第20話:襲撃
「まさか、”噂の魔女”の末裔とチームメイトになれるなんて思わなかっただわ、だわ」
魔宝大学駅駅前店のファーストフードショップでウランと2人でポテトを摘みながら、ニーノが言った。
さすがの彼女も、この場で”闇魔女”の名前を出さない程度の配慮は出来るようだ。
セイネと桐生院姉妹からの説明を受けた後、顔色の優れないセイネを家まで送ろうかと3人が申し出たところ、セイネが強く拒絶した。
きっと亡くなった婚約者を思い出し、1人でいたい気分なのだろうと想像し、シュン、ウラン、ニーノは生徒会長室を後にした。
中学からの腐れ縁のこの3名で帰ろうかとした時に、
「ごめん、急用を思い出した」
と、シュンが1人、生徒会長室のある実技錬(高等部実技専門)へ駆け戻ってしまったのだ。
結局残された女子2名で、「駅前でお茶でも」とファーストフードに入った。
そこで昼食を食べた直後だと言うのに、お茶だけではなくポテトまで「育ち盛りだから」と自分に言い訳して買ってしまい、現在に至るわけである。
「入学試験、家庭の都合で会場備え付けのサードクラスの石で受験した人が居るって先生言ってたけど、あれってセイネだよね?」
ウランが言う。
「どうしてそう思うの?なの?」
「だって、あの桐生院姉妹、テンサウザンの従姉妹なんだよ。普通に試験して私より祖点が低いって、悔しいけれど信じられない」
「FプレーンにDLした祖点データ有ったでしょ、でしょ。ならそれでシミュレーションしてみれば?」
なる程と思い、ウランは制服のジャケットの内ポケットにしまった、手帳程度に小さく折りたたんだFプレーンを取り出してテーブルに広げた。
祖点一覧を表示させる。
入試順 氏名 祖点 特記事項
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01)鈴木_エイミ 64 GrA-Aリーダー (P)
02)大木_タツヤ 48 (P)
03)須加アキヒコ 36 (P)
04)三ツ矢ユウイチ27 (P)
05)片栗_シュン 24 GrA-Bリーダー (P)
06)国学徒ニーノ 18 (P)
07)南山_ウラン 12 (P)
08)東郷_セイネ 09 ジーニアスゲート
そして、セイネの祖点詳細を確認する。
入試順 氏名 聖闇 火水生風土:x増幅:属性数:MPC値
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08)東郷_セイネ -- 31311:x15:★5 :135 ジーニアスゲート
09)戸隠_ヨシノ -- 2-2-2:x12:☆3 : 96 プロマイザー
10)津田ムラマサ -- 4--3-:x08: 2 : 96
11)平野_ミライ -- 52---:x08: 2 : 80
12)田中マルクス -- 4--2-:x08: 2 : 64
「ほら、やっぱり」
ウランが言った。
「何がやっぱりなの?なの?」
「セカンドクラスだと個別属性の最大値は一般に5だけど、サードクラスだと3なのよ。多分セイネは得意魔宝の火と生では、サードクラスの上限まで出せているのよ」
「なら、セカンドクラスをもし使ったとしたら?」
「祖点で確認するわね。サードクラスで3x1x3x1x1=09なら、セカンドクラスだと多分5x2x5x2x2=200になるわね」
ウランは成績一覧のデータに追記した。
入試順 氏名 祖点 特記事項
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00)東郷_セイネ200 セカンドクラス使用時(推測)
01)鈴木_エイミ 64 GrA-Aリーダー (P)
02)大木_タツヤ 48 (P)
03)須加アキヒコ 36 (P)
04)三ツ矢ユウイチ27 (P)
05)片栗_シュン 24 GrA-Bリーダー (P)
06)国学徒ニーノ 18 (P)
07)南山_ウラン 12 (P)
