第23話:最重要課題
3人は、場所をリビング|(オペレーションC2ルーム※)に移した。
※:C2とはコマンド・コントロール(指揮・制御)の略称
コードネーム:ヒーロー2がお茶を配る。全員おいしそうに飲む。
そして、おもむろにコードネーム:ヒーロー1が口を開いた。
「最重要課題の検討に入る。最初に概要を説明するので、その間の質問は受け付けない、よろしいか?」
聞き手の2人は黙ってうなずく。
「では説明する。コレを見なさい」
リビングの壁全体がスクリーンになり、大型モーターサイクルが歩道に乗り上げた状況を上空から広範囲に撮影した写真が映し出された。
「これは監視衛星M78からの衛星映像だ。雲がなかったため、全体像が良く撮影されている。事故車両、型式Rx78MarkIIの走行軌跡線を重ねるので確認しなさい」
衛星写真にCGで、事故車両がどの様なコースを走ったのかの軌跡線が重ねて表示される。
「我が国内だから車両は当然左側通行だ。片側2車線の追い越し車線側を走行していた当該車両は、現場手前300mで歩道側の走行車線にレーンチェンジしている。これは交通局のEVAシステムの記録とも合致している」
ヒーロー1が続ける。
「現場手前150mで、当該車両の走行に乱れが見える。蛇行運転をしている。蛇行運転の主な原因は眠気・よそ見等のヒューマンエラーだが普通はセーフティ・ドライブ・システムが補正してくれる。つまり、この段階でシステムの制御を解除した可能性が高い」
事故現場の写真の、現場手前50mの位置に赤いマーカーが表示される。
「ここだ、事故現場手前50m。当該車両はここで1回右に操舵し、その後左に操舵しなおして一直線に左側歩道へ乗り上げていく。その50m間は蛇行走行は見られない。セーフティ・ドライブ・システムによる緊急停止も起こらない。まるで目標物を見つけ、最短距離を走行したかの様に見える」
次に写真のガードレール部分にマーカーが打たれる。
「これは新型ガードレールで、衝突時はガードレール本体と基礎工事部が塑性変形することにより、通常の物よりはるかに大きい荷重に耐えられるよう設計されていた。では、コレを見れくれ」
映像が2枚の比較写真に切り替わる。1枚目は事故現場のガードレールの写真だ。基礎部に大きな異常は見えず、地上から出ている部分だけが飴細工の様に大きく変形している。2枚目は「衝突実験写真(国土交通局)」とされているガードレールの破壊写真である。地中の基礎部分から大きく変形しているが、ガードレールの形状はそれなりに保たれている。
「この比較映像から、事故現場のガードレールは車両衝突以外の原因で大変形を起こしたと考えるのが妥当だ」
スクリーンの映像は事故現場の衛星映像に切り替わる。今度は歩道にズームアップしていく。
歩道の映像は、デジタル処理で歩く人の姿は消去されているが、地面に残った血痕は生々しく惨劇の様子を語っている。
その、歩道の上に真直ぐ引かれた車両の軌跡線の上に、黄色い色の×マークがいくつも付けられていく。黄色は全部で35個、そして奇跡線の一番端に赤い×マークが1つ。
「黄色の×が被害者が事故にあった場所だ。車が減速している様子は見られない。承知していると思うが、ヒーロー4と思われる聖魔宝の蘇生魔宝で全員無事だ。そして赤い×がヒーロー4が事故に有ったと”思われる”場所だ。聖魔宝の”加護”で、衛星映像からも守られてしまっていて撮影されていない」
映像が再び切り替わる。今度は事故車両の衝突後のスチールだ。まるで巨大な岩に車の左半分がオフセット衝突したように、キャビネットの左半分が完全に潰れて無くなっている。
「事故車両、型式Rx78MarkIIの事故写真を見ると、どうやら左フロントタイヤ辺りでヒーロー4と接触したらしい」
最後に又、映像が切り替わる。
最初に見た、事故現場の衛星映像であるが、今度はどんどんズームバックしていく。
そして、事故現場を中心に半径500mの範囲で、ビルの屋上に青の▲マークが6個、1Kmの範囲でビルの屋上に赤の▲マークが12個マーキングされた。
「問題なのはこの▲のマーキングだ。実はこれは衛星映像を解析して求めた物ではない。事故直後、『黒の閃光』が直接、敵性勢力の現場を制圧した場所だ。▲マーク各拠点に要員は1名ずつ、閃光の到達を待たず、現場の装置を完全破壊し全員が自決した。蘇生魔宝をかけたが、それさえ拒絶する徹底ぶりだった」
ヒーロー1がココで一口お茶をすすった。
「では、質問を許可する」
ヒーロー2が発言する。
「この”事故”は、我が国の国民を狙ったものですか、それとも魔大付属生を狙ったものですか、・・・それともヒーロー4の暗殺を試みたものなのでしょうか・・・」
