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日常になりかけると、

「ア―———、眠い、もう眠い通り越して、のむい……」

「意味分かんないから」

 あすかがジト目でツッコミを返す。

「あ、高森くん。おはよう」

「んー、えーと、勇だっけ?」

「へ?あ、う、うん。そうっだけど」

「?」

 名前を呼ばれただけで、顔を真っ赤にするのは、照にはよく分からなかった。

 アンタ相変わらずね。とあすかがまだジト目でこちらを見ていた。

 教室に到着するなり、机に身体を預けていた照が愚痴る。

「最近の高校生はみんなこんな早い時間に起きてんのか」

「最近じゃなくてずっと変わらずね。まだ、一ヶ月も経ってないでしょ、そんなんでアンタこれから無遅刻無欠席なんて出来んの?」

 あすかが飽きれたように声をかける。

「……無理、無理でふ」

「無理ってアンタ、それじゃ留年じゃん」

 先日に受けたゴリ原の指導により、照は今年あと一回でも遅刻欠席をした場合、卒業させないという無謀な罰則を与えられてしまったのだ。

「はぁ―——。マジあのゴリ原のヤロー、横暴すぎだろ」

「でも、そんくらい言わないとやらないアンタが悪い」

「ウルサイ。ゴリ原に買われたくせに」

「あ?」

「すいましん」

 右手に持っていたメカニカルペンソーが鈍く光ったのを見逃さなかった。

「ふざけてんのか?」

「いえ、すいません」

「ツギハネーゾ?」

「はいっ」

「でも、なんで、た、高森くんはそんなに遅刻してたの?」

 なんとか、落ち着いた勇が疑問を口にした。

「………聞いてしまったな。」

 照が急に神妙な面持ちで勇の方に向き直る。

「え?……え?」

「知りたいか?本当に知りたいか?」

「あ、いや、あの…」

「よーし分かった!教えよう!」

 勇の様子など気にせず、口を開いた。

「オレは夜行性だ」

 すかさず、あすかの重い一撃が、照の後頭部を襲った。

「ぐっおおおおおおおお、ゴリ原に受けた傷がまだ癒えていないというのにっ」

「日野ちゃん。バカが移るからあんまりしゃべらないの」

 凶器となった広辞苑を何事も無かったかのように元の位置に戻していた。


「今日も勝手に使っていいから、オレどうせ寝てるだけだし」

「あ、ありがとう」

 勇が転校してきて以来、教科書は隣に座る照が貸していた。

 周りの男子が恨めしそうに照を睨むが、当の本人には全く堪えていないようだった。

 勇がクラスの中心というか、男子の注目の的になるのに時間は掛からなかった。

 おっとりとした控えめの性格は周りの皆を和ませた。しかし、それだけでは、男子のハートは掴めない。まあ、本人は掴みたくて掴んでいる訳ではないのだが、

 スレンダーな身体つきに、それにはあまりにも不釣り合いな豊満な胸が全ての男どもの視線を釘付けにしていた。もちろん言い寄ってくる奴もいるワケだ。

 そんな周りの視線を知ってか知らずか、男子に自分から声をかけることは少なかった。たまたま隣の席がオレだってだけだ。

「一限目は?現国だっけ?ほい」

「あ、ありかと…ごめんね」

「あ?なにが?」

「私の教科書まだ届かなくて高森くんの借りっ放しで」

「別に勇のせいじゃないでしょ。それにどうせオレ使わないし、じゃ、寝るっ」

 机に突っ伏したまま、手だけをビシッと決めた。

「フフッ、ありがと」

 クラスの女神様に笑顔を向けられた照に、クラス男子どもが殺意を向けたのは言うまでもない。


 ある日の放課後。


「日野勇ってコいる?」

 教室のドアから、声がした。ほかのクラスの男子からの呼び出しだ。ここ最近はよくある光景だった。

「え、あのなんですか?」

 呼び出された勇が戸惑いながら返事を返す。

「あ、いや、ここじゃちょっと言いにくいから、来てくれる?」

「……はい、分かりました」

 少し間を置いて、そのまま踵を返した男子の後を着いていった。

「うあー、今週入って何回目だよー」

 姿が見えなくなってから、教室に残っていた一人が悔しそうに喚いた。それをキッカケに残っていたほとんどがぎゃーぎゃーと騒ぎだした。

「日野さんてホント人気あるねー」

 帰り支度を済ませた照にクラスメイトの 桜井 (しずか) が声をかけてきた。女のような名前だが、れっきとした男子高校生だ。

「ここ最近ほとんど毎日だよ?しかも、昼にも言い寄られるくらいだし」

「へー、マジか。まあ、確かに美人だけど…」

「あれ?照も気になってるカンジ?」

「いやいや、そうじゃなくて、客観的に見ての話っ」

「ウチのクラスでも告った奴いたんだけど、見事に玉砕」

「ご愁傷様だな」

 二人の話を聞いていたあすかが説明を加える

「それでユウ、避けるようになっちゃって」

「へ?なんで?別に悪いことしてるワケじゃないじゃん?」

「なんか、断ったことが申し訳ないんだって」

「はぁ?よくわからん」

「アンタはそうでしょうね。女心は複雑なのっ」

「まあ、そんな性格なワケでフられたら一言も話すことが出来ないって分かって、クラスの男子は友達関係続けてるってワケ」

「下心ミエミエのね」

「まあまあ、あすかちゃん。全員がそういう訳じゃないし」

 あすかのツッコミに困ったように眉を寄せた。

「モテるってめんどいな」

「人事ね」

「ヒトゴトだもん。じゃ、またな」

 話を切り、一足先に教室を出る。

「あ、ちょっと待ちなさいって」

「今日もバイトだから無理」

「明日も遅刻しないようにすんのよーっ!」


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