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(旧) 魔宝使いの セ・ン・パ・イ  作者: しゅんかしゅうとう
第1章:国立魔宝大学付属第一高等学校入学編
9/28

第9話:ガイダンス(後)

だれかが質問した。

「先生、どの位が進級できるんですか?」


「毎年、入学時の1年生は4クラス在ります。例年ですと、3年生は2クラスから3クラスまで減りますね、今年の3年は3クラスです」

「3年が4クラス存在した事例は、20年以上前に1度だけ、東南戦争時代に4クラス存在したと言う記録が残っています」


「そんな厳しい競争、私にはムリです」


悲しげに声を上げる女性徒に、教諭は優しく声を掛ける。

「問題ありませんよ。ムリにとは言いません、義務教育では無いのですから。競争の無い道を選ぶと言うのも貴方の自由です。今すぐ退学届けを出しますか?それとも他校への編入を希望しますか?その場合は転出用手続き書類を学校が用意します」


教諭は容赦が無い。”義務”教育ではないとはそういう意味か。教師側に、才能のない生徒を育てる”義務”が無いのだ。

「皆さんの育成には制服補助費や魔宝石購入補助費、デバイス代など、一般家庭の年収程度の補助費が国庫から出されまています。IDカードに入金したお金を使う前でよかったです。あ、転校ではなく退学するのなら専用用紙が事務室に有りますので自分で取りに行って下さいね」


もう、誰も声を発しなかった。

1年の時4クラス居る生徒が3年時には最悪半分の2クラスになると言う事実、更にそれを当然の事と指導教諭が認識している事実、その厳しさにボク等は少し飲まれていた。

付属一高の卒業と言う、最悪1/2が脱落するサバイバルレースに参加してしまった事を強く認識した、レースに掛けるチップは自分の人生なのだ。

先々に不安を感じない生徒は居なかったろう。

少しでも能力UP、少しでも順位UPを無意識に求めていた。グループAかグループBに入っていれば、少なくとも3年に進級できる可能性はかなり高そうに見えたからだ。


これが一高の『絶対能力主義』、『競争主義』なのか!?


イトウ教諭は静まり返った教室を見渡した。

「今日はガイダンスだけなので、軽くチーム戦術のさわりをやって終わりにしましょう。まずはグループABCDを成績順に2つにわけグループ内で2チームを作ってください。チームリーダーはチーム内の成績1位、サブリーダーは2位の人がなって下さいね」


教諭は続ける。

「念のため、正面大型ディスプレイに成績順に氏名と入試祖点を提示します。同じものを皆さんの『Fプレーン』にもDLします」


ディスプレイに氏名と祖点(増幅石で魔宝力を増幅する前の値)が表示された。

育成途上の中高生はレギュレーションでMaxセカンドクラスの魔宝石と定められているので石の差は出ず、祖点だけで判断できるのだろう。


あ、でも、さっき、基本セカンドクラスの魔宝石で受験するが、一部若干名が家庭の都合等でサードクラスの魔宝石で受験生したとイトウ教諭が言っていたな。

又、中等部で魔宝の訓練を受けてきた内部組(中等部出身)と魔宝の専門教育を受けていない一般受験組(外部組)でも、若干は差が出るのかもしれないけど。

祖点だけで能力の序列が決められるのかな?


入試順   氏名  祖点 特記事項

--------------------------------------------

01)鈴木_エイミ 64 (P)

02)大木_タツヤ 48 (P)

03)須加アキヒコ 36 (P)

04)三ツ矢ユウイチ27 (P)


05)片栗_シュン 24 (P)

06)国学徒ニーノ 18 (P)

07)南山_ウラン 12 (P)

08)東郷_セイネ 09 ジーニアスゲート


09)戸隠_ヨシノ 08 (P)

   (プロマイザーここまで)

