第12話:絆
ドアの前、月子が明るく声を出した。
「始めまして。私、東郷セイネの従姉妹で中等部3年の桐生院月子といいます。
親戚に、今度高等部に入学するセイネ君の体調フォローを任されてまして、それで昼食誘ったんです。
そしたら引っ込み思案のセイネ君が友達作ったというので、是非紹介してもらいたくて、先輩方の食事会に乱入しました。」
「ほら」と月子が、連れて来た男の子を促す。
彼は魂が抜かれたように、ぼーっとボクの顔を見て立ちすくんでいた。
「ほら、加藤君」
月子が又促す。
男の子が口を開いた。
「あぁうん、ゴメン、桐生院。あ、先輩方、僕は桐生院のクラスメートの加藤ショーゴです。桐生院に誘われ、可愛いと自慢の従姉妹さんを見に来ました。可愛いとは聞いてましたが、こんな人形の様な可愛さとは思っておらず、フリーズしてしまいました。お恥ずかしいです」
ここで気配りイケ面が気を配る。
「こんにちは。桐生院さん、加藤君。俺は片栗シュン、そちらの国学徒ニーノ、南山ウラン、東郷セイネの4人で同じチームになったんだ。全員1年1組グループAチームBだ。高等部は成績順に1クラスを8人づつにグループ分けしてグループA-Dまで4グループ作る。各グループを半分に割ってチームA、チームBを作るんだ。中等部とは少し違うだろ。チーム4人の結束を固めるべく食事でもと話していたら、セイネの従姉妹の桐生院さんから昼食を一緒にとお誘いが有ってね。で、いま、この状況」
ニーノも話しかける。
「あたしは国学徒ニーノ。姓は音の響きがゴツくて嫌いだから、あたしの事はニーノとかニーノ先輩とか言って欲しいの。よろしくね♪、ね♪」
ウランも話す。
「私は南山ウラン。今のところ、セイネと、その従姉妹の月子ちゃんに興味わいてきちゃったかも」
ミルクカップを置いてボクが言う。
「加藤君。ボクが月子の従姉妹のセイネです。人形と小学校の頃から言われ続けてコンプレックスになっているので、多分ほめ言葉なのでしょうが言われてもうれしくありません」
月子にも声をかける。
「月子、料理持ってきて座ったら。ボクの隣に来なよ」
「あ、うん、そうする。加藤君はどうする?隅になるけど私の隣にする?ボクの対面、ニーノ先輩の隣にする?」
「桐生院の隣に座らせてもらえるかな」
これで席順が決まった。窓側から
シュン、ボク、月子、加藤君
ウラン、ニーノ(空)(空)
このような配置である。
月子が料理を持ってボクの隣に座る。
メニューは、・白身魚のムニエル、キャロット添え・ホットサラダ・カップミネストローネスープ・フランスパン・茶碗蒸し
へ?茶碗蒸し?と思っていたら、月子がボクに茶碗蒸しをよこす。
「セイネ君に持ってきたのよ、私が用意しないとどうせ食べないでしょう?」
月子は更に、オリーブオイルをかけたフランスパンを1切れボクに渡す。
「月子~。全部食べないとダメ??」
「安心して。この部屋、午後全部抑えてあるから食事に時間かけても大丈夫よ」
チームメートの3人は、ニコニコしてそんなボク等の様子を見ている。もしかして、小さな姉妹を見守る保護者モードの視線になってないか?
