表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
(旧) 魔宝使いの セ・ン・パ・イ  作者: しゅんかしゅうとう
第1章:国立魔宝大学付属第一高等学校入学編
8/28

第8話:ガイダンス(前)

入学式が終了すると、1年1組正担任だというイトウ・ラン教諭は

「現在の着席順で2列に整列して私に付いてくる、不測の事態が起きたら声を掛けて下さい」

と一度だけ説明して前を歩き出した。

それなりに意識の高い一高の入学生に対して、単純な行動指示を2度3度と繰り返して説明することは無いみたいだ。

もしかしたらこの「正確に指示を聞く」ところから、競争が始まっているのかもしれない。


歩き出した生徒を見渡すと、成績順上位はボクを含め制服の上にローブをまとった姿だ。もっとも、ボクみたいに桜色の明るいローブは無く、黒とか紺とか濃紫とか、重めの色ばかりではある。

気になって列の後ろを振り向くと、後ろ2/3は制服だけだった。どうやらローブを着用するにもヒエラルキーが存在するらしい。日よけとしてローブと帽子が必要なボクには、クラス8番はありがたいことだったんだな。


高等部学舎入り口に着くとイトウ教諭が

「入り口左のセンサー部に近付いてください。センサーが皆さんのIDカードを識別し、開錠します」

と説明し、そのまま歩いてセンサーの前を通りガラスドアを左右に開いて建屋の中に入って行く。

「靴は外履きのままで結構です、付いてきてください」

生徒がその後をゾロゾロと続く。


「教室の前後2箇所のドアも、ドア左側のセンサーで開錠します」

そう言いながら、イトウ教諭は自動で開いたドアから教室へ入っていった。


「先頭の鈴木エイミ君、貴方の席は一番前の角位置です、机の記名を確認して下さい」


イトウ教諭は続ける。

「後の者は、鈴木に続いて入学式の席順、つまりは成績順にしたがって、各位の氏名が記名された机に着席しなさい」


机は朝見た時と同じに、8人ずつで1つのグループ、そのグループが4つ、あ、最後のグループだけ9人だったけど、になっていた。

ボク等は順次、着席した。ボクの席は8番だから、最初のグループの一番後ろだ。


全員が着席すると、教壇に立ったイトウ教諭が説明を始める。

「見ての通り、成績順に8人づつの4グループに分かれています。向かって左から、グループA、B、C、D。あ、Dグループだけは9名ですね。8人で1つのグループ。このグループは、それぞれ4人毎のチーム、チームAとチームBに分けられます。このチーム4人が、団体行動の最小単位です」


イトウ教諭は続ける。

「グループAの8人がこのクラスのエースグループ、クループAのチームA4人がこのクラスのエースチーム、そのエースチームの先頭に居る鈴木エイミ君が、今のクラスのAoA(エースの中のエース)ですね」

背中を丸めていた鈴木さんが、ムクムクッと背筋を伸ばして起き上がるのが見えた。復活するの早いな。


「一高は教育機関ですから機会は平等に与えます。支給品は一律平等です。皆の机の表面に意識を集中させてください」


「!!」

机の表面が光を発し、モニターになった。組織図等、今までの説明が図示されている。


「はい、それがインテリジェンスデバイス『Fプレーン』です。入力デバイスとしてタッチセンサやソフトキーボードも有りますがiコンタクトも可能です。紙のように薄く、折りたたむ事も出来ます。帰る際には忘れず持ち帰って下さい」

iコンタクトって、操作者の視線を認識して自動入力するインタフェースだったっけ?普段サングラスしてるからあまり使えないかもしれないな、使い慣れたフィンガーパッドを入力デバイスとして繋ぐか・・・


「では、皆さんの『IDカード』と『Fプレーン』に対し、『所有の刻印』を刻みます。一高に学籍がある間は、皆さんの占有物になります。『白の悪魔』タカマチ学長の力をお借りして刻印を刻むので、刻印の上書きや解放はほぼ不可能と思ってください」

一瞬にして、クラス全員のカードとデバイスの所有権が書き換えられたようだ。

魔宝具でないので、書き換え失敗とか『戒め』発動とかは起こらない。

(レジェンドクラスの魔宝具が新しい所有者を認めない時に、書き換えの失敗が起こる)


「IDカードには国庫から制服補助金と魔宝石補助金が入金済みです。家庭の都合でサードクラスの魔宝石で受験した人や」

そこでチラリとイトウ教諭はボクを見て

「うっかり石を無くして受験会場備品のサードクラスの魔宝石で受験した人は、セカンドクラスの魔宝石を購入して下さい。学校が推薦する魔宝石ショップのリスト一覧と、セカンドクラスの各種魔宝石の値段の目安はデバイスにDLしてあります。補助金だけで、普及品なら2石は購入可能だと思います」