10)津田ムラマサ 12

11)平野_ミライ 10

12)田中マルクス 08


----(以下略)----


「先生、質問があります」

「先生、序列がおかしくありませんか?」

10位の津田ムラマサ君と11位の平野ミライさんが声を上げた。


「9位のグループリーダー戸隠さんより10位11位の私達の方が高得点です!!」

「それどころかグループA、8位の東郷さんよりも私たちの方が祖点が上です!納得できません」


それに対し、やれやれと言った感じでイトウ教諭が答える。

「序列はMPC値等の指標から客観的に求めた物です。”納得できない”と言う個人的感情からの反論は国益に反する行為ではありませんか?」


2人は引き下がらない。一高の熾烈な競争を実感した今、一つでも順位を上げようと必死なのだ。

「客観的数値が序列に合致していないから上申しているのです」

「MPC値祖点と序列の食い違いはモチベーションに影響が出て、それこそ国益に影響が出るのではと愚考致します」


イトウ教諭が答える。

「そうですか。2人は中等部からの内部組ですよね。魔宝の本質を忘れてしまっているようですね。では、あなた方のグループ4人を例に挙げて説明します」


ディスプレイの表示が切り替わった


入試順   氏名  聖闇 火水生風土:属性数:祖点


09)戸隠_ヨシノ -- 2-2-2:☆3 : 08

10)津田ムラマサ -- 4--3-: 2 : 12

11)平野_ミライ -- 52---: 2 : 10

12)田中マルクス -- 4--2-: 2 : 08



「知っての通り、魔宝力は魔宝石で同時発動できる単独魔宝力の掛け算になりますね。ソレを単純に現したのが祖点です、9位の戸隠君の場合2x2x2=08となります」

「ではこれに、入試では使わなかった増幅石を使用したとシミュレーションして祖点からセカンドクラスの

MPC値を算出してみましょう」


入試順   氏名  聖闇 火水生風土:x増幅値:属性数:MPC値(2nd)


09)戸隠_ヨシノ -- 2-2-2:x12:☆3 : 96

10)津田ムラマサ -- 4--3-:x08: 2 : 96

11)平野_ミライ -- 52---:x08: 2 : 80

12)田中マルクス -- 4--2-:x08: 2 : 64


「魔宝師用時の実態に合った増幅後の値をMPC値と呼びます。9位の戸隠君の場合2x2x2x12=96、10位の津田君の場合4x3x8=96、11位の平野君は80、12位の田中君は64となります。換算したMPC値と序列に齟齬はありませんね」


イトウ教諭は更に続ける。

「では、4人が今の実力のまま卒業しファーストクラスの石を使ったとシミュレーションしましょう。各属性の上限値がセカンドクラスが約5に対しファーストクラスは10。増幅値上限はセカンドクラスなら×15、ファーストクラスなら×50になります」


入試順   氏名  聖闇 火水生風土:x増幅値:属性数:MPC値(1st)


09)戸隠_ヨシノ -- 4-4-4:x40:☆3 : 2,560

10)津田ムラマサ -- 8--6-:x32: 2 : 1,536

11)平野_ミライ -- 94---:x32: 2 : 1,152

12)田中マルクス -- 8--4-:x32: 2 : 1,024


「はい。実戦投入を想定したMPC値のポテンシャルでは、戸隠君がダブルサウザン(2千以上)、他はせいぜいオーバーサウザン(千以上)までとなりますね」

「オーバーサウザンは学年の上位ランカーなら学生用レギュレーションのセカンドクラスで達する値です。例えば1年主席の鈴木君の入試の成績はセカンドクラスの石でMPC値換算768、ニアサウザンに迫る数値を出しています」

「つまり、今例に挙げた4人の入試時の成績は、9位の戸隠君以外、着目するにも当たらない存在であると言う事です。繰り返しますが9位の戸隠君以外が今のまま大学生になれたとして、リミッター無しの全力全開の魔宝力を測定しても、鈴木君が中3受験時に教育用魔宝石で発動した魔宝力と比べ、大した変わりが無いと言う事ですね。君たちは愚考も上申もしなくていいです、ただ精進して下さいね、進級したいなら」


愚考の挙句の上申は論破された。2人は黙ってしまった。


入試の段階で卒業後の能力がシミュレーションされ、更に9位と10、11位の間にMPC値がほぼ倍の差があったのだ。卒業までにこの倍の差を埋めないと序列を逆転できないだけではなく、下からの追い上げがあった場合、卒業・進級すらできないかもしれないのである。


