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俺の歪んだ思考

流血表現はありませんが、少し暗い雰囲気ですのでご注意下さい。

 雨が降っている。それは俺の悲しみを表してなどいない。そんな自然現象なんかに、俺の悲しみを形容する資格など無い。

 人通りの少ないここは、独りになるにはもってこいの空間で、だから俺はいつもここに来ていた。

 雨が冷たい。雨までも、俺に対しては冷たい。

 晴れの日も雨の日も雪が降る日も、いや台風が直撃した時でさえ、俺はこの場所に居た。いや、ここにしか居られなかった。居場所がなかった。

 存在を、存在すら許されない俺が、ただここだけの中では存在することを許可された。

 多分明日は風邪をひくだろう。そして親はいつものことだと呆れ、クラスメートも俺のことを心配なんてしないだろう。するわけがない。

 でも、どうでもいい。学校を休む。授業が分からない。それでもいい。何でもいい。

 家では兄貴と比べられ、学校では平均と比べられ。俺は疲れた。何度となく兄貴を殺そうと思った。クラスメートを虐殺しようとも思った。拷問でも良かった。

 しかし残念なことに、兄貴自身は何もしていない。クラスメートに、俺が劣っていると思わせたのは、担任の教師だ。なら彼らを殺そうとも考えたが、しかしそれは難しい。大人になるまで悠長に待っていようものなら、ようやく準備が整った時に、そいつらが死んでいるかも知れない。

 他人を殺せない時、人間は殺意を自らに向ける。正気を保つための、正当防衛。

 そんなことを考えて時間をつぶす。ここら辺ではたまに、捨てられ猫を見かけることもある。人目がないからだろう。しょせん人間はそんな生き物だ。ルールやマナーという力で押さえつけなければ、すぐに人間を捨てる。ケダモノになる。

 どうやら今日も、そんなケダモノの餌食になった猫がいるらしい。いや、いたらしい。既に生命の灯火は消えていた。

 これは僕が歪んでいるからだろう、俺はその猫にあろうことか“嫉妬”した。

 ふざけるな、と怒る人はまだ人間だ。俺はもう、人間とは言えないくらいに歪んでいる。だから僕は嫉妬する。

 君みたいに何も分からず逝ってしまえたらな、と呟く。真夜中の路地裏に、虚しく声が吸い込まれる。

 雨でぐっしょりと濡れて、灯火の最期の温もりすら消えてゆく子猫を抱きしめた僕は、ひたすらに泣いていた。もう涙は枯れたと思っていたのに。

 家族に、クラスメートに、人間に、世界に、全てに拒まれたことを泣いた。俺が何をした。いったい、何をしたっていうんだ。

 雨に濡れた子猫を、涙でさらに濡らす。なぜか、その子猫に親近感を覚えた。同じ、拒まれた者どうし。

 今、君の元に行くよ。そう呟いて、濡れたアスファルトの上に、丁寧に子猫を降ろす。

 子猫の亡骸は、まるでガラスから作られた芸術作品のようで、丁寧さとそれに相応しい敬意をもって取り扱わなければ、たちまち壊れてしまいそうで怖かった。

 子猫は壊れなかった。良かった、これで思い残すことなく逝ける。

 俺は暗くて地味な路地裏から、明るくて派手な大通りへと飛び出した。一生求めて、ついに獲得出来なかったもの。汚してやる。俺をお前らの記憶に叩き込んでやる。

 歩道をわざと邪魔になるように横切り、上目線の怒声をかわしながら、俺は車道に入っても勢いを緩めなかった。



初めて此処に投稿する作品です。

私のSSの中ではまだマシな方です。


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