第17話:覚悟
スクリーンに流れるシューティングスターズのニュースを見ながら、朝食の席で祖父は何気なく言った。
「あの2つの隕石衝突で巻き上がった噴射物は、まるで魔宝のように驚くほど少なかったんだけどね。それでもSPMが成層圏まで達して太陽光を遮っちゃうから、この先2年ほど、地球の平均気温が0.1度下がるらしいよ」
美夜の入れてくれたお茶を飲みながら祖父が続ける。
「地球の気象への影響が心配だね。どうせなら月の裏側とか火星とかに落ちればよかったのにね」
祖父が言うと、言葉の重みが違う。まるで本当に月の裏に隕石を落とした事が有るみたいだ。
祖父は更に言葉を重ねる。
「間違って敵国の要塞都市や艦隊に落ちていたら、大惨事だったかもしれないね」
今朝の美夜と月子は食事中、随分とおしとやかで大人しい。
話題を振るのは祖父だけだ。
「昨夜、セイネ君は、ヤンチャせずに大人しくしてたようだね」
「はい、おじい様」
ボクが答える。
「ボクは、女性としての覚悟が色々と足りてなかったのだと昨夜感じました」
「おや、そうなの」
「はい。おじい様の血を引くことの意味、自分が女性になった事の意味、色々考えてしまいました」
「あせらなくて良いと思うよ。今後、交戦状態になったら流星が落ちてくるかもしれないから、”政府”も”国防軍”も敵国も、考え方変えたと思うし」
「そうなのでしょうか?」
「うん、”彼ら”の責任を君達だけで背負う必要は無い、私はそう考えてるからね」
「はい。よく考えます」
言葉が見つからず、ボクはそう答えた。
次次世代レジェンドとか後宮とか子作りとか、考えるのを先送りしてもいいのだろうか?
「おじい様」
月子が口を開いた。
「レジェンドと言われるほどの魔宝を鍛える方法、レジェンドクラスと言われるまで魔宝石を鍛える方法は、巨大魔宝が必要とされる交戦下以外で何か良い方法は無いのでしょうか?例えばの話ですが、地球に流星を落としてコントロールする魔宝は、地球気象に対する影響が大きそうなので訓練には使えませんし」
月子もハーレム計画の有効性は認めつつ、別の方法も諦めてはいないようだ。
「下手したら恐竜みたいに人類を滅亡させちゃうような訓練はお勧めできないなぁ。実は今その研究をしていてね」
「人類滅亡の研究ですか?」
「違うよ、魔宝訓練の研究だよ。魔宝を鍛えるためには巨大魔宝の発動が必須、でも影響が大きすぎて平時にはそうそう発動できない」
「はい」
「だから巨大魔宝を物理事象ではなく”別の形”で発動させられないか、ってね」
「別の形・・・と、言いますと、どのような?」
「それを研究しているのさ。夢物語に聞こえるかも知れないけど、例えば巨大魔宝エネルギーで”異世界への扉”を開くとかね」
「おじい様の口から語られると、どの様な夢物語も実現できそうに思えます」
2人の話を聞きながら、ボクは昨日からの事を考えていた。
今、休戦状態というかりそめの平和があるのは3人のレジェンドがいる事が、敵国に対しての抑止力になっているからだ。
だから3人の後を継ぐ者は、魔宝の実力は当然として、敵国と世論が納得できる存在感が必要に成る。なぜなら、敵国と交戦せずに実力を知らしめる必要が有るからだ。交戦して実力を示すとは、すなわち休戦を破棄し開戦することを意味する。
で、後継者に成る人間の育成は大きく2つの方法が考えられる。
1つ目は、『英雄』と『天才魔女(仮)』の直系女子が婿をむかえ、次次世代のレジェンド候補を産む。その血筋から想像される魔宝力は、交戦機会無しに「実力はありそう」と敵国に思わせることが出来るだろう。よって現状では最有力の方法と考えられている、らしい。
