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君を守りたい  作者: 長井雪
第二部
59/62

君に両手いっぱいの花を[二籠]

――お、落ち着け私。冷静に、そう冷静にだ。状況をゆっくりと整理し、態勢を整えるぞ。

(大丈夫であろうか。挙動不審でなかったであろうか。家族から向けられる視線が変だったような……今は気にせんぞ!)


 今私は、自邸の自室に着き、日記を書いている。着いたばかりでまだ着替えもしておらぬ。そしてその前は……エミリオ少年に会っていた。そう久しぶりに。

 

 花祭りに行ったんだ。そして花籠を渡されて、祭りの由来がわかる劇を見た。――昔じゃ考えれない、戦争がもう無くて、とても遠い場所に今いるんだと身にしみて感じて。少し冷静でいられなかった。でも彼が手をひいてくれて、心が落ち着いた。私にとって本当に稀有な人。傍にいてくれて本当に有難い。

 だが――問題はそこからである。




「とてもお綺麗な方ですね。エミリオ様」


 祭りの中心地、王都の前の大通りの中でもこの祭りの為につくられた舞台の前にアリアはエミリオと来ていた。多くの人々が舞台を囲み、その混雑で護衛たちがいなければ二人は押し潰されていただろう。だがその混雑も納得できるこの祭典最大の催し。


 その舞台に立ち舞を天に捧げる幾人もの人。その中でも一際輝く存在。

 長く美しい黒髪は花を飾り彩られ、白いドレスは布地を何枚も重ね、まるで花弁の様。

 まさしく花の女神。

 観衆は花籠の花を空に捧げ、花の雨が降る。


 アリアは美しさに感動し思わず言葉にする。だがエミリオからは何の反応も無い。


「エミリオ様?」


 花弁が降り注ぐなか、エミリオはアリアを見ていたようだった。

 どうされました、というアリアの言葉にエミリオは応える。


「貴女も数年後にはあの場所に立たれるのかな、と」


 花の女神、簡単にいえば、三国一の美人に贈られる栄誉である。気品、教養は勿論の事、さらには容貌の美しさを問われる。


「私が選ばれるなんてことないと思います」


 恥ずかしがることなく、当然のことを言う様にアリアは言った。だが。


「いいえ、貴女がきっと女神に選ばれるでしょう。……ですが、貴女が手の届かない方になってしまうのは困りますので」


 そう。女神はただ美しい娘に贈られる栄誉ではなく、神の依代とされるのだ。

 人の手の届かぬ存在として。つまり結婚をできぬ、世俗から離れた存在になるのだ。


 だが――


「困る?」

「はい、私は」





 手をひかれていつの間にかたくさんの花が咲き連ねる小さな広場を歩いていた。満開の花が咲いて美しいのに、ここには人があまりいない。

 昔、そうちょうど一年ほど前のときと同じだった。彼に手をひかれて、彼がなにを考えているのかわからなくて。


 彼がとうとつに立ち止まり、振り返る。

 

「私が貴女に一番似合う、貴女に相応しいと思う花はこれです」


――はじめて会ったときから。

 彼から贈られるのは二度目になる。白きユリエの花。

 花籠からだされたのは可憐な花束だった。今、この為に用意されたとわかる。


 君に両手いっぱいの花を。


「私にも、花を選んで頂けますか?」

「えっ……――」


 花籠の中の色とりどりの花を見る。

 濃紺と白の二つ。凛と咲く青、心癒す白。相反する二つ。彼女に渡した白い花。彼に思う青き花。視線が彷徨う。だが判断を下す前に彼の言葉に遮られる。


「この祭りには、ただ女神に感謝を伝えるという意味だけでなく、好きな方に花を捧げる――求婚の儀式でもあります」


 ただ、静かに少年は少女をみつめた。

 


「それでも貴女は、受け取ってくださいますか」



 思わず驚いて、声が出なかった。

 彼はそんな私の顔を見て、やっぱり、でも仕方ないなという顔をした。


 そして次の瞬間には、剣が抜かれた。


「ですが、これは剣に見立てた剣花。貴族階級以外の一般的な求婚方法です。ですが私は――」


 高貴なる身、貴族は典礼に則る。

 その中でも長く長く続いたこの国の最も神聖な儀式。

 私が彼に贈った彼の剣。まるで手本の様な動きで彼は、胸に剣を抱き地に膝をつく。


 一度始まってしまった誓いは、もう止めることができない。



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