「支給金額は一律平等です。成績が落ちても”返せ”と言えない物は平等に扱います。しかし、貸与品は能力別です。国益の為、能力の高い人に限られた良い備品を優先します。例えば、教室の後ろのロッカーを見てください」


生徒がいっせいに振り向いた。


「ロッカーの設置スペースには教室の幅という制限があります。だから、グループAの8人にはローブと帽子をきちんと収納できる広くて背の高いいロッカーを、グループBの8人にはローブを収納できる狭いが背の高いロッカーを、グループC、Dは幅狭で高さ半分のロッカーを使ってもらいます。他の優先例として、高等部専用の第一学生食堂もそうです。食べられるメニューは全員同じですが席は違います。グループAは専用席、グループBは優先席があります。食事の時間を効率的に使い、有事に備えるためです」


そこまでイトウ教諭が説明したとき

「はい」

と挙手して発言の意を示す生徒が居た、鈴木エイミさんだ。


「先生、そこまで能力別で層分けするなら、各クラスのグループAだけを集めた特別選抜クラスを作った方が効率よいのではありませんか?」

鈴木さんは自信満々に発言している。きっと又、鼻の穴が広がっているんだろう。


イトウ教諭は、可愛そうな人を見る目つきで答えた。

「鈴木君は、特別選抜クラスというぬるま湯で、1年間降格の心配なく過ごしたいというのですね?」


最後尾のボクからは鈴木さんの顔は見えないけれど、鈴木さんは「教諭が何を言わんとしているのか」訳が分からないという様子だ。


イトウ教諭は続けた

「1ヵ月後の中間考査の成績で貴方が一つでも順位を落とすとAoAの地位から陥落するのです、入学試験では学年主席の鈴木君」

「1ヵ月後、4つ順位を落とすとグループAのチームBへ陥落しますよ、入学試験では学年主席の鈴木君」

「1ヵ月後、8つ順位を落とすとグループAからも陥落しますよ、入学試験では学年主席の鈴木君」

「年1回のクラス分けでは競争が少なすぎるので、クラス内を層別に分けるのです、貴方は1年に1度しか降格の機会が無い方を好むようですね、入学試験では学年主席の鈴木君」


あぁ、そぅそぅと言う感じでイトウ教諭が続ける。

「今この場にはおりませんが、このクラスの魔宝実技は、正担任A担当の私イトウ・ラン以外に、副担任B担当のフジムラ・ミキ、副担任C/D担当のタナカ・ヨシコの3名で指導します。当然私はグループAしか指導しません。私に教わりたければグループAに実力で入ってきて下さい」


まだ指導教諭がいるのか、生徒は黙って聞く。

「担当教諭の間にも競争があります。下位グループから多くを上位グループへ送り込めれば、それが国益へつながり担当指導教師として評価されます。一定以上昇格させれば正担任に昇格、降格させた生徒多ければ副担任に降格になります。昇格させた生徒と降格させた生徒が同数の場合、昇格に着目され評価されます。チャレンジした1勝1敗とチャレンジしない0勝0敗では、1勝1敗が評価されると言う事です。結果的に上のグループに上がれる見込みの高い生徒を集中して指導することになるでしょう。義務教育ではないので、降格の可能性の高い生徒に手をこちらから差し延べる事はありません。放課後、有望な生徒の指導を終えた後なら対応しますので、危ないと感じた生徒は自ら出頭してください」


教師まで競争しているとは思わなかった、驚きながらイトウ教諭の話を聞く。

「もう一度言いますが、教育機関なので昇格のチャンスは、つまり考査の事ですが、皆平等に用意します。でも、国営組織なので国益を優先し、見込み在る生徒に優先してリソースを投入します」


「授業は一日6時限、3時限を一般教養、3時限を魔宝理論と魔宝実技にあてます」

だれかが質問した。

「先生、一般教養って何ですか?」


「はい。ざっと説明するので詳しくはデバイスを見て下さいね。数学、母国語、第1外国語、第2外国語、化学、物理、母国地理、母国史、世界地理、世界史、等です」


「魔宝師に一般教養なんて必要あるんですか?」


「1級魔宝師は数も少なく国を代表しての席に着くこともあります。そこで正確な母国語や公用語が使えないのは問題ですし、相手国の地理や歴史、自然科学に対する教養も必要になるでしょう。それに・・・」


「それに・・・、何ですか?」


「このクラスの全員が、2年、3年生になれるとは限りません。他高校へ編入試験を受けるのに、一般教養科目の単位が必要になるのです」


クラスの空気がひんやりとした。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

---------------------------------------------------
小説家になろう 勝手にランキング(投票)

よろしければ何か一言(登録不要)とか、投票とか、お気に入り登録とか、
評価とか、書いた物に対して「誰かが読んだ反応」を頂けると尻尾を振って喜びます。
「読んでくれている人が居る」と実感できる事が、本当に励みになります。


カノンの話はこちら
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