第22話:オペレーション輿入れ
・・・セイネ様が、私よりも、会ったばかりの、男の子を、選んだ・・・
外来患者が途絶える午後5時過ぎになると、病院のロビーは人静かになる。そのロビーで、美夜は1人打ちひしがれていた。
月子と、一緒に来たセイネの男友達には、病院の手続きがまだ残っているからと先に帰って貰った。
1人になる時間が欲しかったのだ。
頭では分かっていたはずであった。
セイネ様は女性になった。だから、セイネ様は男性に恋をする。
私はセイネ様の恋した男性に、セイネ様と一緒に愛してもらう。
本当に、頭では分かっていたはずであった。でも心の奥底にある、自分の本心とは向き合ってはいなかったのだ。
セイネ様は女性になったのだから男性と結婚する、でも一番愛してくれているのは私。
私もセイネ様の旦那様に誠心誠意お尽くしする、でも一番愛しているのはセイネ様。
それはファーストキスを許婚としただけの、初心な女の子が思い描いた幸せな未来予想図だった。
そして、それは身勝手で独りよがりな未来予想図であったのだ。
何故なら、セイネにとっての1番が自分ではない事を、セイネが自身の命を懸けて証明して見せたのだから。
おかしい。
何かが、おかしい。
そもそも今回の”事故”にも色々おかしな点が多い。
何故、大型モーターサイクルはセーフティ・ドライブ・システムの管理から外れたのか?
何故、大型モーターサイクルのパイロッドはセーフティ・シートベルトを未装着の状態で操縦できたのか?
何故、ガードレールが耐荷重以下で変形したのか?
何故、被害者が魔大付属の生徒だったのか?
何故、セイネ様は、自身の身を守ることを一切せず、聖魔宝で他人を救い続けたのか?
何故、セイネ様は強力な魔宝を持つ私ではなく、逢ったばかりの男の子に助けを求めたのか?
何故、??
何故、!?
思考がループを始める。
長い長い熟考の末、美夜はようやく自分の心を認めた。
私はあの男の子達に嫉妬しているのだ。
私は前に進めていなかった、セイネ様は前に進もうとしている。
自分の気持ちに付いて、納得は出来ないけれど整理はできた。
さぁ、あの森の中の家に帰ろう。この”事故”の後始末が残っているのだから。
===
英雄の森の小さな自宅(セーフハウス)のダイニング(ブリーフィングルーム)で、神聖と美夜、月子は夕食|(打ち合わせ)をしていた。
フォークで上品に肉を口に運びながら、神聖が話し始める。
「さて、ココから先は”チーム英雄”の戦術級対外秘だよ」
「はい、おじい様」
「はい、おじい様」
つまり、秘匿範囲は、神聖、美夜、月子、そしてセイネの4名である。
「あらあら、公私の切り替えはきちんと頼むよ。打ち合わせ中は私はコードネーム:ヒーロー1だからね。分かったね、ヒーロー2、ヒーロー3」
「はい、ヒーロー1」
「申し訳御座いません、ヒーロー1」
「まずはヒーロー4の様態に付いてだ。幸いにもヒーロー2、ヒーロー3の対処が良かったため、後遺症等の心配は無さそうだ。肉体的には、蘇生魔宝でほぼ完治に近い状態にある」
「はい」「良かったです」
ヒーロー2とヒーロー3が答える。
「ただ、元来身体が丈夫ではなかったので、退院するのに1週間は掛かると推測している」
「・・・」
「さて、次の案件、『オペレーション輿入れ』の進捗に付いてだ。2人は”ヒーロー0候補”の2名に会ったのだよね。各候補者の印象と、彼らに対するヒーロー4の反応をざっとで良いので聞かせて欲しい」
「はい、コードネーム:栗毛は、”ロストナンバー”と全く同じ左手の魔宝の波動を持っていました。これはヒーロー3、ヒーロー4が接触確認したので間違いはないと思います」
「うむ、ヒーロー4は女性として、コードネーム:栗毛を受け入れられそうかな?」