「先生」

おずおずと、誰かが尋ねた。

「表のリーダーは分かるんですが、(P)とかプロマイザーとかジーニアスゲートとかは何ですか?」


「はい、お答えします。まずはプロマイザーからです」

イトウ教諭が説明する。

「(P)はプロマイザーを省略表記したものです。先の例でも分かる通り、祖点が同じでも使える魔宝属性が1や2の人に対し、3の人は優位性があります。3属性以上の魔宝を同時発動できる人はファーストクラスの石を使えば能力の大幅アップが約束されています。『約束されし者』の意味を込めて3属性魔宝師の卵を『プロマイザー』と呼ぶのです。このクラスでは、上位9名がプロマイザーです。3年生への進級も約束されています。ですから1年生2年生の間は各属性の能力値を上げるよりも、使える属性数を増やす事を主眼において指導します。既にセカンドクラスの石を持っている人にも魔宝石補助金が一律に出るのは、まだ魔宝を使えない属性の石を今後購入する必要が出てくるからです。購入する必要の無い場合の多くは3年に進級できないでしょう」


説明が続く。

「次にジーニアスゲートを説明しますね、序列8位、東郷君のMPC値を見てください」


入試順   氏名  聖闇 火水生風土:x増幅値:属性数:MPC値(2nd)


08)東郷_セイネ -- 31311:x15:★5 :135 ジーニアスゲート

09)戸隠_ヨシノ -- 2-2-2:x12:☆3 : 96 プロマイザー

10)津田ムラマサ -- 4--3-:x08: 2 : 96

11)平野_ミライ -- 52---:x08: 2 : 80

12)田中マルクス -- 4--2-:x08: 2 : 64


「精霊七属性のうち聖と闇の2つは特殊です。残りの一般5属性中の4属性以上を開眼した者の一部の人が、聖・闇属性を習得できます。聖・闇習得の可能性のある4属性開眼をもって”天才の門”、ジーニアスゲートが開いていると表現します。ちなみに入試段階で一般5属性を開眼していたのは東郷君1名のみ、4属性開眼は0名です。つまりこの学年でジーニアスゲートが開いているのは東郷君だけですね」


皆の注目がボクに集まった。ついこの間まで引き篭りだったんだ、注目されるのは辛い。

自分の顔が真っ赤になったのが分かる。恥ずかしくてうつむいてしまう。


そんなボクにお構いなくイトウ教諭は続けた。

「はい、ではもう良いですね。ローブと帽子をロッカーに片付けて、4名づつのチームに分かれて下さい。分かれたら10分あげるので、”コミュニケーションして”ください」


ローブを着ているのはグループAのボク等8人とグループBチームAの4名、見事に上位12人だけだった。

ボクはイソイソとローブを脱ぎ、帽子と手袋、ネッカチーフも外した。教室の窓はMシルクスクリーンとなっていたが念のためサングラスは付けたままで、グループAチームBの席に着いた。


「こんにちは、俺は片栗シュン。付属からの内部生だ、成績順に俺がリーダーをやります。よろしく」

この茶髪イケ面が片栗シュンか。


「私は国学徒こくがくとニーノよ、私も内部生。苗字は嫌いだから私の事はニーノって呼んでね」

茶髪ロングが国学徒ニーノね。


「私は南山ウラン、やはり内部生でシュンやニーノとは何度かチームを組んだ事があるわ。よろしくね」

茶髪ショートが南山ウランっと、うわ、いきなりボク外全員知り合いなのかよ。

仲良し3人組みの中に引き篭り1名が放り込まれた気分だよ。超アウエィ、緊張する。


「ボクは東郷セイネと言います。苗字で呼ばれるのは苦手なので、できればセイネと呼んで下さい。こんな髪や肌の色ですが、先天的な色素異常なだけで普通の日本人です。体が弱く、田舎の中学に籍を置きつつ療養していましたが、身内の勧めで一高を受験しました」


「外部組が上位に来るのもローブ持ってるのも珍しいけどね、セイネ、だけど」

国学徒こくがくとニーノさんがボクに話しかけた、いきなり呼び捨てかよ、まぁいいけど。

「だけど、コミュニケーションの場でサングラスを掛けたままってのは無いんじゃないの?」


はぁ、またこの説明か・・・

「私の眼球にも色素が無いため、強い光で視覚異常を起こしてしまうのです」


そう言って、ゆっくりとサングラスを外し、恐る恐る目を開ける。

3人がボクの目を覗き込む。

「うわっ、きれいな紅だ」

「ルビーみたい」

「ピジョンブラッドね」


3者3様の反応をもらった所でサングラスを掛ける。

「そういうワケで、サングラス着用をお許しください」


「同級生に敬語なんて不要だわ、セイネ」

国学徒ニーノは相変わらず、ずけずけと切り込んでくる。これは、アレだな。月子と同じなんだ。


「ボ、ボクもニーノって呼んでいい?」

「勿論よ」

「俺もシュンって呼んでくれ」

「私もウランって呼んでね」

何故か名前で呼び合うことになった。仲良し4人組みに成れたのかな?


