって、飲み過ぎは良くないと思うわ」


姉はふわりと、少し呆れたように笑った。

その笑顔が今は痛い。


「ごめん。ごめん、姉様」

「なんで謝るのよ? こっちこそごめんね。約束破られるのがそんなに嫌だったの、知らなくて」


違う、と思ったけれど、僕は無言で頷いた。

顔が上げられなかった。

感想等、お待ちしています!

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