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EVOLVERSE FANTASY  作者: 交差化 道也
プロローグ
3/22


 ほら、起きろ。ゲームの時間だ。


 脳内に年上の男の声が聞こえたような気がして目が覚めた。

 頭が当たっているのは教室の自分の机だ。さっきまでは6時限目の世界史を受けていたはずだ。完徹にしてはかなり頑張った方だと思うが、とうとう授業中に寝入ってしまったらしい。


 視界の全範囲が赤みを帯びている。腕時計に目を向けるともう日が沈むころのようで、既にクラスメイトは大体帰宅してしまったのだと思われる。

 ユキナリはなんてこった、と頭を掻きながら立ちあがった。さぞかし目立っていただろう。


 人付き合いの下手なユキナリのほぼ唯一と言ってよい親友が、下校に際し声をかけてくれなかったのは何でだろう、とボーっと考えながらも、鞄を背負ってそそくさと身を縮めて学校を出た。そしておや、と大いに首を傾げた。


 太陽の最後の光を受けて、白い校舎の壁と窓が赤く燃え立っている。遠くの山は黒く大きな影をつくり、強風が校庭と並木道を鳴らす。

 そんな普段から見慣れた風景に、今日は何かはっきりした違和感と、そして出所の分からない微かな恐怖を覚えた。思わずキョロキョロと周囲を見回す。見えるべきものが何か一種類だけ無い。それだけは間違いなく分かる。


 なんだ。何かが変だ。


 数秒の後、眠い頭でなおも首を捻っていたユキナリは、違和感の正体に気がついて息を詰まらせた。眠気が吹き飛んだ。


 人がだれもいない。


 学校の向かいの、生徒の溜まり場になっている商店には客のものとおぼしき自転車が止められているのに、持ち主の姿も、店番のおばさんの姿すらも見えない。それにいくら授業の終わった夕方と言っても、毎日部活に精を出している連中が校門前に集まっているはずなのだ。


 それなのに今この瞬間はただ門とコンクリと柵が赤い光に照らされているだけ。思い出してみれば、校舎を出るときだって普段いるはずの生活指導教師の姿もまるで見なかった。日乃だって声をかけてくれなかったのは、冷静に考えるまでもなく異常だ。


『遅起きは置いていくからね!』


「……日乃」

 ユキナリの心の中に不安の種が芽吹いた。目の前に広がる光景が不自然過ぎるからだけじゃない。幼馴染が消えたかもしれないということが、何よりの影を落としている。人付き合いを限りなく面倒くさがる自分が、人がいないという理由で焦る現状は少し笑えるが、内心はかなり余裕がない。

 鼓動が加速し、発汗が増大する。今度の緊張は登校中に起きたものとは全く種類が違う。喉がカラカラに乾いてくる。ユキナリの頭上で、目覚めたときに聞えたものと同じ声がした。なんだかどこかで聞いたことのあるような声だった。


 ゲームの時間だ。ユキナリ。


 弾かれたようにユキナリは叫んだ。

「誰なんだよあんた! どこだ!!」

 声が少し上擦った。答えはない。はっきり怖いと思ったかもしれない。そんなユキナリの変化を待っていたかのように、耳をつんざく大音量でチャイムが響き、ユキナリの体をびくり、と震わせた。


 キーン、コーン、カーン、コーンという聞き慣れた音が今日はやけに鋭い。ノイズを持ってやたらと何度も聞こえる反響は、ユキナリの不安を面白がるように、カラカラとトーンを変えて空気を震わせる。生ぬるく湿った風が頬を舐めるように通り過ぎた。不安が、それ自体をエサに膨れていき、徐々に焦燥へと姿を変えていく。


 なんだよ、落ち着けよ。今は恐喝されているわけでも、モンスターが出たわけでもないだろうが。ここには俺を傷つけるものは何もない、そうだろ。


 意識しないうちに呼吸数が増えていた。必死に自分に言い聞かせながらも、確かな負の予感は体全体をじっとりと包み込む。ユキナリはもう一度あたりを見回した。やはりだれもいない。幼いころ、日乃と遊びに行った裏山で迷子になり、日が暮れて真っ暗になった世界でさまよったときのあの気持ちが襲いかかる。気温は間違いなく30℃はあるはずなのに背筋が冷たい。


 鐘の音それ自体が悪意を纏って自分の頭めがけて投げ落とされているかのように思えて、ユキナリはまろびながら走って逃げ出した。


 駅に着く。構内にも窓口にも人影は無い。定期券を改札に叩きつけ、ホームへ向かい、丁度良く下りの電車が停止していることに気が付いて――とうとう足が止まる。

 やはり人がいない。ホームにも、電車の中にも。先頭車両まで走って運転席を見るが、運転手も車掌も乗ってはいない。


「……日乃」

 混乱しきった頭でようやく思いついて携帯端末を起動し、日乃にテキストメッセージを送ろうとし――。

「あっ…………無い!?」

 信じがたい光景だったが、連絡用のアプリケーションには1人のデータも入っていない。記憶の中にある番号に電話しても、思い当たるアドレスにメールを送っても、その宛先が存在しないことを告げる定型レスポンスだけが返ってくる。

「おいおいおい……ウソだろ……」

 考えられる説は3つある。1つ、自分は夢を見ている。だがこの感覚の精細さは現実のそれだ。2つ、自分の精神が異常を来した。このパターンについては度外視して良いだろう。もしそうなら、自分に打てる手は無いのだから。3つ。本当に自分の周りで何か訳の分からないことが起きている。


 認めなくてはならなかった。自分の理解が及ばない何かが起きていることを。

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