月子が、シュン、ウラン、ニーノの3人に話しかける。
「セイネ君、引っ込み思案なのに、よく1日で友達になれましたね」
シュンが答える。
「セイネはね、とても危ういんだ。なぜだろう?、女性としてセイネは無防備で危うく見えるんだよ。だから放って置けなくて声を積極的にかけたんだ。仲良くなれたのは、セイネがそれに応えてくれたおかげかな」
月子が驚いた。
「短い時間でセイネ君をよく見てますね、びっくりしました」
「シュンはね、すごいんだよ。たった10分お話しただけでチームフォーメーション決められるし」
ボクのセリフに月子が食いついた。
「チームフォーメーション、4人制よね・・・私、当てられるかもしれないわ」
「本当に?本当に?」
ニーノ
「当てられたらすごいね」
と、ウラン
「んー、3トップの1-3フォーメーション・・・ではなくて、2トップ1ミッド1バックの1-1-2ね」
「凄いね、当たりだ。どうして分かったの?」
今度はシュンが驚く番だ。
「セイネ君使うとね、どうしてもお姫様フォーメーションを考えちゃうのよ。遠距離から回復も攻撃も出来るからバックスに置きたくなるのよね」
少し考えるふりをする月子。
「なら残る3人のポジションは制限されるわ。1トップ2シャドゥの矢じり型陣形+1バックの1-3か、2トップ+ゲームメーカー+1バックの1-1-2のどちらかね」
月子が結論を出す。
「で、今までの話しぶりからゲームメーカーは片栗先輩。よって導かれるフォーメーションは1-1-2。きっと変則の1トップ1シャドゥやるんでしょ?、縦長にしてバックスをフォローしやすいように」
「へぇ、たいした洞察力だ。驚いた」
とシュン。
「私としては、セイネ君が今日会ったばかりの男の人を名前で呼んでる方が驚きだわ」
と月子。
「でも、もっと驚かしちゃうかもしれませんね」
月子が全員を見渡した。
「桐生院、本当にやるの?」
加藤君は、何故か逃げ腰だ。
「これは私とセイネ君にとって大切な事なの。お願い」
「分かった、でも魔宝石、用意してないよ」
「大丈夫よ、セイネ君、私と同じ位敏感だから」
中学生が何か暗号で会話してると思ったら、月子がボクに声をかけた。
「セイネ君、ここにいる加藤君と『手合わせ』してくれない?、その為だけに、個室も抑えたし、加藤君にココに来てもらったの。先輩たちも、セイネ君のお友達なら是非見ていって下さい。セイネ君の危うさの片鱗が見えると思います」
「月子、手を合わせるだけでいいの?」
「そう、セイネ君の右手と、加藤君の左手を合わせるだけ」
「手を合わせた後、ボクの手を握ってこない?」
ちらりとシュンを見て言う。
「そんな色っぽい話はないわ。それよりセイネ君、多分あなた泣いちゃうわよ」
「マジ?」
「マジ。私も加藤君と手合わせした時、初めてだったので号泣しちゃったわ。そして加藤君の事を、セイネ君にも絶対教えなければいけないと思ったの」
思った以上に真剣な月子の様子に、ボクは手合わせを決める。
ボクと加藤君は席を立ち、向かい合わせに立った。
加藤君が左の手のひらを差し出す。
ボクの右手をそれに合わせる。
指輪もはめてない、加藤君の左の人差し指から覚えの有る生の波動。
指輪もはめてない、加藤君の左の中指から覚えの有る風の波動。
指輪もはめてない、加藤君の左の薬指から覚えの有る土の波動。
この3つの波動をこう重ねる人間をボクは一人しか知らない。
2年前消えてしまった、ボクの魂の片割れ、月子の婚約者、アイツの持つ波動しか、この波動の重なり方は在り得ない。
永遠に失ったと思っていた絆がそこに在った。
これはカノンがこの世界に半分残していった絆だ、何の根拠もなくそう思えた。
自分の目が驚愕に開いているのが分かる。
口から何かうめき声まで漏れているみたいだ。
最初右目から一粒だけ涙がこぼれた。そしてもう、涙が止まらなくなった。うめき声も止まらない。
なる程、号泣か・・・助けて、自分を抑えられない。
加藤君の中に、半分カノンがいる、どうしてもそう感じてしまう。
戸籍上はまだ生きてるけど、もう2度と会えないと思っていた魂の半分がココに有る。
ボクはどうすればいいんだ??!
混乱する、涙が止まらない。
月子がボクに抱きついて一緒に泣いてくれた。
この持って行く場所の無い気持ちを共感してくれる人かいるだけで随分楽になる。
確かに、月子の為にもボクは加藤君に合わなくちゃいけなかったんだ。
涙で濡れた目で加藤君を見る。
身長は美夜くらい、160cm位か、中3だからもっと伸びるかも。
ショートカットの月子より短く切った髪、1本1本が細く腰がなく、黒髪なのに光を含んで栗色に見える。
顔は、目は大きい、瞳の色は黒ではなく茶に見える、通った鼻、男としては小さい唇、
もしカノンに色素異常がなく成長してたらこうなったであろう、とも言える顔だ。
「加藤君」
ボクは泣きながら声をかけた。
「はい」
「加藤君の下の、名前、もう一度教えて下さい。ヒック、今度は絶対に忘れないから」
「ショーゴです。加藤ショーゴです」
「ショーゴ君かぁ・・・。ボクと月子に会って、くれて、ヒック、本当にありがとう」
それから又、月子と抱き合って泣いた。
「みんな、ヒック、せっかく来てくれたのに、ごめんね」
「しばらく涙が止まりそうに、ヒック、ないので、今日はお開きにさせて、下さい」
事情が良く分からないはずなのに、シュン、ニーノ、ウランは何も聞かず、黙って出て行ってくれた。昼食を取らせずに追い出してしまった、後で謝らないと。
ショーゴ君は、前に月子を泣かせて慣れているのか、抱きあって泣くボク等2人をずっと見守ってくれていた。
ずっと見守ってくれていた。




