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君を守りたい  作者: 長井雪
第二部
60/62

君に両手いっぱいの花を[三籠]

大変遅くなり申し訳ございません。ですがゆっくりでも納得がいくものを書いていこうと思っています。

 覆せない、命を懸けた誓い。


――いくつもの花が風で散りエミリオが目の前に膝をつく。私が贈った剣が鞘から抜かれ、青く美しい空に掲げられる。


 彼の方の眼前で剣を抜き、空に捧げ、胸に抱く。思いを捧げる儀式。


 ただ私は呆然としていた。祭りの歓声も遠いその場所で、まっすぐに私を見つめる眼差しが私をとらえて離さない。

 彼は剣を胸に抱き誓いの言葉を紡ぐ。


「……私の心を貴女に捧げたい。ずっと貴女に傍にいてほしい。貴女の苦しみと悲しみを私に分けて欲しい。そして、一緒に生きよう」


 誓文は一人一人違う。

 飾り立てた誓いもあれば、言葉少なく纏めるものもいる。自分らしさを、その思いを伝えるために。


『……我が心を貴方に、我が命尽きるまで、ともにある事を願う。我が心は変わらず。我が思いは誓いとなり、君に捧ぐ剣となる』


 遠い過去の言葉が頭をよぎった。


「貴方に、私の苦しさと哀しさを?」

「貴女が、笑って、幸せでいてくれないと私が幸せではないので」


 本当に彼らしく、思いが痛いほどに伝わってくる誓いの言葉だった。

 私の苦しみと悲しみを欲しいという彼の言葉に続く言葉はきっと、君と生きたいから。これほど揺さぶられる言葉があるだろうか。

 そして、捧げられた者に判断はゆだねられる。その誓いを受け取るか否か。


 主君には『許す』という言葉を求め、最愛の君には『くちづけ』を求める。


 彼を受け入れるならば。


「わ、たしは――」


 言葉がつまる。日頃容易く、意識する事もなく口からこぼれるもの。それが今とても重い。

 その姿をみて彼は焦ることなく、まるで包み込むように微笑む。


「急に気持ちを捧げてしまい、混乱させてしまったことを謝罪します。でも、どうしても今日私は貴女に私の心を告げたかった。この国を離れる前に」


 言葉を理解した瞬間に下げていた視線を彼にあわせていた。


「この国を離れる?」

「はい、華冠にーー公国行ってまいります」


 私は、いや、アリアスは知っていた。けれど彼の病もあり話は立ち消えになったのではないかと期待してもいた。だが、こんなにもすぐに彼がいってしまうなんて。


 行かないで――と思った自分に愕然とする。そして。


「アリア?」


 目が勝手に潤んできた。少し上をむき、せめてこぼれない様にとする。

 けれど涙がとまらない。彼が慌てて剣をしまい近づいてくる。見られたくなくて背を向ける。


 だが彼が許しを請うことなく私を包みこむ。

やめんか! もっと泣けてくるではないかと思う私を無視し声までかけてくる。


「私がいなくなる事を、悲しいと思って下さるのですね」


 嬉しいはずがあるわけない。だって君がいないなんて。

 いや? 違う、たえられないだ。


「今、とても幸せです」



 思わず振り向く。そして私が見たものは。


 私が一番ほしかった、今までで一番の笑顔だった。




 その後、呆然とする私が覚えているのが、長く続いた再度の抱擁と彼の言葉だった。


 彼は言った。思いを伝えたかった。でも突然に告げてしまい申し訳ない。だから答えは今はいいと。でも今度は、次に会うときは――


 『だが次は必ず頂きます。私のほしい答えを』








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