08)東郷_セイネ 09 ジーニアスゲート
ニーノが声を上げた。
「うわっ!!、祖点200ってケタが違うよ!?」
少し興奮してウランが説明を続ける。
「ね、ダントツの1位でしょ。コレに魔宝増幅石のx15を考慮すれば、MPC値は3,000よ」
「3,000!?」
「中学から鍛えていた桐生院姉妹のテンサウザンには及ばないものの、いきなりスリーサウザン、一般にセカンドクラスではオーバーサウザンが精々と言われているから、多分セイネの上には付属部では桐生院姉妹しか居ないんじゃないのかな?」
「・・・はぁ、来月の中間考査で、おそらくセイネはGrA-Aに行ってしまうのね、のね」
「多分そうね」
「セイネとチームメイトなのも、わずか1ヶ月か、なの」
「そうとも限らないわよ、GrA-Bのニーノさん」
「どう言う意味かしら、GrA-Bのウランさん?」
「次の中間考査で、上位4名を抜ければセイネとチームメイトになれるわ」
「・・・なるほど。あ、それでシュンはイソイソと実技錬に行ったって事なのね、のね」
「多分そうよ。生徒会長に頼めば、実技教室の使用許可も出るんじゃないかしら。だってあの生徒会長、学長のMPC値を超えたんだから一般教諭よりは強い権限を持っていると思うわ。中等部生徒会長が教職員用の2食の個室を抑えられる程度には、ね」
2人はそこで顔を見合わせ、紙コップのジュースを、ズズズッと少々はしたない音を出してストローで吸った。
もう冷えてしまったポテトを口に運ぶ。
育ち盛りだから、この位のカロリーは何でもない、はず。
「それにしても」
ニーノが口を開く。
「あんな風に必死なシュンの姿、初めて見るなの、なの」
「うん、みんなに優しい気配りのシュンが、1人に優しいシュンに変わろうとしているんだと思うわ」
「まだ出逢って2日目だよ?だよ?」
「私達だってセイネの事ばかり話してるじゃない。多分、こう言う事は時間じゃ無いのよ」
「ソレって経験談なの?なの?」
「あなた容赦無いわね。逆の意味の経験談よ。出逢って3年たつけど、ああ言う風に手を握られた事は私は無いわ」
2人は今度は顔を合わせず、黙ってジュースをズズズッとストローで吸った。
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街中で魔宝石の着用は認められていない。東南戦争の影響もあり、魔宝の軍事利用が研究され、平和利用より破壊殲滅手段としての魔宝が大きく発展した為だ。
だからボクは勿論、学校を出る前に全ての指環を外し、皮袋『強欲の胃袋』の中にしまい、ローブの内ポケットに袋ごと入れた。
聖のペンダントだけは首にかけたままにする。
聖魔宝の使い手は非常に数が少ないこと、そして聖魔宝には攻撃呪文が無い事から、聖の魔宝石に限り街中での着用を認められているのだ。
人の流れに乗り、学校からの帰り道、ビル街の道を英雄の森公園駅を目指して歩く。最もボクは、途中で英雄の森の中に入っていくんだけれど。
周りを見ると、付属一高の生徒、付属中の生徒が多い。魔宝衣で膝下までをカバーする魔大付属の独特の制服は、耐魔宝・耐物理効果だけではなく、一般人と魔宝使いを一目で見分けられる効果もある。
その時、心にとても嫌な感触が有った。
何と言うか、魔宝力を無理やりむしられる感触と言えばいいのか・・・。
あ、そうだ。魔宝競技の時安全の為、普段とは逆の、魔宝の出力を抑える減衰石を身に付けた時の感触と一緒だ。
でも、何で?
気になって自分の両耳を手で確認する。イヤリングは何もつけてない。
周囲の付属生を見ても、この感触に気付いている人は居ないみたいだ。
え?これ、ボクの気のせいなの?
そう思って警戒を緩めたその時、大型4輪モーターサイクルが歩道へ乗り上げ、ボク等付属生の集団に飛び込んできた。
敵国が広域魔宝減衰装置の開発を進めているらしいね、そんな今は関係ないおじい様の言葉が、ふと心に浮かんだ。