「俺たち3人良く知った同士なんでセイネへの質問ばかりになるけど、いいかな?」

シュンが尋ねる。

このイケ面、中々気配りが出来てる。顔も成績も良いなんて、きっと女子にモテルんだろうな。


「セイネは外部生なのに何でローブ持ってたの?」

「太陽光に当たりすぎると体に害があるので、日除けにと、帽子とローブを中学の入学祝でもらったんですよ」


「真夏でもローブ姿なの?暑くないの?」

「ボクの体は色素異常だけでなく、代謝異常も抱えてます。体温が上がらないので動かなければ何とか。でも汗も掛けないので一度上がった体温は下げられません。だからローブの下のレイヤーの数で体温調整します。体温が上がりすぎた場合は風魔宝か生魔宝で何とかします」


「それって、言ってしまって良いのかな?障害者とかのレベルじゃないのかな?」

「申請すれば手帳は貰えるみたいですね」


「背も低くて体も細いみたいだけど、それも代謝異常なの?なの?」

ニーノは本当に不躾だ(笑)絶好調時の月子を見ているようだ。

「ニーノ、失礼だよ」

イケ面シュンは、やはりイケ面だ。


「いいです、答えます。私の体は成長ホルモンや女性ホルモンの分泌にも多少問題があるようです。今はようやく身長が145cmを超えました。体重は30Kg前半です。痩せているのではなく、女性の柔らかさに必要な脂肪がまだ付いていないのです。小学生4・5年生の身体を想像すれば、私のヌード寸法が分かりますよ」


「セイネ」

シュンが言葉を挟んだ。

「そんなデリケートな話、初対面の俺たちにしなくてもいいんだ。お互いを信頼し合える仲になってからの話題だよ。上手い言い方が見つからないけど、女の子なんだからもっと自分を大事にしてあげても良いと思うんだ」


「女の子なんだから」たったその一言で、シュンがボクを女の子と見ていることを意識する。

女性化して引き篭っていた間、身内以外とはほとんど会話もしていない。

同年代の男子から『異性』として見られている事は、だからこれが初めての経験だった。

だからどうした、と、聞かないで欲しい。

ドキドキしてしまった。

シュンにではなく、ボクを女の子と扱ってくれたシュンの言動にドキドキしてしまった。


「はい10分。そこまで」

イトウ教諭が言った。チームコミニュケーションの時間が終わったのだ。


「では、わがクラスのエースチームのリーダー鈴木エイミ君、チームフォーメーションを発表しなさい」


「え?」

鈴木さんが固まった。

「先生はチームのコミュニケーションを取れと仰られたので、チームワークが良くなるよう趣味とかそう言う話をしていました」


イトウ教諭はつれない。

「そうですか。”軽くチーム戦術のさわり”をするので”コミュニケーションして”下さいといったはずです」

「ではチームBリーダー、片栗シュン君。あなたのチームのフォーメーションを教えて下さい」


シュンが立ち上がる。

フォーメーションの事とか何も話してないけど、大丈夫なのか?

ボクの魔宝特性は大画面でさらし者にされたけど、それだけでフォーメーションとかムリだよね?


ドキドキ心配するボクをよそに、シュンがイトウ教諭に答える。

「前衛1トップ1シャドゥ、中衛1、後衛1の変則1-1-2フォーメーションです」


「理由を述べなさい」


「1トップが土・水・生のニーノ、ニーノは土・生で壁役を兼任したアタッカーです。シャドゥアタッカーは火・水・風の攻撃特化型のウラン、中衛が俺で生魔宝で前衛の回復と火・風による中距離攻撃、後衛が体力的に劣るセイネで、なるべく安全な位置から生魔宝でのチーム全体回復と火による遠距離支援を行います」

「フロントに火水風土の攻撃系4属性全てを配置し苦手属性のない布陣とし、中衛、後衛が火・風・生で支援します。個々の能力はチームAに劣りますが、バランスでは劣るところは無いのではと考えます」


よどみなく説明をするシュン、素人考えでは理にかなったフォーメーション論を展開するシュンに、ボクはドキドキしていた。


出合ったばかりのクラスメートの男の子。その堂々とした様子に、ボクはドキドキしていたんだ。


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