第6話:入学式(前)
「入学式当日は朝から忙しいので、早起きしてくださいね」
入学式前夜に美夜に言われていたので、今日だけは、徒歩20分の学校へ行くために朝6時に起きる。
朝からシャワーが必要な程、寝汗をかいてはいない。そもそも体質的にほとんど汗が出ない。
2階の洗面台で、パジャマのままで歯磨き洗面をする。
美夜も月子も一緒に起きてきた。
すごいな、この2人。もう制服を着ている。
魔大付属の女子の制服は中高共に、『聖銀の糸』を織り込んだ白い長袖膝丈の細身のワンピースの上に、『聖金の糸』『青銅の糸』を織り込んだ薄紫の袖無し膝下丈のAラインワンピースを重ね着し、その上にブレザーという出立ちだ。
冬服1着でン十万という話だが、かなりの額が国から補填されているらしい、自分で払っていないので良く知らないけど。
「おはよう御座います、セイネ様」
美夜のボクの呼び方はこの春休みの間、セイネさんになったりセイネ様に戻ったり安定していない。今日はセイネ様のようだ。
「おはよう美夜、月子も」
「おはよう、セイネ君。今日は7時前に家出るからね。入学式の前に学校でやることがあるんだ」
「月子は大変だな」
「ん?美夜姉様も同じだよ。セイネ君は私達と一緒に登校するので、だから早起きするよう言われたんだよ」
「そうなんだ」
洗顔を終え、肩の長さに切りそろえた髪を梳かす。
横から美夜がすっと手を伸ばしブラシで梳いてくれる。
「肩に当たる辺りは毛先が跳ねやすいので、特に注意して下さいね」
さすが、女子暦長いな。
美夜に触れられると気持ちいい。嬉しくて、そして悲しくなる。
あぁ、女々しい、ボク女だから女々しくてもいいのか?
「簡単ですが、直ぐに朝食用意しますね」
「美夜姉様、手伝います」
2人が1階に下りていく。
ボクも部屋へ戻って制服に着替えよう。
部屋でパジャマを全部脱いだ。
どうしても抵抗があったので、ショーツではなくストレッチ系のボクサーパンツをはいている。
肌着は、情けないことに合うものが無かったので、『140cm女児用肌着』2枚780円ってのを着た。
これ、バストトップの所だけコットンが2重になってて、ポチッと浮き出たり、こすれたりするのを防いでくれる。
(アンダー66、トップ68、標高10mm、Aカップの1/5ではジュニアブラさえまだ早かったのだ)
下着姿で、まず、遮光クリームを念入りに塗る。
次に白銀の長袖膝丈ワンピースを着る。首元のボタンをきちんと閉める。ドレープのラインがきれいなので気に入っている。
薄紫のAライン膝下丈ワンピースを重ね着する。こちらの方が生地が厚い。スソが跳ねると下に着た白銀が見えてしまうので、あまりハシタナイ事はしないように心がける。
ブレザーを着込む。昨日おじい様から頂いたお小遣い入金済みのIDカードが入った財布を通学カバンにしまう。
鏡の前で確認する。うん、結構いけてる気がする。
でもココにサングラスとか手袋とかネッカチーフを追加することを考え、少々割り引かないといけない。
学生カバン、魔宝師のローブ、とんがり帽子を持って部屋を出て、1階のダイニングへ向かう。
6時半前なのに、おじい様ももう起きていらした。
朝食は、トースト1/2枚、ハーフベーコンと目玉焼き、ブルーチーズとヨーグルトソースのサラダ、コーヒーと、小食なボク向けに精一杯高タンパクなメニューだった。
美夜や月子に感謝しなくちゃいけない。ブルーチーズの苦味が好きって言ったの、美夜、覚えていてくれたんだ。
「今年もやるのかい?美夜君、月子君」
「はい、おじい様。恒例になってしまいましたので」
「ふむ、相手は元『管理局の白い悪魔』だろ。生徒会長も色々と大変だね」
え?何?悪魔!?それより月子は中3だけど、美夜はまだ高2、生徒会長って3年が成るのでは?
そもそも入学式前に生徒会長ってどう言う事?
昨年度のうちに決まっていたなら、その時はまだ美夜は高1、月子も中2だよね?
「美夜、高2の美夜が生徒会長ってどう言う事?」
「魔大付属では、MPC(魔宝力・カウント)値の大きさで、生徒会長が決まるんです。だから、私は中1から今までずっと生徒会長です」
「・・・すごいな。もしかして月子も?」
「私が中1の時は美夜姉様がいたからね。私が生徒会長やってるのは去年の中2からだよ」
「先の話ですが、来年は私が高3、セイネ様が高2、月子が高1で3人が高等部に同時に所属することになります。来期の生徒会長は本年度末のMPC値で決りますので、おそらく3人の中の誰かだと思いますよ」
お話しながら食事をしていると、直ぐに時間になってしまった。
皆で食べ終わった朝食の皿をシンクへ運ぶ。
3人、制服の上からローブと帽子をかぶる。
ボクだけそれにサングラスと手袋と念のためネッカチーフを追加する。
「それではおじい様、行ってまいります」
「おじい様、行ってきます」
「行って気まーす」
2人の足なら15分、ボクに合わせて20分で、白銀色に輝く国立魔宝大学の正門に着いた。
高等部も中等部も大学の敷地の中にあるので、そのまま3人で正門、通称白門をくぐる。
中等部高等部の分岐で、月子と分かれる。
「セイネ君、私、中等部学長に用があるので、またね」
生徒会長になると朝一で学長に用ができてしまうのか、確かにたいへんだ。
「セイネ様、私も高等部学長に用があるので先に参ります。クラス分けは高等部用掲示板に張り出されています。入学式は第2総合体育館です」
「あ、先にお知らせしますが、セイネ様は1年1組でした。教室はあちらの建て屋で、1年は3階です。校舎や教室の入り口、ロッカーは学生証のIDカードで開きます。土足のまま靴を履きかえる必要はありません。荷物を置かれたら、第2体育館へはこの道を真直ぐお進み下さい、では」
まだ7時半。入学式まで1時間以上ある。
ふらふら歩いて掲示板を見て、やはり自分が1年1組であるのを確認して、あまり太陽の下に居たくないので早々に教室へ避難する。
校舎入り口のセンサーに近付くと、カバンの中のIDカードを認識してガラスドアがスライドした。
エレベータやエスカレータは付いていないみたいだ、階段を歩いて3階まで登る。
1年1組、ここだ。扉に近付くと又センサーが勝手に反応して扉が開いた。
教室には机が4個×2列8個のグループが4箇所に作られていた。
一クラス32人なのか。あ、1グループだけ机が9個ある。全部で33人だ。
本来32人のところを、急遽1人増やしたみたいだ。
急遽1人増やした・・・
急遽1人・・深く考えないでおこう。
教室の後ろにはロッカーがある。
上から下までぶち抜きで幅も広いロッカーが8個、後は狭い上に上下半分ずつに分かれている。
ロッカーには、すでにID Noと氏名が表示されていた。
広いロッカーの一番端に「東郷 聖音」となっている。ラッキー。
カバンからIDカードを出してロッカーをあけ、カバンと帽子、ローブをしまった。
迷ったけど室内でもサングラスは掛けたままにした。
机にも「東郷聖音」と明記されていたのがあったので其処に腰を下ろす。
時計を確認する。8時少し前だ。
入学式までまだ一時間。
それまでこの教室で時間を潰そう。
もうすこしすれば、他のクラスメイトも来るだろう。