「事件後10時間しかたっていないのでまだ不明だが、国安(国家安全保障局)は魔大付属生を無差別に狙った可能性が一番高いと考えている」
「その根拠をお尋ねして宜しいですか?」
「まず、我が国の国民を無差別に狙ったとした場合、現場が魔大に近すぎる。あの時間の魔大には、現行レジェンドが3名揃っている。やるなら、場所か時間をずらしたほうが効率がいい。実際、敵性勢力の前線拠点18箇所は直ぐに黒の閃光に制圧されている」
「では、ヒーロー4を狙ったのではないと言う根拠は?」
「ヒーロー4の生活線をこの1週間観察しただけで、英雄の森と魔大を往復するほかに、駅前のファーストフード、B都市のランジェリーショップ、C都市のブティック等、ヒーロー3に連れられ思ったより広範囲に活動をしている事が確認できる。あの時間に魔大の近くでヒーロー4をわざわざ狙うメリットが無い」
「では、魔大付属生を無差別に狙ったと考えられる根拠は?」
「魔大付属生が集団で学外に居る時間・場所は、全学年が半日授業で一斉に帰宅するあの日のあの時間、駅までの帰宅路で歩道が最も整備されているあの道だけだ。それが根拠である」
「で、では、あれはセイネ様を狙ってのテロではないと仰るのですね?」
ヒーロー1の口調が砕けた。
「はは、きちんとコードネームで呼んでくれたまえ。今時点では、ヒーロー4はクラス8位の無名学生だからね。”テロ”の標的になるなら、むしろヒーロー2、ヒーロー3、君達だろうね」
ヒーロー3が発言する。
「やはり、これは事故や事件ではなくテロだと判断なされますか?」
「非合法組織が国とは関係なく起こしたテロを装うだろうね。狙撃など軍事行動と判断されかねない襲撃の場合、それが休戦停止・開戦の引き金となる可能性が高い。そこまでは敵国も今は望んでないだろうしね」
ヒーロー2がヒーロー1の意見を補足する。
「はい、ヒーロー1が東南戦争当時に我が国上空の敵国静止衛星2個、監視衛星3個、気象衛星1個を、月の裏側に捨ててしまって以来、敵国の我が国に対する監視力は弱体化してます。観察の結果、なぜか人工衛星の打ち上げが全て失敗しているので、現状では敵国も開戦を望んでいないと思います」
「うん、あれは地味に効果あったね。おかげでミサイルの精密射撃は撃たれなくなったし、近接攻撃にと艦隊沢山出してくれて黒の閃光が全部沈めちゃってくれたし、白の悪魔のレーダーレンジ外からの砲撃なんか要塞が沈むまで全く感知出来なかったみたいだし」
ヒーロー3が発言する。
「ところで、敵国は天気予報などはどうしているのでしょう?」
「あぁ、彼ら、気象衛星にまでスパイカメラ積んでたからね、仕方なかったんだ。今は人道的理由で、我が国の気象衛星のデータをおすそ分けしているよ」
ヒーロー3が発言する。
「テロ、だとすると、敵勢力の規模と目的は?」
「既にパイロット1名、拠点要員18名が自決している。我が国内での実行部隊は半減したと考えて、敵性勢力の残存規模はおそらく18名以下だね」
「根拠をお尋ねして宜しいですか?」
「だって、6箇所+12箇所にあやしい装置を持ち込んでテロ実行を支援して、終わったら装置も破壊、人間も自決したんだよ。1拠点に2名配置できれば、おそらくは高価な装置を破壊せず回収したはずでしょう?」
「爆破された装置がダミーの可能性はありませんか?、ダミーを破壊し、本物は回収したとか」
「それは無いね。私が”聖の眼”で実物を見てきたから」
「どのような装置でしたか?」
「12拠点に有ったのは、おそらく闇魔宝の”遮蔽”と似たような効果を発生する装置だね。先の大戦で魔宝でコテンパンにやられてから、敵国も魔宝を色々研究したみたいだ。魔宝師が上手く育ってないから、その分を機械で補おうとしてる」
「機械なら量産が効くので、魔宝師育成より効率がいいかも知れませんね」
「うん、我が国もそう言う方向にシフトするかもしれない。まぁ、費用対効果が、今の所は人材育成の方がはるかに勝っているからね」
「人に任せれば3人の人件費ですが、機械に任せたら300兆円ですからね、我が国の国防は」
ヒーロー1がおもむろに言う。
「・・・それと、残りの6拠点のうち3拠点は広域魔宝増幅装置、3拠点が広域魔宝減衰装置だと思う。ついに彼ら、実用実験段階にまで仕上げてきたよ」
ヒーロー2が尋ねる。
「それは、個人の魔宝を増幅したり減衰したりする耳飾りの効果を、空間に発生させる装置という認識で宜しいですか?」
「おそらくそれで正解だと思う。減衰装置が原因で火・水・生・風・土の一般5属性の魔宝は事故現場では発動出来なかったのではないかな。ヒーロー4が土魔宝で自分を守れなかったのもそのせいだろう」
