第26話:ウムラウト
25話、26話、再投稿しました。
26話は少しだけ修正してあります。
「第27話:涙」は、なるべく早く投稿できるよう努力します。
某国某所で、国交の無い国同士で極秘の次官級会談が持たれていた。
「ほう、我が国に対する非道なるテロ行為に及んだテロリスト組織『ウムラウト』に対し、御国は一切の資金の供与は無いと仰るのですな」
「資金供与どころか、そのような非合法組織、我が国とは一切の関わりが御座いませんな。一方的な物言いには遺憾の意を表明する所存です」
両名とも仕立ての良さそうなスーツ姿だ。
最初に問いかけたスリムな男性は存外に若く見える。次官級とは言え、もしかしたら30にすら届いていないかもしれない。
対するもう片方は、恰幅の良い50を過ぎた男性だ。話し合いの相手とは、親子ほども年が違って見える。
「では『ラヴピース』と『ウムラウト』の関係も否定なさると・・・」
「・・・その件は本国に確認を取りませんと返答致しかねますな」
「では、一般論としてお聞きください。先日のシューティングシスターズを覚えてらっしゃるかな?」
「あぁ、アラスカとシベリアに巨大なクレーターを作った流星の事でしょう。勿論存じ上げています」
「あれと同等以上の質量を持った隕鉄が地球周回上に2個、偶然発見されているのですよ」
「 !」
「あれが某国某所に落ちたら大変な被害になるでしょうな。自然災害だから防ぎようも無いですし」
「 !」
「間違って某国の首都と副首都に落ちでもしたら、我が国も対応に困ってしまうのですよ」
「・・・」
「交渉相手となる立場の人が全滅してしまう可能性があるのでは、本当に困ってしまうのです」
「・・・」
「さて、テロリスト組織『ウムラウト』の件ですが、いつ、本国と連絡を取って頂けますかな?」
「本日中に連絡を取り、近日中に書簡を持って返答させて頂きたく」
「了解しました。近日中とは、10日以内、と、この機密議事録に明記させて頂くが宜しいか?」
「それは、10日を過ぎると我が国に大規模自然災害が発生する可能性がある、と、言う認識で正しいか?」
「自然災害です。可能性はいつでもあります」
「了解した。10日以内に回答するよう本国に連絡する」
「では、よろしくお願いします」
この会談により、トカゲの尻尾が切られる事が決定した。
テロリスト組織『ウムラウト』は、後方支援の全てを失う事となったのである。
===
「美夜・・・」
病院のベッドに裸で横たわったまま、隣で裸で肌を寄せる美夜にセイネは問いかける。
セイネの裸体は女性らしい柔らかさをやや欠いて見えるが、反して美夜の裸体は女性美の象徴の様に柔らかく暖かだ。
「テロのターゲットの範囲は、アラート3(ボク)までかな?」
「・・・いいえ、残念ながら、アラート4に加藤ショーゴさん、アラート5に片栗シュンさんを挙げない訳にはまいりません」
「それって、ボクのせい?」
「・・・半分は、その通りです」
「なら、もう半分は?」
「・・・残酷な事を私に言わせるのですね。もう半分の理由は、加藤さん、片栗さんも、セイネ様を求めているからです」
「・・・」
「我が国では両性の合意無く婚姻は成立しません。敵国から見れば、セイネさんと合意を持つ可能性のある男性は全てターゲットと成り得ます」
「そうか」
「はい」
「今のまま、ヒーロー0候補としてチームに取り込むには、能力差がありすぎてかえって危険だよね」
「はい」
「でも、戦術級対外秘を守りつつ、あの2人をガードするのは困難だよね」
「困難と言うより不可能です。私と月子が24時間ベタ付きで対応しないと質量兵器+魔宝遮断は防げません」
「では残された対応策は、2人の力を底上げするしかないね」
「以前の、私達姉妹の様にですか?」
「うん。・・・彼等に才能が眠っていれば、きっと花が開いてくれると思う」
「・・・セイネ様は、それで宜しいのですか?」
裸のままセイネに抱きついて美夜は問う。
言葉だけでなく、心のヒダまで読み取ろうと、裸の肌を押し付ける。
「いいわけ・・・無いじゃないか・・・」
ぽろぽろとセイネの両の目から涙がこぼれ出た。
「もっと時間をかけて、互いの気持ちも確かめ合ってからにしたかったよ・・・でも、テロにあって後悔するよりはマシだもの」
泣きながらセイネが続ける。
「ボクはもう、失う苦しみを味わいたくは無いんだよ・・・」
「・・・はい、セイネ様」
「ねぇ、美夜。もう2度とは言わないからきちんと覚えておいてね。あの日、美夜の唇と心をもらえた日、ボクは世界の半分を手に入れた、そう考えてしまう位嬉しかったんだよ。本当だよ」
美夜も少し泣きながら問い返す。
「まぁ。では、のこりの世界の半分はどうなったのでしょう?」
「決まってるさ、カノンと月子に残しておいてあげたのさ」
「そうですか、そうですよね・・・」
「美夜」
「はい」
「シュンとショーゴ君の能力を引き上げる相手、今のボクでは力不足なんだ。美夜と月子に頼むことは出来るかな」
「はい、MPC値的に勿論そのつもりでした」
「ごめんね」
美夜は謝罪の言葉より別の物をセイネに求めた。
セイネはそれを受け入れて、美夜と唇を重ねるのだった。
===
その日、『ウムラウト』リーダー、イー・アルサンは暗号衛星式無線電話を掛け捲っていた。
「この電話は、電源が入っていないか電波の届かない所に居ます・・・」
えーい、くそっ!!、エベレストの山頂でも繋がるという衛星電話が圏外という事は、本当に電源が入っていないか、電波遮蔽室に居るか、どちらかだ。
つまり、電話相手である『ラヴピース』の構成員は誰も電話を受ける気が無いという事だ。
何故だ!?