2つ目は、現在育成中の世代、つまり中高生を鍛えてレジェンド相当に育て上げる。その為に現レジェンド3名全員を教育機関に投入したとも考えられる。難点は地球にインパクト与える事無くどう魔宝を育てるか、敵国と世論にどう実力を証明するか、の2点である。
ま、ぶっちゃけ祖父の孫であるボク等3人がレジェンド相当に育つか、ボク等3人が将来産む予定の子供をレジェンドまで育てあげるか、どちらの方法をとるか?と言う話の様である。
魔宝力を大きく減らしたボクはともかく、昨夜流星喰いの称号を得た美夜・月子の2人なら、訓練の方法さえ見つかればレジェンドまで育つ可能性はかなり高いと思われる。
ならボクは、自分自身がレジェンドになれるよう自分の魔宝と魔宝石を鍛えつつ、次次世代レジェンド候補の父親となる才能ある男の子を探せばいいのか。
美夜と月子が新しいレジェンドになれれば、ボクが子を産まなくても平気になる。なぜなら、”桐生院美夜”と”桐生院月子”の子が、新レジェンドの直系になるからだ。
現レジェンドの名を継ぐ直系は”東郷セイネ”ボク1人しかいない為、今のままだとレジェンド直系としてボクの子供が必要になるのだと言う。
敵国も世論も無責任だよね。
ボクはボクで自分の心を見つめなおす。
男だった2年前まで、本当に成熟した男性になれるのか、ずっと1人で悩んできた。
女になってからの2年間、男にも女にもなることを拒んできた。
そして昨日シュンに逢った。シュンはボクを女の子だと言ってくれた。
そして昨日ショーゴ君と逢った。ショーゴ君はボクを可愛いと言ってくれた。
明け透けな考えを言う。
3人まとめて可愛がってもらえるキングサイズのベッド、4人で一緒に入れるお風呂・・・昨夜の美夜の言葉に抵抗を覚えたのだが、その原因を考えてみてびっくりした。
当然そう言う事は、2人だけの秘め事にしたい。でも、抵抗感はそこから来たのではない。
もしも、どうしてもと求められた場合、月子となら平気かもしれない。しかし美夜と一緒には、多分抱かれる事は出来ない。
ボクはきっと随分前から、月子の前では既に女性だったのだ。
そして、美夜の前では今でもまだ男性が色濃く残っているのだと思う。
もし「子供を作る行為をボクがする」と想像する時、女の子暦2年のボクは、その相手は顔無しの誰かさんになる。
同年代の男性をシュンやショーゴ君しか知らないけど、その2人を行為の相手と想像する事ができない。
シュンの前でボクは女性だろうか、ニュートラルだろうか?、男性ではないよね?
ショーゴ君の前では女性だろうか、ニュートラルだろうか?、男性ではないよね?
男に成れない不安の時期が過ぎ去り、男にも女にも成れない時期も過ぎた。
肉体的には女性の成熟した身体に変わり出した。
今度は女性の心になれない事に苦しむのか?できるなら、心もちゃんと女性になりたい。
昨日知り合ったばかりだけでどシュンとショーゴ君の事を興味深いと感じているのは確かだ。
図々しい話だけど2人まとめて興味を惹かれている事は、悔しいけど認める。
でもそれが、女性が男性に惹かれる気持ちだとは思えない。
だって、間違いなく女性の美夜を慕う気持ちがボクに残っているんだもの。
男性を相手に恋なんて出来るんだろうか?
男性の事を心から異性と思えるんだろうか?
ハーレム計画に乗って美夜が側室になったとして、それに耐えられるかな。
覚悟が足りないのかな。
女性としての覚悟が。
「セイネさん」
1人考えに沈んでいたボクに、美夜が声を掛けた。
「そろそろお時間ですよ、学校に遅れてしまいます」
美夜の声に現実に引き戻される。
そうだね、学校に行かなくちゃ。そして、シュンとニーノとウランに昨日の事を謝らなくちゃいけないな。
「ありがとう美夜、じゃぁ行こうか」
ボク等は3人、制服の上にローブを着て、帽子をかぶり、学生カバンを持って、英雄の森の家から学校へ出かけたのだった。




