第21話:救護
”走馬灯のように”と、言う表現を聞いたことがある。
何でも死を目前にしたその時に、脳の活性が一気に上がり、ソレまでの人生を振り返り見るのだそうだ。
ボクの場合は違った。まるで周りの全てがスローモーションの様に見えた。
それも違うな。
大型4輪モーターサイクルが迫り来る、その猛スピードは感じていた。でも、ボクの脳もすごい速さで働いてたみたいで、ほんのわずかな時間に起きた全ての事を正確に把握していたんだ。
数tの加重に耐えられるはずのガードレールが、おそらく土系魔宝だろう、モーターサイクルの衝突の直前にグニャリと変形し、衝撃を受け止める役目を放棄していた。
モーターサイクルのパイロットは、意識を失っているのか操作管から腕が離れているように見えた。シートベルトも締めていない。
歩道に乗り上げたモーターサイクルのフロントタイヤは大重量を支えるためか、ダブルタイヤになっている。そのダブルタイヤは、名も知らぬボクの学友だった人達を次々と血とミンチ肉に変えながらボクに迫ってくる。
そしてそのわずか0.数秒後、フロントタイヤは終にボクの体に到達した。
ボクが人生最後に見た景色は、倒れこむ自分の胸元で踊る、聖なるダイヤの輝きであった。
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右手に懐かしい波動、左手に暖かい波動を覚え、ボクは目を覚ました。
Mシルクスクリーンで遮光されているのであろう室内の、間接照明の暖かい光が天井を薄橙色に染めている。最初に目に入ったのはその薄橙色の天井だ。
「セイネ君!」
あぁ、月子だ。月子の声がする。
声の方を見ようとするが、首と肩の筋肉が強張って首を回せない。視線だけで、声の方を見る。
「セイネ、気が付いたのか」
左手を握ってくれていた暖かい手が、少しだけ力を強めて握りなおしてくれる。
・・シュン・・
声を出そうとしたけれど、声が出ない。
「東郷センパイ」
右手を握ってくれていた懐かしい手が、少しだけ力を強めて握りなおしてくれる。
・・ショーゴ君・・
やはり声が出ない。
ボク、どうなっちゃったんだろう。目蓋と眼球は動かせる。うん、自律呼吸もしている。手を握ってもらっている感触はある。でも、それ以外の体の部位はどこも動かせる気がしない。
あ、そうだ。ボクあの大型4輪モーターサイクルに轢かれたんだ。運よく助かって、それで病院へ運ばれたのか?
「セイネさん」
美夜の声がする。
「脳波形を見る限り、麻酔の影響はありますが意識は覚醒レベルにあるようです。私の言葉が理解できたら、瞬きを2回して下さい」
パチパチ、2回目を閉じて開く。
「何が起こったのか、説明を聞きたいですか?」
パチパチ、2回目を閉じて開く。
「分かりました。私達もセイネさんのバイタルをモニターしながら話しますが、セイネさんの意識や体力がきつくなったら目を閉じて下さい。話を終わらせます」
パチパチ。
「セイネさんと別れた後、私と月子は生徒会の仕事をしていました。そこへ私と月子、2人のIDに同時に連絡が入ったのです」
月子が話す。
「私のIDには加藤ショーゴ君から。セイネ君が高等部実技錬で大怪我している、そうセイネ君の声が届いたので確認して欲しい、って」
美夜が話す。
「私には片栗シュンさんから。実技錬で魔宝の練習をしていたら、空間から大怪我をしたセイネさんが現れた、助けて欲しい、と」
美夜がボクの顔を覗き込む。大丈夫か?の問いに、パチパチで答える。
「私たちが駆けつけ、セイネさんの状態を確認しました。即座に月子が生魔宝でセイネさんを治癒し、私が闇の空間魔宝でココ、魔大医学部付属病院に運び、病室を押さえたのです。この病室は当面、セイネさんの個室としました。あぁ、大丈夫です。私と月子の権限は付属部学長相当、つまり大学部なら教授相当ですから、私達の決定を覆せるのは、大学部学長か、局長クラス以上です」
つまり、大学病院には院長以外に逆らえる人は居ないと。すごいな、この姉妹。
パチパチ。
「重篤な話になります。セイネさんの様態に付いて説明してよろしいですか?」
パチパチ。
「発見したとき、セイネさんはまるで重機に潰されたかのように、下半身の大半を失っていました」
マジですか??
パチパチ。
「ご安心下さい。私と月子の生の治癒魔宝では限界があったので、おじい様の聖の蘇生魔宝をお願いしました」
ほっ、良かった。
パチパチ。
「ですので、セイネさんの体の器官に欠損は無いと思います」
さすがおじい様。
パチパチ。
「セイネさんは何処かで事故に遭われ、その救助先として、肉体は片栗シュンさんの元へ、心は加藤ショーゴさんの元へ向かわれたのだと思います。街中ですので指環の装備無しに、”闇の空間魔宝”を魔宝力まかせに無理やり発動させたか、または、”別の空間魔宝”を使ったのでしょう」
”別の空間魔宝”とはつまり、世間には内緒にしているESPの事だな。
近代魔宝全盛のこの時代に、ESPとか呪いとか、そう言うオカルティックなものは忌避される傾向にあるので、対外的には内緒にしてある。多分、諸外国にもばれては居ないと思う。
精霊の力を借りる属性魔宝と違い、ESPは魔宝石の触媒や、魔宝陣の発動を必要としない。
そのかわり、精霊の力でなく自分の体力を削って時間空間に働きかけるので、非常に体力を使う。
あぁ、たしかあの空間は、魔宝の減衰領域だったと思う。
そこから魔宝石も無しに生きて跳んだと言う事は、テレ・キネシスによる破損した肉体の固定化、テレ・パシーによるショーゴ君へのSOS、テレ・ポーテーションによるシュンの所への避難と、最低3つのESPを同時発動させたのか。動けなくなるわけだ。
「セイネさんは救護先に私達姉妹やおじい様ではなく、片栗シュンさんと加藤ショーゴさんを選ばれたのですね」
身内以外面会謝絶であろうこの病室に、シュンとショーゴ君が居てくれた理由も良く分かった。
恨みがましい美夜のセリフに、ボクは疲れたのサインで目を閉じる。
バイタルラインは安定しているだろうけど、実際首を横に向けることさえ出来ないほど疲れているのも本当だ。
今、気が付いたが、口には酸素マスクみたいなのを付けられている。
きっと腕には何本も点滴が刺さっているのだろう。
そして、おじい様の魔宝で復元してもらった下半身には、考えたくないけど導尿管とかオシメとか、そう言う事態になっているに違いない。
目を閉じた顔が薄っすら赤らんできたのがわかった。
「お眠りになる前に、セイネさん」
美夜が声をかけた。
「セイネさんが怪我をされたのと同じ頃、幹線道で大型モーターサイクルが歩道に突っ込むという”事故”がおきました。パイロット1名は死亡、モーターサイクルにはねられた34名は、まるで聖魔宝で守られたかのように全員無事でした」
それだけ言い残すと、美夜、月子、シュン、ショーゴ君が部屋を出て行く気配があった。
ボクは安心して、眠りに落ちていった。