「・・・それは国としてかなり深刻な事態なのではありませんか?」
「魔宝発動のジャミングだけならそうでもないよ。実際敵国に甚大な被害を与えたのは”聖の時間魔宝”と”闇の空間魔宝”だからね。敵国には聖も闇も使い手がいないので、研究しようが無い。だから聖と闇はジャミングできない」
「敵国には聖も闇も使い手がいない、のですか?」
「うん、実際、ヒーロー4の発動した”聖の蘇生魔宝”は、ジャミングできていないでしょ。あと、ESPも理解できていないみたいだね。モーターサイクルを受け止めたサイコ・キネシス、ヒーロー4の破損した身体を支えたサイコ・キネシス、応援要請をしたテレ・パシー、緊急退避したテレ・ポーテーション。同時発動された最低4つのESPのどれもジャミングできていない」
「では、脅威度は当初想定したほどは高くない、と?」
ヒーロー1が断言する。
「いや、脅威度は当初想定より遥かに高い。国防と言う観点だけから見ると脅威度は低いが、テロとしては最強最悪の部類に属すると言える」
「どう言う事でしょう」
「ヒーロー4は『魔宝師のローブ』を着用していた。単純な魔宝攻撃、物理攻撃なら問題ないはずだった。でも、敵は質量攻撃を仕掛けてきた。魔宝遮断+質量攻撃は非常に危険だ」
ここで簡単に解説しておく。耐魔・耐物理効果のある『魔宝師のローブ』は、21世紀初頭の概念に置き換えると、防弾チョッキのようなものである。
拳銃の弾が防弾チョッキを貫けないように、魔宝も物理攻撃もローブを貫通できない。
だが、防弾チョッキを着ていても、車にはねられたら助からないことは想像できるであろう。
運動エネルギーはE=mv^2である。つまりエネルギー=質量×速度×速度で求まる。
小型拳銃の発射する10gの弾丸が秒速250mで進むエネルギーは概算で、
運動エネルギーE(J)
=0.01Kg×(250m/sec)^2
=0.01×250^2(Kgf・m2/sec2)
=625.0(Kgf・m2/sec2)となる。
ここで重力加速度が9.8m/sec2だから、
E(J)=625(Kgf・m2/sec2)÷9.8(m/sec2)
=63.8(Kgf・m)
=63.8(J)※
※1J=1Kgf・m
重量2tの普通車が時速60Kmで進む時のエネルギーは概算で、
重量2000Kgf、速度60Km/Hr=16.7m/sec
運動エネルギーE(J)
=2000×16.7^2÷9.8
=6122.0(Kgf・m)
=6122.0(J)
弾丸の持つエネルギー: 63.8(J)
普通車のエネルギー :6122.0(J)
秒速200mで飛ぶ拳銃の弾丸の実に100倍のエネルギーを、時速60Kmで走る普通車は持っているのである。
これが質量兵器の恐ろしさなのだ。重すぎる攻撃は個人の通常装備では防げないのである。
ヒーロー2が確認する。
「つまり、通常の物理攻撃は魔宝布の衣類で防げるが質量攻撃は防げない。そして、質量攻撃を防ごうと土属性の魔宝を発動させようとするとジャミングされるので、やはり防げない、と・・・」
「うん、その通りだね」
「テロの目標が魔大付属生を無差別に狙った物だとすると、一般の生徒には防ぐ手段はないと言う事ですか?」
「うん、その通りだね」
「テロの目的は何なのでしょう」
「国安の調査待ちになるけど、おそらく私達3人のレジェンドが去った後の下地作りだと思うよ。近代兵器と巨大魔宝のケンカでは魔宝には敵わない事が分かった。でも魔宝にも弱点がある。量産の効く機械兵器と違って、魔宝使いには寿命がある。強大な魔宝師もいつかは使えなくなるからね。だから魔宝師の卵を潰しておけば、その分将来の脅威が減る」
「それで広域減衰機という新兵器のテストも兼ね、魔宝師の卵の無差別殺戮と言う自爆テロにでたと」
「たぶん、そうだね」
3人は顔を見合わせ、そしてゆっくりと茶をすすった。
現状の平和な毎日を過ごすには、あまりに脅威が大きすぎる。
「”英雄”か、”白の悪魔”か、”黒の閃光”の御力で何とかならないのですか?」
「私達、現行のレジェンドはほとんど兵器と同じ扱いだからねぇ。私達が先手をとって動くのと、敵国が我が国に銃弾を撃ち込むのと、国際社会的には同じ事とみなされちゃうんだ。君達、開戦したいの?」
「・・・なら、どうすれば」
「だ・か・ら、私達は現状では動けない。なら、全力全開できる魔宝石を持った人達に反撃してもらわないとね」
そう言って、ヒーロー1は少しずるい大人の笑みをこぼした。
「私達は先手を取っては動けないんだ。でも降り掛かる火の粉を払うのは別だからね。上手い事、私達の方に火の粉を誘導してね。具体的には魔宝大学のグラウンドとかが良いね」




