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日常になりかけると、 2

 金曜日の放課後、少し遅くなってしまったが学級委員の発案で勇の歓迎会が開かれることになったらしい。

 らしいというのは、照は学校にいる大半の時間を睡眠に使っているため、この学校の生徒で在りながら、学校に関する情報は部外者並みの知識しか持ち合わせていなかった為である。

「ちゃんと、アンタの名前も参加の方に入れといたからね」

「無理、バイト。」

 いつも通りの返事で済ませておく。

「あんたねー、毎回毎回おんなじ言い訳が通用すると思うなっ!」

「どっちにしろ、オレは不参加でー」

「あ、の…たかもり、くん。どうしてもダメですか?」

 あすかよりも一回りも大きい身体を後ろに隠している。

「この間のお礼もしたかったから、来て…ほしいです」

「え?なに?なんかあったの?アンタたちっ」

 勇の言葉にすぐさま食いついた。

「いや、なんもないからっ」

「言いなさいっ」

「ヤダ」

「ユウっ!」

 望みがないと見ると、すぐさま攻め安そうな方へとシフトチェンジする。

 しかも、あすかが狙いを定めた獲物は

「じ、実は―——、」

 押しに弱い。

 この性格を知ったのも、ずいぶん前だっけ、最初は確か。


 数日前の昼休み。


 校舎裏の日陰、人通りも少なくて照のお気に入りのスポットだ。昼は大体ココにいる。だが、そんな彼の平穏も数秒後に壊されることになる。

「好きだっ!付き合ってほしい」

 校内の人目が着かない場所で、勇はまだ自己紹介も済ませていない男子生徒に告白されていた。

「え、あの、すっすみません」断ったんならそれまで、さっさと退散すること。あ、どうも、盗み聞き中の照です。いや、不可抗力なので悪しからず。

「え?なんで…」

 思いもよらない返事が返って来たと言わんばかりの反応だ。

「まだ、あなたのことよく知らないし、」早く帰んないとずるずる引きずるぞ。

「でも、この間話したの覚えてない?あの時、なんかこう、運命感じたっていうか、キミにも分かるだろ?あの目が合った瞬間」

「え…あの、」かなりブットんだ勘違い野郎だ。さっさと逃げなさい。

「いや、分かるよ。いきなりだもんな」

「あの、そういうことじゃなくて」そうそう、そういうコトじゃないの。逃げろって。

 距離がどんどん近くなっていく。

「とりあえず、どこいこうか?初デートだし、」

 自分の感情だけが先行して、さっきから全く勇を見ていない。

「絶対ボクらは上手くイクから」イクのスペルがファ○クになってるから。

「いや…ご、ごめんな、さい」

「いいから、いくよっホラ!」

「い、いたい」

 男子が勇の腕を無理矢理引っ張っていた。

「それはダメだろー」

 とっさに声が出た。自分の性格が恨めしい。

「え?」

「は?」

 物陰から身を乗り出す。

「なに?」

「だからぁ、嫌がってんだから、やめとけ」

「高森、くん」

「とりあえず、手ははなせ」

 名もなき男子の腕を掴むが、軽く振り払おうとしただけではビクともしなかった。

「やめろよ。オマエにはカンケーネーだろっ」

「関係あるとか、ないじゃねーから。女に無理矢理してんのはおかしいって話してんだよっ、オレは」

「うるせーなぁ、カンケーねぇっていってんだろ!」

 男子が照の胸ぐらに掴み掛かる。

「良いとこだったのに邪魔してんじゃねーよっ!」

「あーあ、本性でちゃってんね。怖がってるけど?」

 空いた手で勇の方を指差してやる。

「っ、オマエ!」

「いいから、やめとけよ。これ以上怖がらせたら、印象悪いんじゃないの?」

「怖がってんのはオマエのセイだろっ!」

「………」

「………」

 睨み合っていると、予鈴が響いた。

「あ……、ちっ、あ、あのまた今度、今度はちゃんと邪魔が入らないとこで、またね」

「なんだあれ。ずいぶん優等生だな……、」

 反応がない。握られていた手は少し震えていた。

「オレらも戻る?」

「あ、うん」

「じゃ、行くか」

「あのっ、高森くんっ」

「え?なに?」

「……ありがとう。助けてくれて」

「いや、アイツがうるさくて寝むれなかったから、やっただけだから」

「でも、ありがと」

「あー、ハイよ。どういたしまして」

 さっきの手の震えが瞼の奥にこびり付いて離れなかった。


「高森くんが助けてくれて、あと……」

「もーいいっ!わかった!いくから、いくから何も言うな!」

「フーっ、アキラきゅんイケメーンっ」

「禅ー……、」

「あーごめんごめん、茶化されるの嫌いなんだもんねー?自分の武勇伝っ」

「コロスっ」

「あーはっはっはっ」

 男子が二人じゃれているソバで、あすかがまだ勇に詰め寄っていた。

「で、あとは?」

「え?でも、高森くんいっちゃダメって」

「イーのイーの、あんなのただの照れ隠しなんだから、それにアイツの弱み握れることなんて、ほとんどないからねー」

 意地の悪い笑顔が張り付いている。

「あーすーかーーーっ!いいからっ!もういいからっ!行くぞっ!」

 禅は羽交い締めにしたまま、あすかと勇の方に戻ってくる。ものすごい形相で、

「ハアッハアッハア……」

「なに興奮してんのよ」

「してないわっ!」

「あーーー」

 あすかが何か思い出したように勇の方に向き直る。あの笑顔のままで、

「ユウが最近、男子の呼び出しあってもなんか―—、」

「いいから―———っ!!」


 歓迎会の会場の駅前のカラオケ。

「はあ、」

 照はロビーで休んでいた。