「ヒーロー4が生死の境に、コードネーム:栗毛に心を飛ばしていますので、惹かれているのは確かだと思います」
「コードネーム:栗毛の方はヒーロー4をどう感じている様子だった?」
「おそらく一目惚れだと思われます」
「そうか、それは良いね。コードネーム:栗毛の魔宝の才能はどうかな?」
「はい、彼自身の持つ魔宝は2属性、ロストナンバーから譲り受けたとしか思えない魔宝が3属性。問題はこの2属性と3属性を同時発動できていないので、5属性を扱えるにも関わらず未だに”天才の門”が開いておりません」
「まぁ、レジェンドの父となる資格は有りそうだと考えられるね」
「はい」「そう思われます」
ヒーロー2とヒーロー3が答える。
「では、コードネーム:気配りの方はどうなか?」
「ヒーロー4の心に触れて確かめましたが、コードネーム:気配りと皮膚的に接触した時、ヒーロー4はそれをとても暖かいと感じています」
「それは確かかな?」
「はい、かつての婚約者の心です。まだその一部が私と溶け合ったままですので、ヒーロー4の心を間違えようが有りません」
「うん、では、ヒーロー4は女性として、コードネーム:気配りを受け入れられそうかな?」
「ヒーロー4が生死の境に、コードネーム:気配りの元へ身体を飛ばしていますので、惹かれているのは確かだと思います」
「コードネーム:気配りの方はヒーロー4をどう感じている様子だった?」
「おそらく一目惚れかと思われます」
「そうか、それは良いね。コードネーム:気配りの魔宝の才能はどうかな?」
「現在3属性、プロマイザーです。開眼しているのは火・風・生。苦手属性を持たない典型的なオールラウンダーですので、”天才の門”にたどり着ける可能性は高いと判断します」
ベクトル制御の魔宝、水・風・土は、その制御する分子の相が、気相・液相・固相と違うだけであり、制御魔宝の質は同質なのだ。ゆえに、気体分子ベクトル制御を司る風属性の魔宝使いは、同系統の液体分子ベクトル制御の水属性、固体分子ベクトル制御の土属性を習得するのが比較的容易とされている。
火属性は分子振動制御、生属性は生体細胞活動制御と、風・水・土のベクトル制御系魔宝とは大きく系統が違い、ベクトル制御系だけを得意とする魔宝師には習得が難しいのだ。
「まぁ、レジェンドの父となる資格は有りそうだと考えられるね」
「はい」「そう思われます」
ヒーロー2とヒーロー3が答える。
「ヒーロー4としては、どちらにウエイトを置いているのだろう?」
「おそらくですが・・・」
ヒーロー2が言葉を選びながら続ける。
「ヒーロー4は女性化してから初めて男性に好意を向けられ、ご自分でどう受け止めれば良いか戸惑っているのではないでしょうか?」
「・・・なら、コードネーム:栗毛とコードネーム:気配りに”セーフハウスへの招待状”を出すのはまだ早いかな?」
「はい、それはすなわちベッドルームやバスルームへの招待状も兼ねるので、しばらくは様子を見たほうが良いかと」
「分かりました。では、側室となる君たちはどちらが良いと思うかな?」
「コードネーム:栗毛です」
「コードネーム:気配りです」
めずらしく、2人の意見が分かれた。
「栗毛はロストナンバーの魔宝を受け継いでいます。魔宝の質的に、彼こそが後宮の主に相応しいと思われます」
「気配りは、側室に子ができ用済みとなった後でも、平等に全員を愛する気配りができると思います。彼こそが後宮の主に相応しいと思われます」
「おや、意見が割れたよ、めずらしいね。まぁ、分かりました。オペレーション輿入れに付いての聞き取りは今日の所はココまでにします」
「はい」
「はい」
「では、場所をリビング|(オペレーションC2ルーム)に移し、最重要課題の対策を検討しましょう」
ちなみにC2とはコマンド・コントロール(指揮・制御)の略称である。




