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君を守りたい  作者: 長井雪
第一部
9/62

秘密には鍵を

――とうとう学院まで日記を持ってきてしまった。

(大丈夫である。もしものために特殊な鍵もつけた)


……朝から気が滅入る事があったものだから少し吐き出したかったのだ。


 だが、だがな、今日は嫌なことを吹き飛ばすほど、よい事があったのだ。

(今まで愚痴ばかり書いていた気がするな。今回のような事が続くと嬉しいのだが)


 まぁ、まずは、今日の朝の些細な嫌なこと(今となっては)から書き始めるかな。



 朝の食卓の場での事だ。兄上にいきなり言われたのだ。


『アリア、お前が家族を思って、まじないをしてくれるのは嬉しい。だがな、お前の身を危険にさらしてまでする事ではないよ』


 何事かと思った。リードの事を誤解して? いや、まさか。

 思案しているうちに、父と母が言葉を続けた。おそろしく不快な話だった。


 要約すればこうだ。


 私に恋着している子爵の子息が、夜中我が家の庭で捕まったそうだ。我が家の番犬に、腕を噛まれ泣き叫んでいたそうだ。


 兄上が言うには、その少年は昨日の夜中、私を恋しむあまりユリエの花の傍の窓を見ていたそうだ。

 そして、部屋の明かりは消え、もう眠ったのだなと思い帰ろうとしたとき私が窓に身を乗り出したそうだ。


 白い寝着を纏い――あぁ、やめだ、気持ちが悪い。

 つまりとんでもなく好みで、気分が高まり、私の口づけた紙が欲しくなってしまったそうだ。


 だから、やめよと父も母も兄も言う。

(庭にユリエの木はたくさんある。だが、まじないをすれば、部屋を特定されてしまうだろうと)


 断れるわけがなかった、心配して言ってくれたと分かるのだから。

(落ちこむのも馬鹿らしい。とりあえず朝の内に愛すべき番犬ルカを褒め称えておいた。次はリードに合図の変更をすると伝えねば)



 そして次は、ふう、まだ本題には入れぬな。今度は落ち込むことだ。


 学院での初日の今日を、最低な気分からはじめた割には少し持ち直したときの事だ。

 二度目になる学院の諸注意、講師との顔合わせ。懐かしく、感慨深いものだった。


 もう70年も昔の事なのに大差はないようだ。

 一つ違うことをあげるならば、同じ講堂にエミリアがいる事か。


(今ですら女性が学院に通う事は珍しいのだ。昔、いかにエミリアが優秀だったとしても彼女と一緒に通う事はなかっただろう)



 講堂の中心に座るエミリオ少年のまわりは、彼の歓心を買いたい連中がひしめいていた。


 よく、我慢強く対応できると思う。私はとても我慢がならない。

 私は一人の少女の話さえ、苦痛極まりないのだから。


 この講堂に集められたのは入試成績の上位の30名ほどだ。

 そのなかで女性は2名。私とクレアという少女だけだ。


 必然的に会話する流れだと彼女は思ったのだろう。私も赤ら顔の男どもに話しかけられるくらいなら、と珍しく愛想よく挨拶してしまった。


 まぁ、最初は普通だった。挨拶に自己紹介。これからの生活、勉強についてなど。

(むしろ、ドレスや観劇などの話がなく、彼女とは上手くやっていけるかもしれぬ。と思ったのだ)


 だがな、クレアはエミリオ少年に恋? 憧れているらしい。

 エミリオ少年の素晴らしさについて、延々語られたのだ。


――彼女の三時間にわたる言葉を要約すれば。

 家柄、容姿、頭脳、精神、剣術、名声、すべてが完璧であるとの事だ。

 将来性が高く、結婚相手にこれ以上の相手はいないそうだ。


 つまり、私に対して牽制したかったらしい。

(私が、その気がないと分かる相槌をしてから、これから仲良くしましょうね。と言われた。落ち込んでしまった)


 まぁ、それも、もういいのだ。ここからは私のうれしい報告だ!!

 ああ、口元が崩れてしまう。まぁよいか、ここにどうせ人など――



「何か、楽しい事でもありましたか? とても楽しそうだ」


 茶の髪を持つ少年は木々の隙間から現れた。

 ユリエの木々に囲まれた東屋で、書き物をしていた金の髪の少女は驚いたように振り返る。


「驚かせてしまったようですね。申し訳ない。だが、貴女に一つ尋ねたい事があるのです」


 少年は手に持った紙片を口元にかざし、不敵な顔で続けた。


「……貴女もよくお分かりでしょう?」


 少女、アリアの眼の前に立ったのは、彼女に苦悩と歓喜を与える存在、エミリオ・ハーウェルンその人だった。







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