「あ、高森くん?」

「ん?ああ、勇か」

「………」

「………」

 次のアクションを待ってみたが声をかけたきりで、そこから微動だにしなかった。

「……座ったら?」

 仕方なく声をかけてやる。そんな一言でぱっと表情を明るくさせた。

「え?いいの、ありがとうっ」

「で、本日の主役がこんなとこでなにしてんの?」

「高森くんのコト探してて」

「オレ?なんで?」

「ちゃんと、お礼してなかったから、」

「だからぁ、あん時のことはもう良いって、つーか別にお礼言われるようなことなんもしてなし」

「でも、高森くんのおかげでちゃんと、自分のこと考えるようにしたよ?自分がどうしたいか。とか、いろいろ」

「あ―—、結構えらそうなこといってんなぁー、オレ…ハズイ」

 勇が小さく笑った。

「そんなことないよ」

 勇に笑顔を向けられるのは悪い気分ではないのに、どうしても、その度に顔を背けてしまっていた。


 思い出したのは、初めて泣かせてしまった昼時だ。


 あの日以来、勇の告白の場面に何度か出くわすようになった。今思うと、わざとそうしていたのかもしれない。

 今日も、日課のように告白を受けていた。

「無理なら無理って、ちゃんと言わないから毎回こんなことになってんじゃねーの?」

 つい、思っていたことをこぼしてしまった。

「ご、ごめんなさい」

「あ、いや、勇が悪い訳じゃないんだけどさぁ、」

 一度、出てしまうと後に引っ込むことは出来ないのが、照の短所でもあり、長所でもある。

「それと、謝るようなことしてないのに、謝んな」

「ご、ごめんなさい」

「………」目だけで訴える。

「あ、……うん」

「相手の言うことそのまま鵜呑みになんかすんなよ。流されて付き合ったってろくなことねーだろ?ちゃんと自分の気持ち考えろよ」

「……うん。ゴメンなさい。メイワクだよね」

 だから、と言いかけて勇の方を見ると今にも泣き出しそうな、というか泣いていた。

「は?え?ご、ごめんっ!言い過ぎだっ!」

 突然のことに慌てふためくしか出来ない照。

「や、ちっ違うのっ、泣いてないからっ」

「いやいやいやっ!ゴメンっホントごめん!」

「だいじょぶっだから、ちょっとだけ、ちょっとだけ待ってて」

 そのまま背中を向け、小さな背中を震わせ、漏れそうになる声を堪えていた。

「………ゴメン」

「ひゃっ」

 気づけば勇の身体を後ろから抱きしめていた。それを自覚した途端、また頭が真っ白になった。

「え…あ、ゴゴごごめんっ!ホントごめんっ!」

 すぐに身体を離し、勇の身体をこちらに向け、低頭した。あまりの早さに摩擦で熱を持ったのかと思いたいくらいに顔面が熱くなっていた。

「だ、だいじょうぶだよっ!だいじょうぶだから、ねっ?ねっ?」

 勇が何度も言って、ようやく照の頭が上がった。

「………」

「………」

 目が合わせられない。ギリギリまで視線を上げると、勇の頬も燃えているように紅かった。

「…も、戻ろうか」

「う、ん」

 それしか出てこなかった。それは勇も同じだったと思う。

 言うまでもなく、その日、一日ギクシャクした状態が続いて、敏いあすかに互いに問い詰められたが、顔を紅くしてごまかすのが精一杯だった。


「………あん時はいきなり、ゴメン」

 今でも思い出すだけで煙が出るほどに恥ずかしい。自分があんな行動を取るとは思いもしなかった。

「………」

「ユウ?」

 反応が返ってこないのが不安をあおる。

「謝るようなことしてないのにあやまらないーっ」

 イーッと歯を見せながらいたずらっ子のように笑った。

「なっ」

「高森くんがわたしに言ったことだもーん」

「あーそうですかっ」

 しかめっ面で返してやった。

「……ありがと」

「あー、いや、うん。そう思って頂ければ光栄です」

「フフっ、高森くんて面白いよね」

 何かを思い出したように笑みがこぼれる。

「あー?そうか?大体、寝てるダケじゃね?」

 別に意識して、勇のこと笑わせているつもりはなかったが、彼女からしてみると

「そうそうっ、いっつもどこでも寝てるから、ネコみたいでカワイイし……」

 見られていた。

「は、はい?」

「えっあ、ち、違くてっ!」

「あーいやいいっ!わかってるっ!わかってるから」

「分かってるってナニがー?」

「青春してるーねっ?」

「ワ―————————————————————————————っ!」

「や―————————————————————————————っ!」

 二人の間に入るように、あすかと禅が顔をねじ込んできた。

「な、にやってんだよっ」

「それはこっちのセリフ」

「そうだよー?アキラはすーぐどっか行っちゃうし、今日の主役もアキラ探してくるっていったっきり?いなくなっちゃうしさぁ」

 現れてから二人のニヤニヤが止まらない。

「あははは…、ごめんなさい」

「つかなに、ニヤついてんだ」

「いやいや」無駄にこの二人、

「別にー?」やけに息が合う。

「ほら戻るわよ?みんな待ってるんだから」

「はーいっ、ほら、高森くんもいこっ?」

「んー。今いく」

 そこで気づいた。さっきの拍子で勇の腕と胸が自分の腕に絡み付いていたことを、

「っ………、」

 意識した途端、固まってしまった。それはあっちも同じらしく、顔を真っ赤にして、俯いていた。

「はいはいはいはい」

「いきましょねー」

 ニヤついたままの二人が、照と勇を引きはがして連れて行った。


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