先日の襲撃は成果を挙げたではないか!?
そりゃ、敵性の聖魔宝により人的損害を一切与えることは出来なかったが、それでも魔宝師相手に質量兵器+魔宝減衰装置の組み合わせが効果絶大なる事を証明して見せたはず!!
人的損害を19名出したが、当初から計画に織り込み済みであった。
黒の閃光の制圧時間も観測できたので、この次の襲撃、次世代レジェンド襲撃時には、人的被害も出さずに完遂してみせる目処も立っていた。
それなのに・・・何故・・・??
「上長イー・アルサン」
腹心の部下、イー・スーチーが声をかけた。
「先日、魔大病院でのあの大魔宝の発動、聖魔宝でほぼ間違いないと断定されました」
「なんだと?、レジェンド級の有事活動は重大な条約違反のはず。本国を通じて速やかに非難声明を・・・」
「それがその時間、3名のレジェンドは全員が魔大に居たことが確認されております」
「何?!、ではその聖の反応は何者だ??」
「おそらくは、先日の襲撃を妨害した聖の使い手ではないかと予想されます」
「なる程。聖魔宝で周囲は救えたが自分の体までは守りきれず、負傷して入院したと。有りえる話だな」
「はい。事故当日、氏名の公表はありませんが、魔大付属生が1名、特別室に入院しています。更に観測の結果、遮蔽の使い手が護衛に付いている可能性が高いです」
「遮蔽だと!?、ターゲット1かターゲット2が護衛に付いたと言うのか?!、何とか確認を取れないか?」
「闇魔宝の遮蔽は我が国では解析できません。ですが解析できない遮蔽を使ったという事は、逆説的に相手が闇魔宝を使ったものと推測できます」
「ふーん、では、入院患者はターゲット3、護衛にターゲット1又はターゲット2が付いたと判断して良さそうだな」
「はい。そして」
「そして?」
「当該入院患者は4日後の14:00に退院予定、同時刻の病院正門前に専用車両で迎えに行くようです」
「待て、情報漏えいに対する監視が緩すぎないか?、罠の可能性を感じるが」
「いえ、それはありません」
「なぜだ?」
「当該患者の身内が、病院に勤務する我が国エージェントに対して直接退院時の車の手配を依頼してきたからです」
「なる程」
リーダー、イー・アルサンは考えた。
そうは言っても、やはり罠の可能性は否定できない。だが、ココで成果を出さないとどの道、見殺しにされるのも確かだ。
ならば、罠で有る事を前提にして、ソレを上回る規模の飽和攻撃をかけるしかないか。
確認した限り、レジェンド以外の聖の使い手は1名。質量兵器1台を止めて自分は入院した。なら質量兵器2台を止める事は難しいと判断できる。
しかし、敵も当然そこまでは予想してくるはずだ。質量兵器2台に対し、聖1名、闇1名の2人体制を取っているのもその為だろう。
なら、更にその上を行く攻撃手段が必要だ。
質量兵器をもう1台増強するか?、いや、その為には質量兵器操作者1名、魔宝制御者1名の2名が追加で必要になる。後方支援の得られない今、人員補給は難しいだろう。
かと言って、敵性魔宝減衰チーム3名を削減するわけにはいかない。敵魔宝の発動を抑える減衰チームの働きこそが、この作戦成功の鍵となるからだ。
こうなると、いくら無能者だったからといって光学遮蔽に12人のメンバーを使い捨てにした第1次攻撃の要員配置が無策すぎた。
彼等12人の命は、『黒の閃光』が健在だったと証明するためだけに消費されたようなものだ。光学遮蔽装置が少しは役に立つかと考えたが、『黒の閃光』には何の障壁ともなり得なかった様だ。
過ぎた事は今は考えるまい。要員増強無しで、いかに攻撃力を増強するか?
よし!
リーダー、イー・アルサンは声を上げた。
「イー・スーチー」
「はい」
「手配していたRx77とRx78の2台はキャンセルしろ。代わりに3日以内にRx100式を2台入手せよ。積載物は液化天然ガス、又は、ガソリン等、液化化石燃料を満載の物だ」
「は、はいっ」
「決行は4日後に前倒しになる。車両奪取の手段は合法非合法を問わない」
「はいっ」
こうしてリーダー、イー・アルサンの判断で『ウムラウト』日本支部による第2次質量兵器攻撃は、病院襲撃電撃作戦として決定された。
そして作戦実施のカウントダウンが刻まれ始めたのである。




