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(旧) 魔宝使いの セ・ン・パ・イ  作者: しゅんかしゅうとう
第1章:国立魔宝大学付属第一高等学校入学編
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第7話:入学式(後)

いくら待っても、誰も教室には来なかった。

学生証であるIDカードを入学前に受取っていた事の意味を、今更ながらに考える。

カード入金の為事前に入手したIDカードを、おじい様がフライングでボクに渡してくれたのであって、実は他の学生はまだIDカードを持っていないのかもしれない。


あと10分で式が始まるまで待ったが、やはり誰も来ない。

ロッカーを開け、帽子とローブを纏って第2体育館へ向かった。


体育館入り口では新入生誘導の受付が設けられていた。美夜に場所を聞いていたので迷わずに済んだ、感謝。

受付に並んでいる人数は少ない。

式開始5分前だ、ほとんどが入場済みなのだろう。


(多分)上級生の受付係りが、一人一人席を誘導している。

「1年1組、東郷です」

そう言うボクに、名簿を見ながら受付の上級生が、

「IDカードは特例で受取り済みなのですね。1年1組はあの列です、東郷君は前から8番目です。ローブはそのまま、帽子は取って着席して下さい」

と案内してくれた。

そうか、本来IDカードはこのタイミングでもらうんだ。道理で誰も教室に来ないわけだ。


体育館の床は、全面にシートが敷かれていた。これなら土足でも大丈夫なのか。

1年1組の言われたとおり前から8番目のイスに向かう。

1組ではボクが最後の一人だったみたいだ。

注目されてしまったので、スカートを摘んで淑女の礼をして着席した。これは美夜から教わったんだ。

あ、講演台の上には大人に混じり、澄ました顔した美夜も座ってる、さすが生徒会長だ。


「・・・この席は成績順・・・」

「・・・1組の1番先頭が1年主席・・・」

小声でのおしゃべりが耳に届く。ま、ボクは8番だから関係ない。


「本年度の国立魔宝大学付属第一高等学校の入学式を開始いたします」

そんなおしゃべりも、式の始まりと共に止んだ。


「新入生代表挨拶、1年1組、鈴木エイミ」

「はい」

あ、ウチのクラスの1番前が起立して演台にあがって行く。本当に主席だったんだ。


鈴木さんだっけ?ちょっと可愛くてちょい釣り目の彼女は気負っているのか少し鼻の穴を膨らませ、演台の上で話し始めた。

「サクラ舞う季節も嬉しい今日この頃、すばらしき先生方、先輩方に囲まれ・・・


あーだめ、早起きさせられたから眠くなっちゃう。

慌てて口に手を当てあくびをかみ殺すと、美夜は「だめねぇ」って顔でボクを見ていて、鈴木何とかさんは何故かボクをにらんでた。

サングラスを外し忘れていたことは、後で美夜に言われるまで気付かなかった。


 ===


式も滞りなく進み学長の挨拶を迎える。

会場が少しざわめく。

「・・・アレが『管理局の白い悪魔』・・・」

「・・・タカマチ学長・・・」

何だか物騒な二つ名を持つタカマチ学長は、見た感じ随分若い、栗色の長髪も美しい素敵な女性だった。おじい様もそうだけど魔宝師の年は見た目だけでは本当に分かり辛い。


学長はいきなり切り出した。

「一高は、国立魔宝大学付属の学校です。正式な終戦を迎えていない現在、国立高校は国益の為に魔宝師を教育しています」


会場の空気が一気に引き締まった。

「競い合うことで個々の魔宝力が高まる事が分かっているので、とことん競い合ってもらいます。個々の能力の向上、それが国益につながります」


学長が話を続ける。

「競い合う目的は、個々の能力の絶対値の向上です。『相対順位』にあまり意味はありません。評価の指標は絶対値である『MPC値』です。気をつけて下さい」


最後に、少し柔らかい顔になって学長が言葉をこう締めた。

「人脈も魔宝師の資質の一つです。この3年間ですばらしい友人を見つけ皆さんの魔宝を大いに発展させて下さい」


学長の講話が終わった時、会場は皆聞き入っていた。波を打ったように静まり返っていた。


「最後に、生徒会長の挨拶」


え、何?学長の後に美夜が挨拶するの??

会場の空気が再びざわつく中、長い黒髪をライトに輝かせ、美夜が演台に昇った。


「生徒会長の桐生院きりゅういん美夜です。一高の先輩として、新入生の皆様に当高の校風をお教えしたいと思います」


美夜が会場を見渡す。

「この学校は絶対能力主義です。指標を元に、全てに順位が付けられ競い合います。1年代表の鈴木さんが1番最初に挨拶したのは、壇上に登る中では彼女が1番格下だったからです。この式事の挨拶順はMPC値で決められています」


ここで美夜が少し息をつき、そしてはっきりと言った。

「学長の後に私が挨拶するのは、今朝のMPCの測定で学長の値を私が上回ったからです」


今度こそ、会場は凍りついたように静かになった。

先頭の鈴木さんは、何だかうつむいている。まさか、泣いてるんじゃないよね。


もう一度、美夜が会場全体を見渡す。そして、ボクの顔を壇上からじっと見つめた。

「一高はそう言う場所、と、心に刻んでください」


美夜のその言葉で、入学式は終了した。

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